第25話 私、結構あるんだけど
そこのアイスが売っているエリアで、
彼女は和弦のところまで歩み寄ってくると挨拶をしてきたのだ。
「一人で来てる感じ?」
「いや、幼馴染と」
「そうなの? でも、いないじゃん」
芽乃は周囲を見やる。
「紬は電話が来たから、今は外にいるんだよ」
「そうなんだ。じゃ、今は一人ってことね」
「そ、そうなるね」
何を言われるのか。色々と想像してしまい、変に冷や汗をかいて緊張してくる。
「この後って時間ある?」
「今日? それは無理かな」
「どうして?」
「今から家で夕食の準備とかがあるし」
「でも、まだ夕方じゃないよ? さっき昼になったばかりでしょ?」
「そうなんだけど」
和弦は少し彼女から押され気味になっていた。
この場面を紬には見られたくなかったからだ。
「私、この後暇なんだよね」
「そ、そうか」
「何も気にしない感じ?」
「別にそうじゃないけど」
「私、暇なの。だからこうしてスーパーに来てたってわけ。私さ、ちょっと君と遊びたいなぁって」
芽乃から誘惑され始めていた。
「でも」
「でも? 私と一応、遊んでくれるんだよね?」
「プリクラだっけ?」
「そうそう。覚えてくれていたのならいいんだけど。今からどう?」
彼女は和弦の反応を期待するかのように笑顔になった。
「それは遠慮しておく」
「えー、つまらないんだけど」
芽乃は体を近づけてくる。
彼女の胸らへんが、和弦の体に当たっていた。
しかも薄着という事も相まって、その柔らかい膨らみが和弦の右腕を圧迫している。
変な気持ちになってきて、公共の場なのに疚しい気分になりつつあったのだ。
「ねえ」
「な、なに?」
「私、結構、あるんだけど」
芽乃の胸が和弦の腕にさらに押し当っている。
「な、何が?」
一応、わかってはいるが、確認のために聞き返していた。
「おっぱい」
芽乃から、耳元でそう言われた。
「そ、そうか……」
「気にならない感じ? 私、結構大きいんだけどね。Eとか?」
隣にいる彼女は自分の胸の部分を触って、その大きさを和弦にだけ見せてきたのだ。
隣にいる芽乃は薄着であり、胸元の露出の激しい服装な為、谷間までしっかりと見ている。
むしろ、上から覗き込むように見れば、ほぼ見えているといっても過言ではなかった。
「今日って、結構暑いじゃない?」
芽乃は胸元の服を手で掴んで、仰ぐように動かしていた。
その度に、彼女の大事な部分が見えそうで見えない状況が続く。
「そ、そうだけど。でも、だからって、その恰好は……周りの視線は気になったりしないの?」
「私は別に気にしないけど?」
「露出が多いし」
「露出が気になるってことは、私の見えてるってことだよね?」
気恥ずかしそうに俯きがちになる和弦の様子を伺ってくる。
「……」
「変態じゃん。でも、私なら、なんでもしてあげられるけどね」
スーパーには人がいるのに、芽乃は妙に積極的だ。
意味深な言葉で誘っているのが分かる。
がしかし、こんなことで靡いていたら、浮気をしているのと同じだと思う。
「俺、もう裏切れないから。そこまで強制してくるなら、プリクラの件もなしにするけど」
「それはちょっと違うんじゃない? けど……私も悪かったわ。でも、後日に私の方から誘うかもしれないから。今日はこれで、またあとでね」
芽乃は百五十円くらいの棒状のアイスを一つだけ購入し、その場から立ち去って行くのだった。
「お待たせ」
それから数秒後、
「ん? 何かあった感じ?」
和弦が問いかけに答えなかったことで、紬から疑問がられていた。
「な、なんでもないよ」
「だったらいいんだけど、ちょっと考え事してなかった?」
「まあ、そうかもな」
和弦はさっきの事を振り返らないように、思いっきり感情を押し殺す。
ある程度、心が落ち着いてきた頃で軽く息をはいた。
「んー?」
「な、なんだよ」
「隠し事をしてるのかなって思っちゃってさ」
疑問気な瞳でかつ、ジト目な幼馴染。
和弦はふと、彼女の胸元に視線がいってしまい、首を横に動かした。
「そ、そんな事はないから。それより、さっきの電話はなんだったんだ?」
「それが、お母さんから買い物を頼まれちゃって。それで、今から店内を回って歩かないといけなくなったの。和弦も手伝ってくれるよね?」
彼女は購入する食材が記されているメモ用紙を見せてきたのだった。
「和弦の方も、今日は親が帰ってこないんだよね?」
和弦が買い物カゴを乗せたカードを押して店内を移動していると、隣を歩いている紬から寄り添われながら言われた。
「そうだね」
「じゃあ、今日は明日まで一緒にいてもいい?」
紬から提案された。
「な、なんで?」
「そんなに驚く事? だってさ、一人よりも二人でいた方がいいでしょ? それに夜まで課題も出来るし」
「そんなに課題が好きなのか?」
和弦は今日、もう課題をやりたいとは思えなかった。
「私も好きじゃないけど。でも、やっぱ、課題って一人でやってるとすぐに怠けてしまうじゃない? だからよ」
「まあ、それは共感できるな。俺も一人でやってるとすぐに怠けてしまうし」
「でしょ。それあるよね。だから、和弦も夜まで一緒にしよ」
元気な彼女の笑みを見て、もう少しやってみようと思えるようになっていた。
今年は紬と一緒に遊べる時間がある。
その時間を確保するためにも、早めに課題を終わらせるべきだろう。
その方が後々楽なのだ。
親から頼まれた食材をすべて購入し、二人は岐路についていた。
自宅に到着すると、リビングのテーブルの上で買い物袋から購入した商品である素麺の袋を取り出す。
「今日は暑いし、素麵にする?」
「その方がいいかもな」
和弦はリモコンを使い、エアコンをつけた。
「麺はゆでるだけでいいし。私一人でやってくるから待ってて」
そう言って彼女は素麺の袋を持ち、リビングへ向かって行く。
「そう言えばさ、これはどうする?」
「それは、後で私が家に持っていくから。そのままにしておいて」
紬は立ち止まり、振り返ってくれていた。
「でも、生ものも入ってるし。俺、紬の家の冷蔵庫まで入れてこようか?」
和弦は買い物袋の中身を見ながら提案した。
「別にいいよ」
「でも、ゆでるなら時間かかるし。俺、やる事ないからさ」
「んー、だったら、和弦が麺をゆでておいて。私が家に持っていくから」
彼女はリビングのテーブルまで戻って来た。
それから和弦の胸に素麺の袋を押し付けると、買い物袋を持って出て行ったのである。
和弦は一人で自宅に残り、鍋にお湯を入れて三分ほど待つ。
沸騰してきたのを見計らってから、白い線状のようなモノを入れた。
最初の内は全然鍋の中に入って行かなかったが、時間が経ち、麺が緩くなっていくと、沸騰したお湯の中へと沈んでいく。
和弦は時間が経つまで、一人でキッチンの椅子に座って待っている事にした。
五分が経過した頃には、程よい硬さになっていた。
和弦は水で冷やした素麺を皿の上に乗せ、その上に海苔を散りばめた。
後は、木製の茶碗につゆと氷を入れ、食事をする準備を終わらせたのである。
「ただいまー」
和弦が出来上がった素麺らをトレーに乗せ、リビングに持っていく途中で、紬が自宅の扉を開ける音が聞こえた。
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