第24話 その日、本音で幼馴染が話してきた
気づけば、幼馴染の
しかも、今、彼女と唇が重なっているのだ。
なぜ、こういう状況になっているのかと、目を点にしたまま、その状況を受け入れる事しかできなかった。
紬の唇は程よく温かく、それが口元に当たっているのだ。
口元には生暖かい水のようなものが流れ込んでくるようだった。
幼馴染とこうして、キスするのは人生で初めてだと思う。
でも、どうして紬がキスしようと思ったのか。その理由は定かではなく。現実離れした状況に、これは単なる夢の出来事かと思ってしまうほどだ。
それから彼女は唇を離すと、和弦に対して軽く微笑んでくれていた。
「……大丈夫だった?」
紬から優しい口調が聞こえ、それから和弦は、現実へと意識を引き戻されるのだった。
これは夢ではないと――
突然の出来事に、和弦は冷や汗をかき始め、自身の腕で額から流れてくる汗を拭った。
さっき幼馴染とキスしたのだと、まだ現実味のない出来事に困惑しながらも、軽く深呼吸をした後に、目の前で正座する幼馴染へと視線を向けた。
「私、下手だったかな?」
「え、い、いや、そうでもないけど……」
和弦は甘い口調で幼馴染から言われ、ちょっとだけ視線を逸らしてしまう。
キスした直後から見つめられると、どう対応すればいいのかわからなくなるからだ。
下手って、そんなこと全然気にしてなかったっていうか。
それどころじゃなかったって。
紬からのキスが衝撃的すぎて、上手いとかどうこうの問題ではなかった。
「で、でもさ、な、なんでキスなんて?」
「まあ、なんていうか、さっき結構汗をかいてたじゃない? それに瞼を閉じてたから大丈夫かなって」
「俺は別に大丈夫だったけど」
「でも、苦しそうだと思ったの。だからね、水の口移しとかしてみたの」
「口移し⁉」
和弦は自分の口元に手を当てた。
確かに、水が少しだけ残っている。
先ほど口内に入ってきた水は、そういう事だったのかと、今、初めて理解した。
「そ、そんなやり方をしなくても。普通に飲ませてくれれば」
「……でも」
紬の声のトーンが一段階低くなる。
彼女は不安そうな顔を浮かべていた。
「あのさ、私と、和弦って付き合ってるんだよね?」
「あ、ああ。というか、付き合ってほしいって言ったのは、紬からだろ。普通に付き合ってると思うけど」
「でもね、この頃、私の事をそこまで気にしてくれていないのかって。そう感じることがあって。だから」
「そ、そんな事はないよ。俺は普通に」
「昨日だって、
「そうかな?」
「そうだって」
「でも、それは親しそうに見えただけで、俺と六花はそういう関係じゃないから」
和弦はハッキリと言ってやった。
それは断じて違うと――
でも、考えてみれば、少し六花と馴れ馴れしかったのかもしれない。
この前の事を振り返り、和弦自身にも問題があったのだと、少しだけ反省するのだった。
「あ、あのさ」
和弦は言っておく事にした。
本当は隠しておくつもりだったが、ここで言わなければ、昨日から抱いている、このモヤモヤした感情を拭えないと思った。
「なに?」
紬は首を傾げている。
和弦がこれから何を話すのか。それに注目している表情だった。
「俺、本当は六花と付き合うかどうかの話があったんだ」
和弦はしっかりと彼女の方へ体の正面を向けて話し始める。
「やっぱり?」
「気づいてたの?」
和弦は紬の反応にハッと目を見開いた。
「気づいてたっていうか、何となくそう感じていただけ。でも、そういう話があったんだね」
「……でも、俺、断る事にしたんだ。あの時、プールから帰る直前に」
「だから、あの時に六花さんと何か会話してたの。それに六花さん、暗かったよね?」
「そ、そうだな。よく気づいてたな」
「そんなのわかるから」
ムスッとした顔をした幼馴染からジト目を向けられながらも言われる。
でも、すぐに表情をやんわりとさせ、でも、安心したから大丈夫と続けて言われていた。
「本当の事を言ってくれてありがとね、和弦」
だがしかし、やり取りの直後、目の前にいる紬は涙目になり始めていたのだ。
問題は解決したはずだと思っていたのに。
「ど、どうした、急に?」
和弦は目をハッとさせ、彼女に近づく。
もしや、紬を傷つける事を言ったのではと、内心焦っていた。
「私……不安だったの。でもね、私に対する気持ちがわかって嬉しかったから。それで」
「そうか。そういう事か」
「うん」
紬は頷き、再び笑みを見せてくれる。
「ねえ、もう一度、飲ませてあげる? 口移しで」
「それはいいよ。一人で飲むから」
和弦は拒否した。
嫌というわけではなく、紬の事を意識したまま口づけするのは緊張するからだ。
今のままでも、かなり火照ってきている。
エアコンは効き始めているが、まだ体の方が熱かった。
テーブルの方へ視線を向けると、麦茶のペットボトルが置かれてある。
その近くには、二人分のコップがあった。
「私、コップに分けるね」
そう言って、紬は麦茶を注いだコップを渡してくる。
和弦はそれを飲んで、体を冷やすのだった。
和弦は紬と勉強の合間に一緒に麦茶を飲みながら、エアコンの効いた部屋で勉強を再開する。
それから、二時間ほど勉強を続け、気づいた頃には午後一時を過ぎた頃合いになっていた。
「もうそんな時間? 和弦はどうする? お昼でも食べる?」
和弦と向き合うように正座して座っている紬はスマホを見て話しかけてきた。
テーブル前で胡坐をかいて座っている和弦はシャープペンを置き、腹をさする。
物凄く腹が減っているわけではないが、少々腹が減り始めていた。
簡単なモノでもいいから、口に含みたいと思う。
麦茶は勉強中に飲みすぎて、食べ物を中心に食べたいのである。
「でも、確か」
「どうかしたの?」
「そう言えばと思って、全然、食材がなかったはず。紬も冷蔵庫を見てきたと思うけど、全然入ってなかっただろ?」
「そうね。じゃあ、今から買いに行くとか?」
「まあ、そういう事になるな。外はまだ暑そうだけど」
正午を少し過ぎた時間帯だと、まだ暑い。
外の気温も、ほぼほぼ変わらず三〇度をキープしている状態だった。
和弦は自室の窓から見える景色を見て、ドッと肩に疲れを感じ始めていたのである。
家を後にした二人。
外の暑い洗礼を受けながらも、十分先にある近くのスーパーへと急いだ。
スーパーに入ると、生き返るほどに涼しく感じる。
さっきまでの苦しみが嘘のようだった。
「今日のお昼と、今日の夜の分も買っていく?」
二人で店内を歩きながら会話する。
紬は買い物カゴをカートに乗せて押していた。
「そうだな。その方がいいかもな。そういや、今日は親が帰ってこなかったはず。仕事の都合で」
「そうなの? じゃ、私が作ってあげよっか?」
「いいのか?」
「別にいいよ。和弦は一人で作れないでしょ?」
「そんな事はないよ。一人でも一応は出来るから」
紬から言われ、和弦は若干ムスッと顔をして反論してしまう。
「本当? じゃあ、一人で料理したのはいつ頃?」
紬からは弄られるように言われた。
「それは……一年前かも」
「じゃあ、無理かもね。今日は私の方も暇だし、夕食くらいは普通に作るから」
そんな中、スマホのバイブが鳴る。
その音は紬の私服のポケットから響いていた。
「ごめんね」
紬は電話をとり、耳に当てていた。
「お母さん、うん……今日は帰れないの? うん……え? 聞こえないんだけど」
店内の音で全然伝わってこないらしい。
「お母さんちょっと待って、少し外に出るから」
紬はスマホ越しにそう言って、買い物カゴを無言で和弦に渡してきた。
和弦は一人取り残され、一人で店内を移動する事になったのである。
そういや……アイスもなかったよな。
ふと思い、アイスコーナーへ向かう。
すると、そこには見覚えのある姿をした人がいたのである。
な、なんで、よりにもよって、こんなところに。
和弦がその場所から離れようとしたが、次の瞬間、彼女から気づかれてしまったのだ。
露出度の高い私服を身につけた
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