第22話 俺は伝えないといけない事があるんだ
その時、
プールサイドで、とある男性二人に絡まれている幼馴染がいたからだ。
今、
だから、どうしても助けたいという本能が勝っており。気づけば、和弦はプールから上がり、幼馴染の近くまで歩み寄っていたのである。
「すいません、ちょっといいですか」
和弦は自発的に話しかけた。
今の和弦は誰が相手だとしても、あまり気にはしない。
ただ、困っている幼馴染を放っておけないという感情が先行していたからだ。
それだけが頭にあり、目の前にいる男性二人から変な顔を向けられたが、その程度では動じていなかった。
「なんだ? お前」
和弦の存在に気づいた、その男性二人は和弦の事を不思議そうに見やっている。
「というかさ、何だってこと。お前はさ」
「関係ない奴は、どっかに行けよ。怪我したくなかったらな」
和弦は、二人組から邪魔だと適当に扱われていた。
再び、彼らは紬の方へ視線を向け始めていたのだ。
「ですが、その子とは一緒に来ているので。それに嫌がってると思うんですけど。わかりませんか?」
和弦は咄嗟に
「は?」
「だから、何だよ!」
二人から睨みつけられた。
嫌悪感を抱かれ始めたのである。
「お前さ。さっきの時点で身を引いていたら、俺らだって何も文句は言わなかったけどな」
「いちいち、面倒なガキだな。これは痛い目を見ないとわからないってことか」
二十代くらいの男性らから、ついには因縁をつけられ、和弦は窮地に追いやられていた。
近くにいる紬も、これ以上はよした方がいいと小声で話していたが、こんなところで引き下がれないとも感じていた。
しかし、強大な存在に、和弦は体をビクつかせていた。
少々押され気味になっていた時だった――
「おい、そこ、何かのトラブルか!」
遠くの方から、プール関係者の男性の声が聞こえた。
「ん? というか、またお前らか! 以前も他のお客からクレームが入って問題になってた奴だな」
「あ、ヤバ」
「早く逃げないと」
二人は状況を理解し、その場所から逃げ出して行ったのだ。
「大丈夫だったか?」
「はい」
駆け寄って来た男性スタッフから問いかけられ、和弦は頷いた。
「私はあいつらのところに行くから。全く、あいつらは今度こそは出禁にしないとな」
その言葉を残し、スタッフは呆れた表情で、立ち去った男性らを追いかけて行ったのである。
「さっきはありがと」
和弦は向き合っている紬から、お礼を言われていた。
「別にいいよ」
「でも、なんであんなに行動的になれたの?」
「なんていうか。なんだろうね、俺もわからないけど、本能的かもな」
和弦は照れ笑いを浮かべていた。
「そうなんだ。和弦って、そういうところもあるんだね」
「俺だって……何かあったら助けるよ。昔からの付き合いなんだからさ。それより、そろそろ昼の時間だから昼食でも食べに行く? 気分を変えて」
「そうだね」
二人で会話していると、プールから上がってきた六花が近づいてくる。
「……私も話に交ぜてください!」
六花は自分だけハブられている状況に納得がいっていなかったらしい。
強引に話に割り込んできたのである。
三人はプール施設内の飲食エリアにいた。
まだ、お昼時ではない為か、そこまで混んでいる印象はなかった。
飲食エリアには、大半水着を着用した人ばかりで、午後も泳ぐ目的でそういった姿をしているのだろう。
和弦らも、一応午後もプールを利用する目的があり、同様に水着姿だった。
周りを見渡すと、自販機が数台ほど設置されている。
その自販機で商品名が記された券を購入し、それを店員に渡すという流れになっているらしい。
近くにいる紬と六花から何を食べたいか聞きながら、和弦は財布からお金を取り出して、それぞれの券を購入した。
券には商品名の他に番号も記されてあったのだ。
その購入した券を店員に差し出すと、出来次第番号と商品名を言うから、その時にもう一回来てくれるかなと言われた。
三人で座る席を決めている最中。意外と早くに、店員から呼び出され、三人は再び向かう事になったのである。
幼馴染とは昔からの仲であり、大切な存在だと思っている。
どんな時でも助け合って、幼馴染として付き合ってきたのだ。
今さら、紬の事を裏切る事なんてできなかった。
六花の事も友達として、今後も関わっていきたいと思っている。
だからこそ、関係を崩したくなかった。
このまま、いつも通りに過ごせたらいいと、自分の中では思っていた。
早く決断しなければ、後々自分の人生を大きく苦しめる事になるだろう。
今日の昼。プール施設の飲食エリアで、三人で食事をしながら、そんな事を考えていた。
難しい顔を見せながらも、内心、真剣に考え込んでいたのである。
その日、お昼を食べ終えると、午後も少し遊んだ後、午後三時になる前に帰宅する事にしたのであった。
和弦が更衣室で着替え、ロビーに向かった際には、まだ幼馴染の姿はなかった。
ロビーのソファには六花が座っているだけ。
「寿崎先輩!」
近くまで歩み寄っていくと、六花はソファから立ち上がった。
後輩は明るい口調で話し始める。
「寿崎先輩……できればなんですけど、もう少しいませんか? この近くにおススメの場所もあるので。私、ここの近くに住んでるって言いましたよね。案内はバッチリできますから」
紬がいない為か、六花は早口で話す。
後輩はどうしても、和弦を逃がしたくないという思いがあり、それが和弦の心にも伝わってきていた。
むしろ、そんな気持ちがわかるからこそ、和弦の心も痛む。
だからと言って、すべてを後回しにするわけにはいかなかった。
和弦はそう結論づけ、目の前で佇む六花と真剣に向き合う。
今は幼馴染もいない。
話すなら、今しかないと思い、一度深呼吸した後――
「俺さ」
「寿崎先輩、一緒に遊んでくれるんですか? 私なら、寿崎先輩の事を楽しませる事も出来ると思うので。できれば夜まで。でも、状況によっては私の家に泊っても」
「それなんだけど、やっぱり、さっきの件もあるんだけど。俺、紬の事は裏切れないから」
「……そ、そうですか……寿崎先輩は私とは付き合えないんですね……」
さっきまでのテンションとは違って、六花は静かになる。
俯きがちになり、オーラが暗くなっていた。
その姿を見ていて、心苦しかった。
でも、遠まわしに断り続けるのもよくないと思う。
これで良かったのだと、自身の心に言い聞かせていたのだ。
空気が澱んできた時、紬がやって来たのである。
和弦は彼女の方へ振り返った。
「ごめん、ちょっと着替えるのに遅れて。そろそろ、帰ろっか。それと鍵は返した?」
「いや、今から返そうと思って」
紬の言葉に和弦は手にしている鍵を見せて返答した。
「六花さんは? 鍵を返したのかな?」
紬は、和弦の背後にいる彼女に問いかけていた。
俯きがちだった六花は顔を上げ、さっき返しましたと、ぎこちない笑顔で受け答えしていたのだ。
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