第14話 公園で、二人の時間
昔。
それは、二人の家から少し歩いた先にある公園である。
小学校からも近く、放課後にはブランコに乗ったりして、薄暗くなるまで過ごしていたのだ。
高校生になった今では、殆ど訪れる事はなくなっていた。
でも、今日は時間があった事で、街から家への帰宅途中に、幼馴染と一緒に立ち寄ってみることにしたのである。
二人は公園の入り口まで来ていた。
土曜日という事もあって、公園には数人の子供らがいて楽しく遊んでいる。
近くのベンチでは親同士が会話しているのだ。
和弦は、遊んでいる小学生らの姿を見、昔の自分と重ねて、その風景を眺めていた。
辺りを見渡してみると、まだ空いているベンチがあり、二人はそこまで向かって行く事になったのだ。
「久しぶりだね、ここに来るの」
「そうだな。なんか、少し雰囲気が変わったのかな?」
以前の公園は小さかった気がするが、若干広がっている気がした。
「私、お母さんから聞いたんだけど。ランニングとかを出来るように敷地を拡げたんだって」
「へえ、今時、珍しいな」
「多分、大人でも利用できるように工夫したのかも。今のご時世、子供の数も減っているしね」
「確かに、そうだよな」
和弦は考え込み、ランニングエリアを眺めていた。
今の時間帯も、数人ほどジョキングをしている人らがいたのである。
「これで、朝とかにさ、一緒に走り込みの練習が出来るね」
隣にいる彼女から肩をくっつけられながら言われた。
「それ、本気でやるつもりでいるのか?」
「そうだよ、和弦はやらないの?」
「え……起きれたら」
和弦は自信無く返答しておいた。
「じゃあ、私が起こしに行ってあげよっか」
「いいよ。そこまでしなくても」
「でも、全然運動していないようだし。それに、あと数週間もすれば、プールとかにも行く事になるでしょ? ちゃんと運動しておかないとね」
海パン姿になった時の事を思うと、殆ど筋肉がついていなかったら見た目的によろしくないと思った。
夏休み期間中は幼馴染と一緒に行動する機会が増えるのに、そんな状態では、和弦の方こそ、幼馴染と付き合っている身として、失格である。
これを機に、肉体強化のためにも、ランニングをした方がいいのかもしれない。
「わ、分かった、出来る限り、早く起きてみるよ」
「じゃあ、約束ね。明日からにする?」
「明日はさすがに」
「なんで?」
「急にだと……だったら、次の休みとかでいい?」
「別にいいけど。そうだ、来週からテスト週間だし、一緒に勉強しよ。ランニング以外の運動も一緒にすれば効率がいいでしょ?」
紬から提案された。
紬はどうかなと、目で合図を向けてくるのだ。
一人で勉強するのも、実際のところ気が乗らないと思う。
理由をつけて、誰かと一緒にやった方がいいのだろう。
和弦は彼女の意見を受け入れる事にしたのである。
「あ、そうだ、これ食べる?」
和弦は、隣に座っている紬からお菓子を渡される。
それは板チョコだった。
「さっき、コンビニで買ってきた奴なんだよね」
「ありがと」
和弦は板チョコを受け取り、紙を剥す。
茶色と黒色のチョコが顔を見せるのだ。
「やっぱ、チョコっていったら、板チョコだよね。今でも百円くらいだし、手ごろだからねー」
昔から変わっていない商品もある。
和弦も昔から、この手のチョコは好きだった。
幼馴染と小学生の時に、通学路の途中にあった駄菓子屋に立ち寄って購入していたような気がする。
「そういや、昔よく行っていた駄菓子屋ってどうなった?」
「あー、確かね、閉めてた気がする」
「え、そうなの?」
「そうなんだよねー、時代かもね。昔はよく買っていたお店だったんだけどね。コンビニが主流だし、それにスーパーだともっと手ごろに買えちゃうしね」
紬も残念そうに、ため息交じりの口調で話す。
時代の経過というのは恐ろしいものだ。
和弦は板チョコの先端部分を見た後、それを食べる。
「やっぱ、変わらない味だな」
「そうだね。それも懐かしく感じられるからいいかもね。でも、何か、昔の事ばかりで、私たちちょっと老人臭いね」
「俺らはまだ高校生なのにな」
まだ、人生はこれからなのだ。
「和弦って、夏休みは何をする予定? プールの他に」
「そうだな。漫画を買いに行こうかなって」
「また、漫画?」
「うん。やっぱ、今年は、漫画のイベントが近くで開催されるらしいから、行こうかなって」
「近く? 地元の街で?」
「いや、電車で一時間くらいのところ」
「それ、近くっていうの?」
「え? 近くない? 一時間くらいだったら」
「私からしたら、結構遠く感じるけどね。まあ、そんなに漫画が好きなら、気にならないのかもね」
紬は呆れ口調になっていた。
「あ、そういえば、漫画で思い出したけど、和弦って、イラストは今も書いてるの?」
「イラストは描いてないけど」
「そうなんだ、私、もう一回、描いているところを見てみたいんだけど」
「いや、俺は」
「私、もう一回見たいなぁ、私の事を書いてよ。記念にしたいし。それに来週からテスト週間になるし、勉強の合間でもいいから、ね」
紬から懇願された。
その時、彼女の胸元が視界に映る。
卑猥なことを考えてしまい、少々頬を赤らめてしまっていた。
変態的な思考回路を抑制し、和弦は深呼吸をする。
紬と付き合ってから、色々な経験をさせてもらっているのだ。
お礼として、一枚くらいは描いてみようと思うのだった。
決して、疚しい気持ちで引き受けるわけではない。
決して―――……
今思えば、昔は色々なことがあった。
毎日が楽しかったと思う。
小学生の頃は、特に将来の事も殆ど考えることなく、その日の事や明日の事だけを考えて生活しているだけでよかった。
あの頃は幼馴染とも、友達のような関係性だったのだ。
でも、今はそうはいかない。
高校二年生にもなったら、将来の事も考えて生活していかないといけないのだ。
将来を見据え、好きな人を決める必要がある。
現在進行形で好意を抱いている、幼馴染の事を意識し始めたきっかけは、一緒にいる時間が長く、一緒に遊ぶことも多く、会話しやすかったからである。
それと、彼女の笑顔が魅力的に、その時から見えていたからだ。
もし、紬が幼馴染ではなかった場合、違う人を好きになっていたかもしれない。
逆に考えれば、紬と一緒になれたのは、もう運命なのだろう。
芽乃からも問われていた事だが、紬に対する自身の想いが単純なのかもしれない。
でも、だからといって、幼馴染に対する想いを諦めようとは思わなかった。
幼馴染の方から誘ってきて、ようやく付き合えているのだ。
むしろ、ここからが勝負なのである。
他人になんと言われようとも、和弦は今年の夏休み中には、幼馴染の紬に対して自分から告白しようと決意を固め始めるのだった。
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