第5話 彼女との放課後
高校生の二人は放課後の今、街中にいる。
アーケード街の通りにある書店内にいる寿崎和弦は、隣にいる紬から質問攻めにあっていた。
「それって、和弦が好きな作品?」
「そ、そうだけど」
和弦は、少々際どい漫画の表紙が彼女の視線に入らないように隠す。
さすがにこの漫画の表紙は見られてはいけないと必死だった。
「ふ~ん、そういうの読むんだね」
「別にいいだろ。というか、紬はどうなんだよ」
和弦は強引にも話題を逸らそうとする。
「私の方はすでに決まってるから。それより、どういう内容の漫画なの? 気になるんだけど」
「え?」
「もっと、その漫画の事について詳しく知りたいなぁって」
「あまり見ない方がいいと思うよ」
「どうして?」
「内容が色々で」
「逆に見てみたいんだけど」
「でもさ、後悔しても責任はとれないし」
和弦は何度も彼女からの戦略を回避するように立ち回るが、紬はその上を常に行くのだ。
「私はその作品の事を知りたいし。和弦の好きな作品を共有したいの!」
優木紬は興味津々なようで、目を輝かせている。
「いや、でも」
「いいじゃん。私が今から買う小説も貸してあげるから」
紬は上目遣いで、どうかなと提案してくる。
彼女の、その仕草にドキッとしてしまい、後ずさってしまう。
「い、いいけどさ。後悔しても責任はとらないからな」
和弦は何度も忠告するように言い、ある程度話に決着をつけた後。紬の横を素通りして、強引にレジカウンターまで向かって行く事にした。
「私も一緒に購入していい?」
「ダメだ。この漫画は後で見せるから」
「えー、表紙くらいいいじゃん。さっきチラッと見えたけど、結構露出度高くなかった?」
「だ、だから、そう言われるから、あまり見せたくないんだよ」
和弦は緊張したまま返事を返す。
すでに、彼女に表紙を目撃されていると思うと胸元が熱くなってくる。
一刻も早く、この環境から離脱したいとさえ思うのだった。
最終的に、二人は個別に会計を終わらせる事となった。
その後で店から出て、アーケード街の通りを歩く。
紬と一緒に歩いていると物凄く緊張する。
和弦が彼女の事を変に意識してしまうからだ。
「ね、さっきの漫画を見せてよ」
「ここではさすがに無理だろ」
周りの視線もある。
そもそも、歩きながら漫画を読むのはよくない。
今回の漫画には特典として重要なポストカードがついてきているのだ。
万が一、それを地面に落としてしまったら大変な事になる。
「えー、じゃあ、この近くに喫茶店があるし、そこでは?」
「無理」
「なんでよ、もう」
「逆に、なんでそんなに見たいんだよ」
「だって、気になるしー、私を焦らさないでよー」
紬は不満げに頬を膨らませていた。
その直後、彼女の肩が和弦の腕に当たる。
彼女との距離が縮まり、和弦は動揺してしまっていた。
なに、変に意識してんだよ、俺さ。
紬の事は好きだけど。
さすがに、この頃、距離が近すぎる気がするんだが。
「そうだ、近くに漫画喫茶もあるし、そこでならいい?」
「それも無理だから」
「じゃあ、どこならいいの?」
「家ならいいけど」
「じゃあさ、じゃあさ、私の家に来ない? 久しぶりに」
紬はさらに距離を詰めてきて、しまいには彼女の胸が和弦の腕に当たるのだ。
「つ、紬の家に?」
紬との卑猥な事を妄想してしまい、首を振る。
な、なんで、変な事を考えてるんだよ。
さすがにそういう関係になるのは早いと思う。
まだ、付き合ってから一日しか経っていないからだ。
和弦は頬を紅潮させ、無言になってしまう。
「どうしたのかな? 顔赤いよ?」
「な、なんでもないし」
「そう? でもさ、大丈夫なら私の家に来なよ。家も近いし、遅くなってもすぐに帰れるでしょ?」
紬から甘い口調で、耳元で囁かれるのだった。
和弦はアーケード街から大分離れ、彼女の家へと向かっている最中だった。
その途中で彼女とコンビニに立ち寄り、ポテチのようなお菓子や、一ℓくらいの飲み物を購入したのである。
コンビニから徒歩で五分ほど歩いた先に、彼女の家があるのだ。
「さ、入って」
和弦は彼女に言われるがまま玄関先に入る。
久しぶりに彼女の家に入ってみたのだが、玄関先から見える光景を見ても、中学の頃訪れた時と、そこまで大幅に変わっている様子はなかった。
逆に言えば、実家のような安心があり、和弦は自然体のまま、靴を脱いで家に上がる。
「私の部屋は変わってないから」
「階段を上ったすぐ近くって事?」
「そうそう。先に行ってていいから。でも、変な事はしないでね」
「わ、わかってる。そんなことしないから。それと、俺、コンビニで購入した物は持っていくから」
「ありがと。まあ、一応、忠告しておいただけ。私はコップを持ってから行くから」
紬は悪戯っぽく言い、背を向けてキッチンの方へ行く。
和弦の方は、久しぶりの光景を思い出しながらも、近くの階段を上って行くのだった。
階段を上り切り、彼女の部屋の前に到着する。
和弦は一応ノックしてから入る事にした。
扉の、その先には紬が普段から過ごしているであろう光景があった。
最初に視界に入ってきたのは紬彼女のベッドだった。
ベッドの上には、可愛らしいぬいぐるみがある。
見た目からして、ネコのようなぬいぐるみだと思う。
その猫は仰向けで寝ているような態勢で、瞼を瞑っているのだ。
「こんな感じになってるのか」
和弦は一歩踏み出し、入り込む。
勉強机や、その左隣には大きな本棚があった。
昔はなかったはずだ。
本棚を見てみると、本がびっしりと置かれてあった。
よくよく確認すると、殆どが活字だらけの本ばかり。
高校生になってから読むようになったのだろうか。
中学生の頃から、彼女は休み時間に本を読んでいた印象は少しあったが、今では趣味になっているとは驚きだった。
「まあ、立っているのも変だし、どっかに座るか」
そう思って、和弦は通学用のリュックとコンビニ袋を床に置き、その場に座る。
「それにしてもいい匂いがするな」
何かの香水なのか。
華のような匂いがする。
途轍もなくいい匂いだ。
「というか、変な妄想はしちゃダメだよな」
和弦は慌てて表情を整えた。
真面目な顔つきになり、紬が来るのを待つことにしたのである。
「……なんか、遅いな。コップを取ってくるだけで、そんなに時間がかかるモノなのか?」
首を傾げた。
一階に戻ってみようと思い、立ち上がるのだが、丁度そのタイミングで扉の先から彼女が現れたのだ。
「ごめん、ちょっと手こずってて」
「なにを、そんなに?」
「全部使用済みのコップばかりで、全部洗ってたら遅れちゃった。ごめんね」
紬は可愛らしく言い、部屋にあるテーブルにコップを二つ置くのだった。
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