脱獄囚、異世界に転生する

大木功矢

第1話 変えられない運命

 「所長! 死刑囚の三好和正みよしかずまさが脱獄しました!」

 「な、なんだと!?」

 「至急、直ちに増援を要請しろ! そして民間に警告を出せ!」

 「了解しました!」


 刑務所全体が震撼する。

 大量殺人を犯した極悪人である三好和正が脱獄してしまった。早く彼を捕まえなければ、民間に被害が出る恐れがある。

 

 三好和正は刑務所の1階にある男子トイレに身を潜めていた。もう警報が鳴っている。相変わらず対応が速いな。


 自分が収監されている檻から抜け出して、まだ1分ほどしか経っていない。


 だが、俺は脱獄を諦めるわけにはいかない。俺はこの刑務所に収容されている犯罪者たちとは違う。


 だって、俺は誰一人殺していないのだから。


 想定より対応が速いせいで計画が狂ってしまった。おそらく、警官たちは刑務所を徹底的に調べてくるだろう。


 プー、プー、プーと刑務所に放送音が鳴り響く。


 【脱獄している三好和正は死刑囚なので発見次第、射殺して構わない。もう一度繰り返す。脱獄している三好和正は死刑囚なので射殺して構わない】


 国民の安全を最優先にした結果だろう。警察的には死刑囚が民間人が殺されでもしたら、自分たちの信頼を大きく失うことになる。

 

 だとしたら、こんな所で立ち止まっている場合ではない。見つかったら即ゲームオーバー。


 ひとまず、刑務所内に設置してあるブレーカーを壊さないといけない。防犯カメラに映ってしまえば、自分の位置が警官全員に知られてしまう。


 ブレーカーは管理室に設置してある。管理室は自分のいる男子トイレから3つ隣にある部屋なのだが――あまりにも気が遠くなる。


 でも、そんな悠長なことは言ってられない。遅かれ早かれ俺は殺される運命なのだ。


 そして、俺の命が助かる道は脱獄する以外ない。俺は男子トイレから勢いよく飛び出し、管理室に向かって全速力で走る。


 当然ながら、俺は管理室の鍵を所持している訳がないので強行突破で部屋の中に侵入する。

 

 とりあえず、ブレーカーがある位置が分からなかったので全部のスイッチをオフに切り替える。


 その瞬間、部屋全体が真っ暗になる。

 作戦成功である。これで防犯カメラに見つかったとしても、他の警官に連絡できる手段はなくなった。


 そして肝心な問題はどこから脱獄するかである。どうせ正面玄関には厳重な警備をしかれている。


 となれば、刑務所を囲っている何メートルものコンクリートの壁をよじ登らないといけない。


 小さな希望でしかない。そんな僅かな希望を胸に俺は管理室を後にしようとすると――


 管理室の外で大勢の警官が懐中電灯をこちらに照らし銃先を自分に向けていた。


 「最後に言い残す言葉は?」


 俺の僅かな希望は儚く消えてしまった。

 彼らに躊躇いなどない。相手からしてみれば、俺は大量殺人を犯した極悪人なのだから。


 「何回も言いましたけど――犯人は別にいる。俺を殺したり死刑にしたところで実際に殺された人たちは報われない」

 「いや、この瞬間亡くなった人間は報われる」


 結局、最後まで俺の言葉を信じてくれることはなかった。そして、銃口から火花が飛び散り弾丸が首、胸、腕、足と至る所を貫通していく。


 激痛を感じることはなく死に至った。こんな人生を送る予定はなかった。


 どこで道を間違えた?

 どうすればよかった?

 

 そんなことを考えたところで時は遅かった。呼吸は止まり脳と心臓の機能は停止し、不幸な人生に終わりを告げた。

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