第16話  休日前夜!

「おはようございます」

「おはようございます」

「昨日は僕が休みでしたが特に何もありませんでしたか?」

「何も無かったですよ」

「僕が休みの日は羽田が担当していますが、羽田はレイナさんから見てどうですか?」

「とてもタイプです」

「え?」


 僕は急ブレーキを踏んでしまった。


「冗談です」


 レイナは笑っている。 


「やめてくださいよ」

「神崎さんってとてもわかりやすいですね」

「わかりやすいですよ」

「ところで、その大きなマスクは何ですか?」

「風邪をひいたんです」

「どうして風邪を?」

「滝に打たれてみたんです」

「滝?」

「滝ですよ、滝」

「なんで滝に?」

「精神修行です」

「何があったんですか?」

「滝に打たれたんです」


 レイナがまた笑う。


「で、羽田はどうなんですか?」

「大丈夫です、タイプじゃありません」

「良かった。安心しました」


 それからしばらくの間は何事も無く過ごせた。

 僕は巻物を読みながら忍術修行をした。

 正直“アラフォーから始めても無理じゃないか?”と思った。

 若い内にしか出来ないこともあるということを思い知った。



 そんな或る日。


「神崎さん」


 本物のマネージャーに呼び止められた。


「何でしょう?」

「明日は久しぶりにレイナは休みなんです」

「そうなんですか? 最近休みも無かったですもんね。良かったですね」

「そこで神崎さんにお願いがあるんですが」

「何でしょうか?」

「レイナを休日も守ってくださるんですよね」

「はい。外出の時とか」

「じゃあ、楽しいところに連れて行ってあげてください」

「え?」

「ストーカー被害のせいで彼女は疲れていますから」

「はい」

「気分転換をさせてあげてください」

「わかりました」

「お願いしますよ」

「はい」


 車の中、どう話を進めようかと思っていると、


「私、明日は久しぶりの休日なんです」


 レイナの方から話しかけてきた。


「どうやって過ごすんですか?」

「お昼くらいまでグッスリ寝たいです。目が覚めてもゴロゴロしたいです」

「いいですね」

「午後はお出かけしたいです」

「どこに行くんですか?」

「神崎さんなら何処へ連れて行ってくれますか?」

「僕ですか?」

「はい」

「テーマパークとか」

「いいですね」

「気分転換には良いかと」

「じゃあ、テーマパークに連れて行ってくれますか?」

「僕と一緒でいいんですか?」

「はい」

「嬉しいです。行きましょう」

「はい。神崎さん」

「はい」

「これってデートですよ」

「やったー!」



 僕が素直に喜ぶと、レイナは楽しそうに笑っていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る