第11話  打ち合わせ!

 翌日の晩、僕とレイナは崔梨遙達と食事をした。


 崔の思い通り、彼のアニメと実写映画の主題歌はレイナが歌うことになった。


「イメージで言うと、実写の浪速区紳士録はすでにある“怪物”という曲の雰囲気で…」


 なるほど。きっと僕でもそう思うだろう。


「アニメーションのファーストファンタジーはオープニングが“魂”エンディングが“虹”みたいな…」


 畜生。どこまで僕は彼と似ているのだろうか? まだ33歳のくせに生意気な野郎だ。僕は崔にウンザリしていた。


「イメージには合いそうですね」


 レイナが言った。


「原作をよんでくれたんですか?」


 と、崔。


「はい。読みました。力作だと思います」

「それは嬉しいなぁ。今度、食事でもいかがですか?」


 崔は興奮していた。


「レイナが主題歌を歌うことに決まりましたが、あくまでビジネスですので……」


 僕が崔の出鼻をくじいた。


「失礼しました。長年ファンをやっていますのでつい公私混同するところでした」

「気をつけてください」


 僕が言うと、


「少しくらいいいじゃありませんか」


 レイナが言った。


「いいんですか?」


 崔が息を吹き返した。僕は凹んだ。


「神崎さんも僕の小説を読んでくださっているのですか?」

「はい」

「浪速区紳士録はいかがでしたか?」

「僕もディープな街で育っているので、特に新鮮さは感じませんでした。共感は出来ましたが」

「そうなんですか? ディープな街に?」

「はい。崔さんと似た景色を見て育ちましたよ」

「じゃあ、ファーストファンタジーは?」

「ハーレムエンドは男の夢かもしれませんね。僕は一途な方がいいですけど」

「そうなんですよ。僕もハーレムストーリーにするか純愛にするか迷いました」


 崔が僕に話しかけてくる理由はわかっていた。

 “将を射んとするならば馬から”邪魔者の僕を攻略してレイナに再度アプローチするつもりだ。


 レイナがニコニコしている。


「レイナさん、ご機嫌のようですね」


 僕が言った。


「お歌を歌えることが決まったからです」

「歌が好きですものね」

「はい。お歌を歌って暮らせたらそれで幸せです」

「そんなレイナさんが大好きです」


 と、崔。


「崔さん、お仕事中ですよ」


 と、僕。


「歌手として好きなんですよ」


 崔が笑った。笑ってんじゃねーよ。

 

 だが、いかに嫌な時間でも、必ず終わりが来る。

 やがて打ち合わせは終わった。


「ノリノリでしたね」


 車の中で僕が言った。


「仕事が決まって嬉しくて」

「崔は帰りにまた名刺を渡してきましたね」

「はい。前回もらったと言ったのですが、“何枚でもお渡しします”と言うもので」

「何か囁かれていましたよね?」

「はい」

「何と言われましたか?」

「“気が向いたら連絡ください”と」

「えー?」

「神崎さん。私のマンションです」

「はい」

「コーヒーを飲んで行きませんか?」 

「作戦会議ですか?」


 レイナは笑って、



「はい。作戦会議です」







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