第10話  イベントでは大活躍!

 僕は今日もレイナを車で迎えに行った。

 よく観察しなければわからない程度にレイナは機嫌が良かった。


「楽しそうですね」

「そう見えますか?」

「僕はレイナさんのちょっとした表情でわかりますから」

「神崎さんに嘘は言えませんね」

「嘘を言ってくれてもいいですよ。見破るだけですけど」

「どうして機嫌がいいんですか?」

「何故だと思いますか?」

「昨日の崔梨遙の件だと思います」

「当たりです」

「うわー!ダメですよ、彼は」」

「違いますよ」

「違う?」

「崔さんの件でムキになる神崎さんが面白いんです」

「え?どういうことでしょうか?」

「いつもクールな神崎さんがあんなに感情的になっていたのが楽しくて」

「ああ、そういうことですか」

「すみません。安心してください」

「はい…」



 この日は嫌な握手会&サイン会だった。

 また僕は男共を睨み続ける。

 また困った客が来た。

 規定時間を過ぎてもレイナの手を握りしめて放さない。

 次第に“付き合ってくれ”“結婚してくれ”などと言いだし始めた。

 もう、限界。他のお客様にも迷惑だし、早くレイナを解放してあげたい。


「お客様、もうそのへんで」


 僕はそいつの腕を掴んでねじり上げた。


「邪魔するな」


 そいつはナイフを出してきた。

 だが、僕はボディガード、それくらいのことでは引かない。

 ナイフを持つ手をねじり上げるとナイフがコンクリートの上に落ちた。

 すかさず取り押さえる。

 スタッフや警備員などがやってきて僕は手を放した。

 そしてまた、目立たないようにレイナの側に控えた。



「今日も助けられました」

「いえいえ、仕事ですから」

「ありがとうございました」

「ご無事で何よりです」

「神崎さんがいるから安心です」

「それなら良かったです」

「今日の男の人が脅迫犯でしょうか?」

「今日の男、あいつが手紙やネットで脅迫している奴かと思ったのですが…違いました」

「じゃあ、まだ続くのですね」

「必ず守ります」

「脅迫はもうやめてほしいです」

「……すみません、もう少し待ってください」

「……はい」

「明日、また崔梨遙と会うんですね?」

「はい。お仕事を引き受けることになりましたから」

「僕はそっちも心配です」


 レイナが笑ってくれた。


「笑い事じゃ無いですよ」


 僕は頭を抱えた。


「崔さんは神崎さんのことをよく知っているんですか?」

「それは無いです」

「神崎さんの方は一方的に知っているのですか?」

「はい。彼の人生についておおむね語れますよ」

「親友?」

「絶対に違います」

「不思議な関係ですね」

「いつか全てを話しますけど、彼にはご用心を」

「はい」



 レイナはいつも通り素直だ。







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