第9話  燃える、ライバル意識!

 翌日、いつも通り僕はレイナを車で迎えに行った。

 いつも通りレイナを乗せる。


「じゃあ、行きますよ」


 レイナの目は充血していた。


「寝不足ですか?」

「はい」

「昨日買った本ですか?」

「はい。ファーストファンタジーは読みました」

「睡眠不足は大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「作品はおもしろかったですか?」

「はい。続編のセカンドファンタジーという作品もあるんですね」

「主人公がレンの娘になるんですよ」

「そうなんですか」

「ファーストファンタジーはいかがでした?」

「読みやすいので一気に読めました」

「あまり感動はしないでしょ?」

「そうかもしれませんが、感動する部分もありましたよ」

「そうなんですか」

「共感できる部分と共感出来ない部分、両方がありました」

「最終的におもしろかったですか?」

「私はおもしろいと思いました」

「そうですか」


 僕は複雑な気分だった。褒められてなんだか嬉しい。でも、今評価されているのは僕ではない。


 この世界の崔梨遙だ。でも、彼は僕でもある。僕を褒めてくれるのは嬉しいのだが…。


 僕は自分に、崔梨遙に嫉妬していた。

 思わぬライバルだ。


 しかもこのままだとこちらが不利だ。

 向こうの方が若い。年収もかなり良いかもしれない。

 向こうは禿げかけてもいない。中年太りでもない。体重は58キロのはずだ。

 僕が勝っているのは身長だけだ。崔梨遙は169センチしかないはずだ。

 レイナが崔を選ぶことはあるのだろうか?


 考えていると鬱になってきた。


「元気ないですね」


 レイナから言われた。


「いえいえ、元気ですけど」

「また崔さんのことを考えているのですか?」

「はい」

「そんなに嫌いですか?」

「諸事情ありまして…」

「また諸事情ですか?」

「それは機会があればお話しますけど…」

「ハッキリ言って欲しいです」

「崔さんにレイナさんをとられたくない! それが僕の正直な感想です」

「大丈夫ですよ」

「そうでしょうか?」

「そうですよ」

「奴は女性の心の隙間に入り込むのが得意だから心配です」

「遊び人ですか?」

「遊び人ではないのですが…」

「悪い人ですか?」

「悪い人ではないですけどやめた方がいいです」

「そうなんですか?」

「はい!」

「あ、断言しましたね」

「あくまで個人的な意見ですが」

「わかりました。気をつけますね」

「奴の悪い点は、悪気が無いことです。しかもバカ正直なんです。それを女性は“純粋な愛”と受け取るんです」

「正直で悪気が無くて純粋…それって良いことではないですか?」

「違います。ただの天然です」

「でも一途みたいですね」

「一途ですけど、彼は何回も恋愛で失敗しているんですよ」

「33歳で独身ですからね」

「彼は女性を幸せに出来ないし、彼自身が幸福に浸れることも無いんです」

「どういうことでしょうか?」

「表現が難しいんです」

「とりあえず気をつけたらいいんですね」

「そうです。ご注意ください」

「はい」


 まさか自分と1人の女性を取り合うとは思わなかった。

 


 今は誘いに乗らないようにレイナを信じるしかなかった。







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