第6話  アクシデント!

 翌日、いつも通りマンションまでレイナを迎えに行った。

 車を停めて少しすると、レイナがマンションから出て来た。


「おはようございます」

「おはようございます」

「昨夜はどうも」

「ありがとうございました」

「すみません、つまらない話ばかりしてしまって」

「こちらこそ、楽しいお話を沢山ありがとうございました」

「楽しかったですか?」

「楽しかったです」

「それなら嬉しいです」

「神崎さんって不思議な人ですね」

「そうですか?」

「ええ。でも、良い意味で不思議です」

「そんなに神秘的ですか?」

「はい」

「嬉しいなぁ、今日は幸せな気分で眠れそうです」

「大袈裟ですね」

「大袈裟じゃないですよ、レイナさんの存在が僕の幸せですから」

「ありがとうございます」

「今日はライブですね」

「そうなんです」

「僕が後ろから見張っているので安心してください」

「いつも安心していますよ」


 いつまでも目的地に着いてほしくなかった。ずっと話していたかった。

 だが、やはり目的地の会場まで着いてしまう。


 打ち合わせ、リハーサル…。夜のライブに向けて順調に進行していく。


 退屈だ。


 レイナと話がしたい。

 レイナと交際したい。

 レイナと結婚したい…。


 そして本番。僕は幕の袖という特等席でライブを堪能できた。

 実は、命を狙われているならライブは危険だ。

 レイナには話さなかったが、僕はいつも以上に周囲を監視した。


 何も起こらず、ライブが終わった。


 そこで僕は違和感を感じている。

 レイナの頭上の照明。他と比べて多きく揺れている。

 僕は考えるよりも先に動いた。


 レイナの袖を引っ張る。

 頭上から照明が落ちてくる。

 僕は倒れたレイナの上に覆い被さった。


 照明は僕の背中に落ちてきた。

 ちょっとだけ騒動になった。

 騒ぐファン。騒ぐスタッフ。

 僕はレイナの無事を知っているから落ち着いていた。

 慌てて幕が降りた。


「神崎さん」

「レイナ」

「無事か?」

「レイナは無事だな?」


 声が飛び交う。


「レイナさん、ご無事ですよね」

「はい。神崎さん、ありがとうございます」

「無事で良かった」

「神崎さんは大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫です」

「神崎さん、ありがとうございました」

「いえ、仕事ですから」

「まさかこんなことになるなんて」

「ですが、犯人は照明に細工が出来る人物、限られてくるんじゃないですか?」

「そうですね」

「とりあえずスタッフを帰さないで警察を呼びましょう」

「そうですね、わかりました」


 気が付くとレイナが僕にしがみついていた。


「どうしたんですか?」

「怖くて」


 少し迷ったが、僕もレイナを抱き締めた。


「少し落ち着きましたか?」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、ゆっくり立ちましょうか?」

「はい」


 僕はレイナの手をとって立たせた。


「とにかく落ち着いてください」


 レイナは頷いた。


「僕は側にいますから」

「頼もしいです」

「照明が囮で、騒動になってからレイナさんに危害を加える可能性もありますので」

「なるほど。まだ安心は出来ないんですね」

「いえ、安心できますよ」

「どうしてですか?」

「僕がいるからです」

「はい!」



 レイナが嬉しそうに言った。







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