第5話  レイナの部家!

 レイナのマンションの駐車場に車を停めて、レイナと一緒に車を降りる。


「いやぁ、まさかお宅にお邪魔できる日が来るとは思っていませんでした」

「写真をとられたらどうしましょう」

「責任をとって僕が幸せにします」


 レイナが笑った。……笑われてしまった。


 エレベーターで最上階へ。

 最上階は1部屋が広いから部屋数が極端に少ない。

 数少ない1室の鍵をレイナが開けた。指紋認証式だった。


「遠慮しないで入ってくださいね」

「失礼します」

「コーヒー淹れますね」

「ありがとうございます」

「座ってください」

「はい、失礼します」 


 僕は人生で1番の緊張感を味わっていた。風俗の待合室よりも緊張する。


「はい、どうぞ」


 コーヒーをテーブルに置いて、レイナが僕の向かい側に座った。

 大好きなレイナの顔が目の前にある。綺麗。かわいい。見ていて照れてしまう。


「どうしたんですか?」

「向かい合う事って少なかったので照れているんです」


 レイナが少し笑った。…また笑われてしまった。


「私を見て照れるんですか?」

「ええ、大ファンですから」

「ありがとうございます」

「本当に綺麗だしかわいいですね」

「ありがとうございます。改まって言われるとこちらも照れます」

「でも、今日の変なファンにはビックリしましたね」

「そうですね、怖かったです」

「規定時間をとっくに過ぎているのに離れませんでしたからね」

「ずっと私の手を触っていました」

「そうそう、許せませんね」

「“僕と結婚してください!”って愛の言葉を囁かれました」


 レイナが苦笑した。


「あんな奴は成敗しないといけませんよね」

「そうですね、ルールは守ってほしいですね」

「神崎さんはいつ頃から私のファンなんですか?」

「デビューしてスグからです」

「そうなんですか?」

「はい、最初は歌を聴いて、歌と声がいいなぁと思いました」

「そうなんですか」

「その後、顔やお姿を見て惚れました。レイナさんは僕の理想なんです」

「ありがとうございます」

「レイナさんは僕が守ります」

「期待しています」

「期待してもらえるって嬉しいですね」

「信じています、神崎さんならって」

「僕がいたら少しは安心しますか?」

「勿論、安心していますよ」

「良かった」


「コーヒー飲まないんですか?」

「猫舌だから冷ましていたんです。そろそろ飲もうかな」


 途端にカップがカチャカチャ鳴った。緊張で手が震えているのだ。


「あ、緊張して手が震えています」


 レイナがまた笑った。


「意外ですね」

「よく言われます」

「神崎さんのイメージが変わってきました」

「良い方に変わりましたか?」

「はい。良い方に変わりました」

「それなら良かったです」

「はい。安心してください」

「レイナさんの出演した番組も一通りチェックしてるんですよ」

「そうなんですか?」

「インタビューも観ました」

「どのインタビューですか?」

「小声のインタビューとかです。でも、歌にかける静かな情熱を感じられました」

「それなら良かったです」

「レイナさんの歌を聴くと元気になれるんです」



 夜は長い。







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