第21話 四大高嶺花・アース=妖精鈴
『ぜぇ……ぜぇ……ちょ、待って』
「ここに大きな魔力を感じます。ここからは慎重に行動しますよ」
リリーの言葉を華麗にスルーし、<常時魔力感知>で魔岩の位置を特定する。
『食後の運動には辛すぎんだっつーの』
「では、これからの晩飯は抜きという形で………」
『ち、違う!そーゆー訳じゃないんっすよユーリさん?だから飯だけはどうか……』
きゅるんとつぶらな瞳で精神攻撃(?)を掛けてくるリリーに、溜息を付く。
「では、今回は特別に許しましょう。ただし、次はありませんからね?」
『同じ過ちは二度繰り返さない女なんで』
ふんっと鼻を高くするリリー。
それを冷やかな目で見つめる。
もう正直、リリーの鼻笑いには呆れてきたもんだよ………。
「ん?」
『………どーしたんだよ?』
「………静かに」
『………?』
と、いつも以上に口を尖らせるリリー。
だけれど、今はリリーに構っている暇は無い。
くっ………間に合わなかったか。
「何者かに包囲されました。一旦撤退しますよ」
さっと最低限物音を立てずに茂みへ飛び込む。
私の魔力感知を搔い潜った………という事は、やはり同一人物の仕業か。
「<
念の為に結界を張っておくも、破砕系や斬撃系なら一撃で破られてしまう為、
ただの時間稼ぎに過ぎない。
「この茂みを抜けると、確か教会跡地があります。そちらに到着してから戦闘開始
です!」
『な、なんか状況がよく分からないけど、まあOK!』
おーけー?とか言う言葉は理解できないけど、お貴族様の得意分野〈察知〉で、
曖昧であるが何とか理解できる。
というよりか、なぜ相手からは少しの殺気も感じられないんだ?
今も背後に膨大な魔力を感じるが、この至近距離ならばそれと同時に魔力に籠っている殺気が感じられるはずだ。
だけれど、周囲からは私達に対する殺気は少したりとも感じられない。
反撃をしている時点で、少しの殺気がある事には間違いないはずだけれど………。
茂みの奥から溢れ出る陽の光に、まるで吸い込まれるように足が進む。
ガサッ
茂みを抜けると同時、リリーに顔を向ける。
「作戦通り、いきますよ」
『わかってる』
そう言い終えた瞬時、二人同時に背後に振り向く。
「<
相手を老化状態にするも、あまり手応えを感じられない。
だとすれば、状態異常特化の防御魔法か状態異常無効化を所持している可能性が
高いな………。
困った………状態異常が効かないのであれば、使える魔法が限られてくる。
<
エフェクトを付与させた剣をテレポして持ってくるとしても、集団攻撃には尖っているから………。
となれば、もう確定敗北したのと変わりはないのか?
段々と近づいて来る魔力感知の反応に、思わず足が竦む。
サッ
空気が裂けるような音と同時に、風が目の前を横切った。
いいや。風じゃない。
これは………。
「もうやめにしなさい」
落ち着いているが、何処か凛々しさを感じる女性の声が、辺りに響き渡る。
すると、その声を聞いた直後、まるで洗脳されたかのように体が固まる。
目の前には、声の主であろう半透明の女性の姿があった。
その女性の容姿は、一目見ただけで誰もを魅了させるような、ライムグリーンの艶やかな髪に、彼女の暖かさが溢れ出すようなハニーの瞳。
その美貌に、女の私が惚れそうになる。
しかし容姿がなんであれ、彼女は只者ではないのは確かだ。
この魔法操作は、確実に人間の魔法技術を上回っている。
まるで体がびくともしない………。よほど強度な魔法なのだろう。
私は状態異常に耐性があるため、運よく首上までは動かせられたけれど………
耐性も何も、魔法を使えないリリーは完全に体が硬化しているに違いない。
冷静に辺りを見回し、リリーを探る。
………も、一向にそれらしき姿が見つからない。
『おのれボケェェエ‼』
突如、怒声を上げながら茂みから飛び出してきたのは、白いふさふさの毛に、コバルトブルーのつぶらな瞳。
誰がどう見たって、リリーとしか言いようがない。
「あら、一人だけ魔法が効いていなかったかしら。まあいいわ。元々、私は戦闘の為にあなた方をここへ連れてきた訳ではないですので」
「それはどういう意味で………?」
半信半疑で、女性に問い掛ける。
すると女性は返答はせず、こちらへどうぞ、と私達を案内した。
いつの間にか魔法は解けており、手足も自由に動かせるようになっていた。
リリーと合流した後、女性の後を辿る。
■□■⚔■□■
時間が経っていくうちに、段々と周りの木々が生い茂ってきた。
すると女性の足は、一際大きな大木の前で止まった。
「<オバーグロウン>」
女性が大木に手を触れたと思うと、突如、大木の根が女性の手を退けるように開いた。
「ここでございますわ」
女性は吞み込まれるように、見る見るうちに大木の中へ入っていく。
女性に続き大木へ足を踏み入れる……と、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
まるで貴族社会を思い出させるような豪華なシャンデリアに、美しい庭園。
大自然の大木の中に、これ程の豪邸があるとは、誰も思わないだろう。
すると女性は、豪邸の一角に私達を案内した。
「申し遅れました。私は地を司りし妖精種にして四大高嶺花の一人、アース・
「四大高嶺花………もしや神話時代初期に登場した、あの………?」
「まあ、まだ私の事を知っいた方がいただなんて」
やっぱり………!
『誰だよ?それ』
「タメ口とは失礼です。口を慎んでください」
『はぁ?そんな大物なの?』
「大物で済む方ではありません。私がこの世界に存在するのも、彼女のお陰なのです」
そう。四大高嶺花とは、まだこの世界に”生”という概念が存在しなかった頃、
四大自然元素である火、水、風、土を操りし四人の神が、世界に恵みをもたらし、人間を生み出した。
その四人の神によって誕生した人類は、自分達を誕生させた四人の神を四大高嶺花と呼び讃えた。
だが、それからのこと長い年月が経ち、今となっては神話すらも御伽話として語られる程、世間からは忘れ去られていた。
私がなぜ四大高嶺花を知っているかと言えば、勿論、この魔導書に記載されていたからだ。
それじゃなきゃ、政権しか頭にない貴族社会で学んだとでもいうのか?と言う話になって来る。
「それで、お話したい事と言うのは?」
「四大高嶺花が、世界三大女神の一人であるジヴェルニー様にお仕えしている事は
御存じで?」
「勿論です」
世界三大女神とは、私が讃えている平等主義かる好戦的なオルモース様、私達が対話した聖を貫く慈悲深きエルナース様。
そしてもう一人、自然をこよなく愛し、”生”の原点であるジヴェルニー様で構成されている。
「私はジヴェルニー様の命を受け、お伝えしたい事がございます」
すると突如、彼女は今までの凛々しさが何処へ行ったのか、勿体ぶるような態度をとる。
『勿体ぶらずに早く言えよ!』
「ちょ、リリーさん……!」
口を慎めといった矢先………。
「いいえ。彼女の言う通りですわ。わたくしがジヴェルニー様の命に戸惑うことなど何もありませんも」
ふっと笑みを溢し、リリーを庇うアースさん。
「簡潔にお伝えします。この世界は2年後に、大地が完全に沈没します」
聖女から追放されたので、魔王討伐始めます。 仮面の兎 @Serena_0015
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。聖女から追放されたので、魔王討伐始めます。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます