第17話 帝国を巡る旅



『そういや、魔導書に魔物はコレクト出来たのか?』


「はい。私も、最初は忘れかけていたんですが、自身で殺した魔物は、自動的に

魔導書へコレクトされるようです」


『忘れかけてたって………。まあ、それはいいとして。ユーリに聞きたいことがあるんだけど』


「なんでしょうか?」


『帝国とか、貴族とか色々あるけど。どういう仕組みになってんの?』


そうだった。リリーさんは異世界召喚された、れきっとした異世界人。

この世界の仕組みを知らなくて当然だろう。


でも、ここの貴族や国の基準は難しいから、私の言葉だけで分かるかどうか………。



「まず、世界にはいくつかの帝国があり、ここも、一つの〝帝国〟に支配されています。その帝国内に、いくつかの国々が置かれていて、ここグランツ国も、その一つです。一つの国々につき、貴族が配置されています」


『貴族って、どういうもの?』


「それがですね、貴族にはそれぞれ、権力を象徴する爵位がありまして、

爵位の高い順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、と別れています。

公爵家は、帝国に五家庭しかなく、それ以上創ることは、禁じられています。

そして、国々の治安や領地の広さは、爵位とはあまり関係ありません」


『へ、へぇ………。ということは、貴族がそれ以上増えることはないのか』


「そう言われると、そうでもありません。確かに、一度決まった爵位は、一生上げることはできませんが、皇帝や皇帝関係者から爵位を授かれば、平民でも、貴族になることができます。ですが、それが原因で、エセ貴族などといった虐めが相次いでいるんです。その虐めっ子のほとんどが、上流貴族なんですよ」


『んだよそれ!そんな奴、アタシだったらぶん殴ってやるわ!』


「それで爵位が排除される羽目になるんです。そうやって、好き勝手する上流貴族だけが残っていくものだから、帝国の治安がどんどん悪化していくんですよ。こうなるんだったら、最初から家柄だけを重視した貴族社会なんて、なくせばいいのに……」


『………てかさ、まず、帝国とかそういう基準を全部取り消せばいんじゃね?

最低限、国民を重視できる社会にすれば、その問題は解決できるっしょ。

アタシの国だって、そんな感じだったよ』


「………確かに。貴族制度が廃止されても、結局は皇帝の思い通りですしね。

国民が重視できる世界ですか………。ふふっ」


『………何笑ってんだよ。そんなに、アタシの意見がおかしかったのか』


「いいえ、違いますよ。考えてみたら、凄く楽しそうで、笑いが治まらなくて………ふふふっ」


『どこが面白いんだよ。アタシは真面目に話してんのに!』


「そうですね。すみません。他の質問なんかはありませんか?」


『魔王とか、そこら辺はどんな感じなの?』


「魔王ですか………。そこは正直、私も詳しくは知りません。ですが、数千年程前に、帝国に魔王が現れ、魔物を無数に生み出し、帝国を滅ぼそうとして、勇者一行に討伐された………。という話は有名ですよ。でも、最近になると、勇者一行はいなかった、だの、魔王は死んでいない、だの、挙句の果て、魔王は元々存在しなかったなどの噂が流れていて、実際、詳細を知る者は数少ないです」


『色々大変だなそっちも………。つーか、今になってユーリに魔王討伐指令が出てるんだったら、魔王は殺されてなかったんじゃ?』


「そういう事にもなりますが、元々魔王が殺されてなかったとすれば、帝国中に置かれた勇者一行の像は何なのかと言う話になりますし。そう考えると、勇者一行は結局魔王を倒せず封印した………。それを勇者一行や皇帝関係者が隠滅し、勇者一行は魔王を倒した、という設定にしているという方が、信憑性があると思うんです」


『確かになぁ………。わざわざ存在しない奴の像を建てるとか、金の無駄だし。

そっちの方が有り得るのか』


「とはいえ、私の憶測に過ぎないので、100%信じることはないと思いますよ」


『………まあね。ところで、魔物収集の方はどんな感じなの?』


「そうですね。魔導書を見ると、白紙だったページに、魔物の情報がコレクトされたようです。この感じからすると、どんどん白紙のページが埋め尽くされていくと思います。とはいえ、魔物の種類は半端じゃないし、未確認種も多いはずです。そう考えると、魔物収集をコンプリートすることは、ほぼ不可能かと………」


『だとすると、魔導書に書かれてあった、盾を入手することはできないのか?』


 盾を入手………?

そうか。魔導書コンプリート=魔王討伐に必要な盾を入手、ということになるのか。

 だとすれば、これは相当な難題になりそうな予感………。


「今からでも、魔物収集の旅に出ましょう。魔王討伐は、その後です」


『マジで言ってんの?これから大陸中を巡るってことでしょ?アンタもしバ………』


「それ以上言ったら、どうなるか分かりますよね?」


『………やれやれ。物騒なもんで。で、そうなれば、プランはどーするつもり?』


「詳しいプランはありません。正直のところ、私達に必要は無い気がするので」


『は?え、もうこれは馬鹿を越して怖いんだけど………』


「そうですか?正直、プランがどーのこーの言って前々から決めるより、なりゆきまかせに旅路を歩むのが、冒険者として相応しいと思うのですが………。何か反論が

あるのですか?」


『元々、反論なんてさせるつもりもない癖によく言うわ。………はぁ。別に構わないけどね。正直、帝国を巡ってから魔王討伐に向かえば、確実に10年以上はかかるだろうけど』


「10年ですか………。となれば、私は24歳ですね」


『なんでそんなに嬉しそうなんだよ』


「人生の大半を、この旅に捧げられるとしたら、それ以上の幸福はありませんから」


『……………旅路は長いよ』


「………ですね」


あかね色に染まった夕焼け空を見上げ、二人してそう呟いた。








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