第16話 ドルデイの大森林



「ここが、ドルデイの大森林です。生い茂った木々が光を遮って、地上では、洞窟のように薄暗いので、魔物の住処として、適切過ぎる程適切なんです」


『うん。帰ろうか?』


「どうしてですか?まだ入ってもいませんよ」


『いや、どう考えてもおかしいだろ!アタシはヤンキーだからまだマシな方だったろうけど、一般市民なら気絶よ、気絶!』


 確かに、薄暗いというよりかは紫色の雰囲気が漂っているけど………。


「でも、近くにある魔物の住処と言えばここら辺しかないし、何にせよ魔王城への最短距離なので、好都合なんですけど………」


『13の少女と、喋るだけの小動物だよ?流石に無茶だって!』


「いいえいいえ!私の魔法を避けられるくらいなら、多分大丈夫ですよ!」


『いや、だから信憑性うっす………』


「まぁまぁ、そこは置いておいて。入りましょうか!」


『いやぁぁあああっ………』


 可愛らしい顔が台無しになるくらい、奇声を上げるリリー。

そこに、お構いなく連れ込む私。

 この構図を見れば、私が完璧に悪者という事になるけれど、これは、リリー対魔物の実戦をする為だから、私のリリーへの気遣いなので。


「お!これはハロガレンスの木じゃないですか!伐採場はまだ帝国で数ヵ所しか

見つかってない珍種ですが、まさかここに無数と生えているなんて………。やっぱり人間の手が入っていない場所はいいですね!」


『………』


「ほら、リリーさんも元気出して」


『んな場所で元気出せる馬鹿がどこにいんだよボケェェェ‼』


「昼食はキノコスープですよ。ここで採れたキノコなので、さぞ美味しいんでしょうねぇ………」


『いや、誰がどう見ても毒キノコだろうが‼紫と青の組み合わせは、流石にヤバいって‼』


「そうですか?丸焼きにしたら美味しそうですけど………」


『馬鹿かアンタは‼てか味見しようとすんな‼』


 まるで、猫が警戒で毛を逆立てているような素振りを見せるリリー。


『はぁ……アタシが居なければ、今頃アンタ毒で死んでたよ。ほーんと、ユーリってばお馬鹿なんだから』


「………」


『ん?どーした?』


「静かに」


『…………?』


 頭にハテナマークを浮かべるリリー。


ウォォオオオ


「見つかりました。急いでここを離れましょう」


『はぁぁあああ!?』


隣で奇声を上げるリリー。


「静かに!襲われたら喰われますよ」


『どんな危険な場所に連れて来てんだよ!』


 こちらをギロッと睨むリリー。

でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「リリーさん、貴方、もっとスピード上げれますよね?」


『………は?』


「小動物の効果で、私よりは速く走れますよね」


『………』


「何私のスピードに合わせてるんです?早く先に行ってください!」


『お言葉に甘えて………なんてできるか‼先に行くとか、ドラマのワンシーンみたいなこと言ってんじゃねぇよ‼』


「………」


どらま?やら、わんしーん?やらはよく分からないけれど一旦置いておいて。


『………アンタだって、時魔法で何とかできんじゃないの!?』


「発動には時間がかかります。なので先に行っていてください。リリーさんにまで効果が出たら、面倒なことになりますので」


『………本当?』


「本当です。それでリリーさんに鈍足がかかったとしたら、私にリリーさんを置いていかせるつもりですか?」


『………ちっ。分かったよ。先で優雅にお茶でもしってから、早く来いよ!

絶対………死んだら許さんから』


「えぇ。勿論」


 リリーの背を見つめ、私はふぅと一息ついた。

私の背を夢中で追っているのは、ワイルドウルフのAランクだろう。

 Aランクだからと言って、所詮ワイルドウルフ。

頭脳が大きく欠けているため、楽勝だろう。

にしても、魔物の数が多いな………。


 確かに、群がることを好んでいるワイルドウルフだけれど、これは通常の倍以上は確実にいる。

 全員をテレポさせるのは、正直面倒臭いし。

あと、ワイルドウルフの爪や皮は売れるし、Aランク以上となれば、魔法石が手に入ることもある。

 ここでテレポをするのは、少し惜しい気がする。

魔力の消費が激しいけど、やってみるか………。


バッ


 突如後ろを振り返った為、ワイルドウルフも驚いたのか、一瞬足が止まる。

これで引っかかるとは、ワイルドウルフもか弱いものだな。



「<隕石メテオ>」



 魔法に集中する為、私も立ち止まる。

この隙に斬り付けてくる魔物も多いけれど、ワイルドウルフには、そのような頭脳は

なかったようだ。


ピカッ


空に何かと煌くものが現れたと思うと、一直線に、こちらへ降下してくる。


「おぉ、これは中々の威力………」


 空を見上げ、そう呟く。

ワイルドウルフの群れは、今更これに気が付いたのか、雄たけびを発しだす。


「では、さようなら」


ワイルドウルフの群れに向かい、私は手を振った。


ボォォォオオオオオン


 物凄い轟音と共に、森全体が爆風に呑み込まれる。

薄暗い木々の上から、太陽がギラッと音を立て輝く。

 

 土埃が舞う中、私はワイルドウルフがいたらしきの場所へ駆け寄る。

数分後、土埃が完全に消えると、薄暗い森の景色は跡形もなく、突如として君臨した隕石を中心として、広い荒野が創られていた。


「少しやりすぎたかな………」


 貴重なハロガレンスの木々も、跡形もなく無くなってしまった。


 そういえば、ワイルドウルフはどうなっているのだろう。

勿論、原形を留めていないのは見なくても分かるけれど、ワイルドウルフから採れる資材はどうなったのだろうか。


「……………あ、あれは!」


 地面に、一際キラッと光る場所があると思えば、太陽の反射で、煌いている

石だった。

 普通の石ではない。

これこそ、私が求めた〝魔法石〟だ。

 魔法石にも負けない程、目を輝かせる私。


「あ、あっちにも!こっちにも!?」


魔法石を集める事、数十分………。


「確か………こっちの方向のはず」


 収納性の良い鞄が埋め尽くされるかと思うくらい、大量の魔法石を担いで、

森の外へと向かう。

 意外にも魔法石は重量があり、魔力量も不足しているため、森の外へ出るときには、もうクタクタになっていた。


「只今戻りました~」


『………』


「どうしました?」


『………何やってんだよボケェェェエエ‼』


 リリーさんにビンタをされる、も、華麗に避けて見せる。


『アンタねぇ、限度ってものがあるでしょ‼』


「まあ確かに、少しやりすぎたとは思いますけれど………」


『少し?いや、もう三分の二が平地になったんですけど?外側だけ木で囲まれてる森なんて、あるわけないだろが!』


「何事も新しい事にチャレンジですわ」


『いや、それとこれとは違うでしょ‼』


「あ、それとそれと………ワイルドウルフから、魔法石を取ってきました!これならリリーさんでも、一時的に魔法が使えるようになるかもしれないので」


『………ちっ』


「そこは喜んでくださいよ~。一生懸命頑張って取って来たんですよ?」


『空から隕石を降らせるのがアンタの一生懸命かよ』


「人には個性が有りますので」


 笑みを見せる私に、盛大なため息をつくリリー。

これからも、魔王討伐に向けた旅は、長くなりそうです――――……。



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