第14話 ユーリの思惟



「<転移テレポート>」


 と同時に、ユーリに向かって剣を投げる。

けれど、この距離じゃリリーに悠々と避けられる前に、地面に突き刺さる。

転移テレポートは、対象ターゲット転移テレポさせる、時魔法の一つ。

主に自身を対象にしてテレポートすることで、相手の裏をかくという中々の技。


 でも、私の狙いはそうじゃない。

対象ターゲットを剣にすることで、リリーからは私の姿が見える為、安心する。

そこを狙い、余裕を見せたところで、テレポートした剣で、一気に突く。


 まあ正直、私がテレポートしたところで、リリーに避けられ反撃を喰らえば、

元も子もないので、リスク的に剣を対象にするのが、効率的だったから。

 

 しかも、剣をテレポートする時に、剣を変換済みだ。

元々持っていたのは、レプリカの剣。  

軽量なので、持ち運びが実に楽。そしてデマとしてとても役立つ優れ物。


 そして今の剣は、鉄製の頑丈な剣。私の腕力じゃ、降る事も出来ない程の。

でも、どうせテレポートするなら、変換しなくてもよくない?と思うかもしれない。

だけれど、かえって剣を持たずに詠唱をしたとすれば、魔法の警戒をされていただろう。やはり、剣を構えることで、立場が大いに違ってくるのだ。


 グシャッ、と、鈍い音が響くとともに、土埃が舞い上がる。

思わず目を見開く光景を見たのは、その時だった。

 ケガ一つ負わずに、キリッと警戒した目を見せるリリー。

驚いたものの、表情を隠すために、服の土埃を払う。


「お見事ですね、リリーさん」


 土埃が完全になくなると、リリーに歩き寄る。

だが、リリーと私の距離が縮まるなり、リリーが後退りをする。

 キリッとこちらを睨むリリー。

容姿は兎みたいでふわふわなんだけど、中身と瞳は、まるで絶賛警戒中の猫ね。


『ふん。アタシがこんくらいで死ぬと思うなよ』


 と思えば、急にそっぽを向き、ちっと舌打ちをする。

やっぱ理解できないな、この生物………。


「剣を転移する前にそれに気付く人なんて、中々いないですよ。第一、

異世界転生者であるリリーさんが、私の攻撃を避けられるなんて、思ってもいませんでしたし………」


『当たってたらどうなるんだよ』


と、口論を吹っ掛けてくるリリー。


「私、元聖女なので。上級回復魔法を使ったら、余裕で治せますよ」


『ちっ』


 またもや舌打ちをするリリー。多分癖なんだろう。まあ、私の敬語と同じようなものか。

 ふぅ、と一度息を整える。


「よし!リリーさんの腕も分かったところだし、試合終了と行きますか!」


『え………?』


 物足りなかったのか、もしくは嬉しさで零れてしまったのか。

思わず声を上げてしまったリリーに、くすっと笑みを浮かべる。

 それに反してリリーは、軽蔑するような目で見つめる。


「なんですか、その目。私をけがれみたいに見ないでください」


『半分正解で、半分不正解ってとこよ』


「なんですかそれ」


 私も同様、リリーを気が引いた目で見つめる。

何だろう。

二人共、軽蔑しているのは変わりないけれど、なんだか、嫌な気持ちにはならない。

リリーの瞳は、貴族社会で見る瞳とは、全然違うのだ。

 

 貴族社会………特に社交界では、相手の表情を伺う者。手が闇に染まった者。

瞳に光のない者など。

とにかく、決して見ていて良い気持ちにはならない。


 だけれど、二人でするこの会話は、軽蔑するような言葉もあっただろう。

でも、違うんだ。

信頼し合っているからこそ、できる会話というか………。


 再びリリーに目を向けると、野原に寝転がり、晴天を見つめていた。

私も隣に座り、横目でリリーを見つめる。

くすっと笑みを溢したリリーの横顔を、眼中は見逃さなかった。


え、くすっ?


「えッ、あのリリーが!?!?!?!?!?」


爽快な晴天の下で、ひとり女の声が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る