第11話 光属性の闇能力



「もーう、ユーリちゃんったら何処に行ってたの?それに、その鞄、何だか動いているようだけど?」


 叔母の家に戻った直後、私は質問攻めを受けた。

叔母の質問と言えば、蛇が獲物を狙うかのような眼で問いかけてくることで

嘘を付けないという事は、うちの家系では代々有名な話だ。

 まあ、所詮、貴族として育てられた私が、蛇に睨まれただけで言葉が漏れるような甘ったるい生活をしていたわけじゃない。

 嘘と噂の塊で創られている貴族として生き延びるには、身内に嘘をつくことなど

容易なことだ。


「……動いている、ですか?多分私が走ってこちらへ来たから、揺れているだけだと思いますよ」


頭にハテナマークを浮かばせ、首を傾げる。


「まあ、知らないうちに動物が入るなんてことは無いものね。じゃあ、一体何処に

行ってたの?」


 瞬時の受け答えで、案の定、叔母さんの話題は別の方向へと向かった。

ほっと安心して溜息が出る。


「近くの山々などを観覧しに行きました。シュラフ山とコーポス山の境目にある

川とかは、とても懐かしかったですよ」


 確かに、あそこは夕焼け空とマッチしていて、近所からは評判の良い場所だった。

まあ、今じゃそこは、魔物の住処になっていたんですけれどね。


「まあ!そうかい。それじゃあ結構歩いただろうから、上の空き室で休みなさいね。風邪引いちゃ困るから」


「はい。ありがとうございます」


 頭を下げ、叔母に感謝する。

階段を上り、叔母が指し示していた部屋の扉を開ける。

 空き室なだけあって、机と椅子、そしてシングルベッドがちょこんと置いて

あった。

スカスカなものの、一定期間住むにはれきっとした部屋だ。

 扉を閉めると、今までの疲労が一気に込み上げてきた。

身体が引き付けられる様に、思わずベッドに飛び込む。


『むぎッ』


鞄の中から、何やら奇声のような声が聞こえた。


「あ、ごめんなさい。すっかり忘れてました」


『おい!忘れてたにしても、ベッドに叩きつけんのは酷いわ!』


「まあまあ、私のおかげでここに来れたので、正直のところ感謝される側のはず

なんですがね」


 チッと、不満げな顔を見せ舌打ちをするリリー。

おお怖い、と思いながらも、貴族社会では勿論有り得ないリリーの態度に、

少し新鮮さを感じる。


『それにしても、嘘の上手さはアカデミー賞並みだったなぁ』


「あかでみーしょう、とは……?」


『あぁ。そーそ。うちの世界では、演技が上手い奴が貰う賞の事だよ』


「へぇ………」


 演技が上手い賞………か。

これだけ聞くと、やはり不穏な世界とは思えない程、安楽そうだ。

だけれど、表面だけで判断するのは良くないな。

陰は、いつだって裏面に潜んでいるのだから………。


『………ってなわけで、アタシ、このままの姿だとヤダから、変身させてもらうわ』


「………ということは、私に魔力を使わせて欲しいってことですか?」


そう問いかけると、リリーさんはあきらさまに驚いた顔をした。


『正解だよ。予知能力ってか?アンタ、真面目に怖いよ』


「お褒め頂き光栄です」


別に、褒めてないけど………と呟く彼女。


「あら失礼。私としたことが、つい………」


『………』


無言になった彼女の顔を見て、私はクスッと笑みを溢した。


「冗談ですよ、冗談。私はもう貴族に束縛されていないですし。まあ、貴族社会に

入れば、これがルーティンですけれどね」


『貴族って怖………』


一気に顔色が悪くなる彼女。


「話を戻して、リリーさんを元の姿に戻しましょう!」


 いきなりベッドから立ち上がると、リリーも我に返ったような目でこちらを

見つめる。


『えっと……私がこの姿に変装出来たのは、アンタの魔力を使ったからだ」


「そうですね。でも、ちらほら魔導書を覗いていたのですが、リリーさんは使い魔に近い分類のようです。ですが、リリーさんは少し特例で………」


『特例………?』


「はい。容姿的にれきっとした光属性なのですが、光属性の特殊能力は、使い魔契約をした主だけに、主の魔力が消費すると魔力を分け与えるか、

もしくは信頼している相手だけに、魔力を分け与えるという能力です」


『でも、アタシは逆に抜き取った………と?』


「えぇ。しかも魔導書が言うには、光は与える神で、闇は抜き取る神だ、と」


『じゃあ、私は………』


 暗い顔で俯くリリー。

確かに、誰でも闇属性と言われたら、不快でしかないだろう。

 〝闇〟というだけでも評判が悪いというのに、尚更魔王一族の属性であるため、

疫病神やら魔王一族の化身、などとと言われる始末だ。


「心配しないでください。容姿が光属性で、能力が闇属性だとすれば、それは新種に近い為、大発見です。しかも魔力が無い今、一時的に対象者の魔力を貸して貰っただけかもしれませんし。まだ闇属性とは確定しがたいです」


『そ、そうだよな………。こんくらいでアタシが挫けてちゃあ、魔王討伐なんて

夢のまた夢だしっ!』


 開き直ったのか、ぱっと顔を上げる彼女。


「私も魔力が回復してきましたし、非常時という事で今回だけは、私の魔力を

使ってもいいですよ」


『ん………』


ボソッと、そう呟く彼女。


『<魔力吸収マジックアブゾーブ>』


 どんどんと魔力が体内から外部に吸い取られる感覚を覚える。

魔力の抜き取りは、無詠唱で出来るのか………と、少し感心する。

 けれど、本当にこの能力は最強かもしれない。

もしも魔物の魔力を吸収し自身に付与することが出来れば、闇魔法限らず

大発見である。

 とにかく、今はリリーさんの魔力発動を待とう。


『………』


「………」


『………』


「………」


『………』


「あ、えぇっと。まだ、ですか?」


『………できない』


「………というのは?」


『魔法が、発動しない………』


「はぁぁぁあああ?!」


 突如リリーから発せられた言葉に、流石に堪忍袋の緒が切れ、

思わず叫び狂う私。

リリーとなれば、ベッドに潜りうずくまるのであった――――……。

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