第10話 聖杖の正体と異世界転生者




「そういえば、貴方の名前を伺っていませんでしたね。何て言うんですか?」



完全回復した私は、小動物と共に木陰の下で腰を掛けていた。


『アンタが思っているような名は無いよ。ここでの正式なウチの命名は、

〝聖杖〟だから』


「聖杖………?」


 どこかで聞いたような………と思えば、目の前の物体と会う前に、

異空間に飛ばされた時か。

 確かに、今思えばあの時聞いた〝女神の加護〟やら〝聖杖に選ばれた〟とやらは

何だったのだろう。


『ウチは、女神オルモースの使命で、聖杖としてこの世に召還されたの。

ま、正式な姿は、ルビーをはめ込んだ杖だけど。

流石に聖杖で登場するのは気が引けたから、小動物に変装したけどさ………。

ウチの使う魔力=対象者ユーリに課せられるみたいやねこれが』


「召喚………?」


思わず呟くと、それに反応したのか、小動物の肩がピクッと動く。


『まーね。召喚ってか、転生?みたいな。ウチも良く分からんけど、前世みたいなのがある訳。あっちの世界でのウチの名前は、高塚たかつか 璃々奈りりな

っつーの。こっちとは違う名前だから、よく分からないと思うけど、

ま、気楽にリリーとか呼んどいて』


「………リリーさん、ですね」


 早口で説明をする彼女に、少し圧倒される。

というよりか、召喚?転生?

確かに、100年前程には、王宮で年に一度、異世界からの聖女召喚をしていたけれど、何かしらの事件があってか、今は流通していないはずだ。


「なぜ異世界から召喚されたんですか?」


『えー。まあ、体験者なのには変わりないけど、やっぱよく分からないんよ。

まあ、ウチが召喚の対象者になったのは、ウチがあっちで死んだからなんだろね』


「………」


死んだ?

突如として聞こえた物騒な言葉を聞いた瞬間、目の前が曇った気がした。

それと同時、瞳にあった光が、どんどんと薄々としていく。


『……そ、そう!実はウチな、前世では結構有名なギャルだったんよ?

ギャル恒例の髪染めも、人目を置く白色だったしなぁ……。凄いっしょ?』


 辺りの重い空気を紛らわそうとしてくれたのか、笑顔を取り繕う彼女。

ガサツそうに見えて、意外と気が遣えるんだな、と感心しながらも、少しだけ目に

涙が溜まっているような気がした。

 はっと我に返ると、私も流れに乗り、問いかける。


「ぎゃる?」


 リリーさんが住む世界での、職業ジョブのようなものなのだろうか。

にしても、ぎゃる?

 

 異世界召喚を試みていた時代の魔導書を隅から隅まで読んだことがあるが、

そのようなジョブについては、見たことが無かった。

というよりか、異世界にジョブが存在するかどうかも、まだ分かっていない。


『あ、そっか。アンタの世界じゃ存在しないか。簡潔に言えば、陽気な若い女の

ことかな。まあ、例えば金髪に髪を染めて、最近の流行とか取り入れたり?』


 陽気ね………。

ということは、ジョブと言うよりも、その人物の若さや性格を表すのか。

陽気な若い女性。そして、金髪に染めて流行りを取り入れる………。


 流れで問いかけたものの、いつの間にか私も、話にめり込んでいた。

流行り、か。

そういえば、この世界では滅多に使わない言葉だな。

 まあ、毎日のように血が流れるこの世界では、流行りを取り入れるなど、貴族で

しか考えられない話だもんな。


「凄く平和な世界なんですね」


そう笑みを浮かべて言うと、何故かリリーは、うーんと考え込むようなポーズを

見せた。


『……そういうわけでも、ないんだよね。私の住む日本って国がたまたま平和だった

だけで、他の国では戦争が絶えてないし。世界中が平和じゃなきゃ、平和って言われても実感がないしねぇ』


 少しだけ悲しげな瞳を浮かべるリリーさん。

その瞳を見た瞬間、体が硬化した。

頬に冷や汗が伝る。

 そんな私に気が付いたのか、彼女は、はっと我に返るように、肩をぴくっと

動かした。


『そそ。ここで立ち話もなんだし、どっかホテルとか行こ。私もこんな姿だしね』


「ホテル?とはなんでしょう」


『………あ~。ま、こっちで言うと宿?みたいなものかな』


「それなら、私の叔母の家がありますよ。今日はそこに泊まりましょう」

 

 分かった、と首を縦に振るリリーさん。

そうして私達は、木陰を後にした。


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