第9話 リス?ネコ?ウサギ?



『ギャアッ』


「はぁぁぁああ!?」



目の前の奇声を上げる物体に、思わず叫び狂う。

こんなときに体が動かず、うっと喉が詰まる。


仕方なくそのまま、じいっと物体を見つめる形になってしまった。



『いちぇちぇ………なにするんッ』



あ、喋るんだ………と、この状況で冷静いられる私に、逆に驚く。

よく見ると、物体には、小さな顔に付く、つぶらなコバルトブルーの瞳があった。


これに、ふさふさな尻尾が付けば、とても可愛らしい容姿だと言える。



『早くドケ!いつまで乗っかってるつもりっ』



口調は………そこらのガキんちょと同様だけれど。


今更に退け、と言われても、腕が硬化している中、立ち上がる事すらできない。

周りから見たら、ひたすら腕立て伏せをしているような格好に見えるだろう。



「えっと………助けてくれませんか?」


『はァ?何言ってんの。これでウチが動けるとも?お前が動けない限り、ウチが抜け出せないでしょ』


「じゃあ………詰んだ、ってこと………」


『もしや、動けないのアンタっ‼』



焦りに焦った表情を見せる物体。



「えぇ」



素直に返信をすると、ウギャア‼と、奇声を上げる物体。

そのまま、捕らえられた小動物が喚くように、ジタバタとその場で暴れ出した。



「ちょ、何するんです?私の顔面に蹴りを入れないでください」


『んなこと知らん‼ていうか、魔法を使って抜け出せんのかアンタは』


「この状態だと、難しいでかね………。しかも、なぜか勝手に魔力ゲージが減って

いて、思うように魔法が出せないんですよ」


『勝手に………魔力ゲージがねぇ………』



そうつぶやき、渋い顔を浮かべる物体。



「何かご存じで?」


『ちっ………そうだよ!ウチが小動物に変装したから。アンタの魔力ゲージが

減ったんだよ一々聞くなボケ』



最終的に、なぜか私が罵倒を浴びせられているが、それより。



「貴方も変装魔法やらが使えるなら、魔法で抜け出せるんじゃないですか。

勝手に私をこき使って、結局貴方は何もしていないじゃないですか」


『うぐっ………』



痛いところを突いたのか、更に渋い表情をする物体。



『………分かったよ。やればいいんでしょ!やれば!』


「その意気です」



うんうん、と頷く私の隣で、何かと不満そうにぶつぶつ呟く物体。

はぁ、と仕方がなそうな溜息を上げ、やっとのことで詠唱を唱え始めた。



『妖光月に捧げるセレナーデ。生を彷徨いし霊に誓う、淋しむ夜に幕開けを!』


『{ターン・リバーサル}』



詠唱を唱え終わった直後、突如、体から吸い取られるような感覚を感じたのは

尚更。


仰向けになった私の体に、腕立て伏せのような格好をしている物体がひとつ。



『これで、体格的に抜け出せるでしょ。早く出てウチを助けろ!アンタは助けて

もらった身なんだからな!借りは返してもらうっ』


「事の発展は、貴方が変装魔法やらを使ったからでしょう」


『………』


「無言の肯定………ですか。これで借りはナシですね?」



ちっと、またもや舌打ちをする物体を華麗にスルーし、その場で立ち上がる。


それにしても、ターン系魔法に、こんな使い方があったなんて………。

興味深いな、と呟く。


ターン系は主に、相手の魔法(ターン)を返り討ちにする、という攻撃魔法だが、

それは相手が魔法を発動した瞬時の話だ。


もし仮に、相手が時だとすれば?


今回は、物体が私を操っていた為、ターン系の攻撃魔法は使用不可。


ということは、物体は相手が魔法を使用していない状態で、ターン系を使ったと

言える。


相手の魔法が不発動時の時のターン系魔法は、主に効果がなくなるが、

ターン系(魔法の詠唱のメイン)

ある一定の魔法サブ(魔法の詠唱のサブ)と組み合わせることで、

効果を発揮することがある。


今回の魔法サブは〝リバーサル〟だ。

これにターンが加われば、順番を逆転する、という意味になる。


が、この場合、ターン系は〝向きを変える〟という意味になる。

これも、サブとの相性で決まる事なので、もうほぼ暗記系だ。


まあ、暗記なんぞ魔法界においては一般的過ぎる事だけれど。



『オマエ、意外と魔法解読が上手いんだ………』


「あれ………声、漏れてました?」


『え、あれで声出してないと思ってた?バリバリ聞こえてたけども?』



う、嘘………。

まあ、聖女の事は何も言っていなかったし、大丈夫か………。



「そ、それより!早く退いてくれません?」



話を逸らし、いつまでも上に乗っかかる物体に、問いかける。



『はっはっは。やっとウチの気分が分かったかノロ………』


『ウギャァァア‼』



鈍間、とでも言いたかったのだろうか。


まあどうせ、わざとだったなら吹き飛ばしているのには変わらないけれど。


星となって空を滑空する物体に向かい、私は手を振った。



『ボケェェエエイ‼』



そんな事を言われているとは、欠片も知らず――――……。

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