第2幕 勇者には聖剣を、魔法使いには聖杖を

第8話 聖剣……ではなく聖杖?!



「『ユーリ・アルファイラ。貴方は聖杖に選ばれました。』」



 何処からか、無情な女性の声が聞こえてきた。

はっと驚いて目を覚ます………と白、白、白。果てしなく続く白い空間が瞳に映る。

まるで別次元に飛ばされたようだった。


というよりか、聖杖って何だ?確かに、聖剣はあるだろうけど、聖杖?


「『この世界に影を堕とし悪を、打ち倒すと誓いますか。』」


展開が余りにも早く、脳が追い付けていない。

 確か前も、同じことを問いかけられた気がする。これで二度目だ。

だけれど、確かに一度目は私の答えを伝えていなかったな。

誓うか、誓わないか………。

だけど、お分かりの通り私は勇者になるつもりなんて欠片もない。

でも、選ばれなければ、現世に戻され魔物に食われてしまうかもしれない。


そう思うと、これまで積み重ねてきた満喫スローライフの夢が、溢れ出すように

蘇って来た。

7年も、七年も積み重ねてきた伯爵家追放計画。そして夢の満喫スローライフ。


ごくっと、喉が大きく鳴った。




■□■⚔■□■




『貴方は〝女勇者〟に選ばれました。』


『契約の詫として、〈女神の加護〉を授けます。』


先程の無情な女の声が聞こえたと思えば、いつの間にか私は元の場所に戻っていた。

 腕が勝手に動いたと思えば、広げられた手の平に、女神像のような物が、

ゆっくりと下降して落ちてきた。

 その像は、まるで生きているかのように、ほんわりと温かさを感じた。

すると徐々に女神像が薄くなり、あっという間に消えた。本当に一瞬だった。

深く探さなかったのは、私の本能が、そう察知していたからなのかもしれない。


「そうだ、魔物は………」


 はっと我に返り急いで辺りを見回すも、もうそこに魔物の姿はない。

たださっきと変わった面では、何かしらの残骸らしき跡が、地面に転がり落ちているだけだった。

 残骸に顔を近づけると、酷い悪臭が鼻を突き刺した。

思わず鼻をつまむも、辛抱し残骸らしきものを見つめる。

 するとその残骸の付近に、何かしら毛のような物が見えた。

よく見るとそれは白銀に輝いた毛だった。

意を決して、指先だけをちょこんと付ける。

辺りをもう一度見回し、何も起こらないことを確認してから、私は白銀の毛を手に

取った。


毛は柔らかいものの、意外と先端が鋭いのか、時々チクチク肌に突き刺さる。

だけれど、それもくすぐったいに近い痛みで、案外ふさふさしていて触り心地が

良かった。

 太陽の光が、白銀色の毛を輝かす。

ん………?白銀………?

今更のように、不可思議な事に気が付く。

魔物がぱたりといなくなり、残ったのは白銀の毛。

確か、白銀グレムリンの毛は、この色に近かった気が………。

白銀の毛に、再び目を落とす。


「ギャァアア‼」


思わず飛び上がると、反動で毛が落ちた。

気持ち悪い………というよりか、驚きに近かった。

 私………私が白銀を殺した!?

いや、それは流石にないだろう。勇者一行にも掠り傷を付けた白銀グレムリンを、私が無傷で圧勝するなんて。

もう一度、白銀の毛に目を向ける。


ふさふさとした毛並みが、まるで今も生きているかのようだ。

今も生きて、いる………?


思わず体が傾く。


「あ………」


と言うも、もう遅い。


『ギャアッ』


間一髪、腕で顔面衝突を抑えられたものの、何かの雄たけびらしき声と共に、

リス?ネコ?ウサギ?らしき見たこともない物体が、目の前に現れた。

ぱちっと、目が合う。


「はぁぁぁああ!?」


夕焼け色に染まった空に、少女の雄叫びだけが響き渡った。

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