第2幕 女勇者には聖剣ではなく聖杖を

第8話 聖剣……ではなく聖杖?!



「『ユーリ・アルファイラ。貴方は聖杖に選ばれました。』」



どこからか、無情な女性の声が聞こえてきた。


驚いて辺りを見回すと、白、白、白。一面に白が広がっていた。

まるで別次元に飛ばされたようだった。


っていうか、聖杖って何?

普通、勇者と言えば聖剣じゃ………?



「『この世界に影を堕とし悪を、打ち倒すと誓いますか。』」



悪を打ち倒す?

色々と話が付いていけず、戸惑う。


前も、同じことを問いかけられた気がする。これで二度目の問いかけだ。


だけれど、確かに一度目は私の答えを聞いてなかったな………。


誓うか、誓わないか………。


だけど、私は勇者になるつもりなんて欠片もないし………。

でも、選ばれなければ、現世に戻され、魔物に食われてしまうかもしれない。


そう思うと、これまで積み重ねてきた満喫スローライフの夢が、溢れ出すように

蘇って来た。


7年も、人生を懸けた伯爵家追放計画。そして夢の満喫スローライフ。


ごくっと、喉が大きく鳴った。




『貴方は〝女勇者〟に選ばれました。』

『契約の詫として、〈女神の加護〉を授けます。』



体が勝手に動いたと思えば、広げた手の平に、女神像のような物が、

ゆっくりと下降して落ちてきた。


その像は、まるで生きているかのように、ほんわりと温かかった。


すると、徐々に女神像が薄くなり、あっという間に消えた。


深く探さなかったのは、私の本能が、そう察知していたからなのかもしれない。



「そうだ、魔物は………」



はっと我に返り、急いで辺りを見回すも、もうそこに魔物の姿はない。


たださっきと変わった面では、何かしらの残骸らしき跡が、地面に転がり落ちているだけだった。


残骸に顔を近づけると、酷い悪臭が鼻を突き刺した。

思わず鼻をつまむも、辛抱し、残骸らしきものを見つめる。


よく見ると、それは白銀に輝いた毛だった。


意を決して、指先だけをちょこんと付ける。

何も起こらないことを確認して、私は白銀の毛を手に取った。


毛は柔らかいものの、先端が鋭いのか、時々チクチク肌に突き刺さる。

だけれど、それもくすぐったいに近い痛みで、案外、ふさふさしていて触り心地が 良かった。


太陽の光が、白銀色の毛を輝かす。


ん………?白銀………?


今更、不可思議な事に気が付く。


魔物がぱたりといなくなり、残ったのは、白銀の毛。

確か、白銀グレムリンの毛は、この色に近かった気が………。


白銀の毛に、目を落とす。



「ギャァアア‼」



思わず飛び上がると、反動で毛が落ちた。

気持ち悪い………とかそういうわけじゃない。


私………私が白銀を!?殺した!?


いや、ないない。

というよりか、私は異空間に飛ばされていたから、殺せるはずがない。


もう一度、白銀の毛に目を向ける。


ふさふさとした毛並みが、まるで今も生きているかのようだ。

今も、生きている………?


思わず体が傾く。



「あ………」



と言うも、もう遅い。



『ギャアッ』



間一髪、腕で顔面衝突を抑えられたものの、何かの雄たけびらしき声と共に、

リス?ネコ?ウサギ?らしき見たこともない物体が、目の前に現れた。


ぱちっと、目が合う。



「はぁぁぁああ!?」



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