第5話 印される✕の意味



「はぁ……はぁ……」


全速力で宿屋を去り、村の中心にある小さな噴水の前で足を止めた。


息切れが激しい。

体力が無いことだけじゃない。


あんなにも冷血で無感情の私が、取り乱すだなんて………。

あの時を思い出すと、全身が逆撫でるようにブルッと震える。

情けない、と思うものの、悔やんでいるままでは、いつまでも自身の堅苦しさは変わらない。


敬語でも、堅苦しくない方法はないかしら………。


考え込んでも、いい案が思い浮かばない。


もういっその事、忘れた方が気楽よね!


無理矢理に開き直り、荒い呼吸を整え、伸びをする。



「よし!」



確か、魔物の現れた場所は、シュラフ山の中間地点、と言っていたわよね………。


魔導書を開き、帝国地図を開く。

まさかの魔導書には、地図の調べたい場所を拡大することができる機能があったので、この小さな村も、拡大して見ることができる。



「シュラフ山………シュラフ山………あった!」



この村から数百メートル離れた所にある山らしい。

意外と近いんだな………ん?


シュラフ山を拡大して詳しく見てみると、シュラフ山と他の山の丁度境目に、地図上に赤くバツ印が記されてあった。


境目の印かしら?

他の山を拡大するも、バツ印は付いていない。

じゃあ何………?


地図のページ付近をペラペラめくると、それらしい説明が古代文字で記されてあった。



「{タイム・カレント}」



タイム系の魔術は、特定の物の時代を一時的に移転させる、時魔法の一種。

この能力は、古代文字の読解や、魔術関連に大きく影響する為、非常に重要視されている。


というのも、時魔法の上級職であれば、大魔導士に入ることは、ほぼ可能だ。


もし伯爵家から追放された私が、帝国の希望の光だと知ったら、伯爵家はどんな

反応をするのだろう。


まあ、私は国の片腕に付いたり、大魔術師になるつもりなど、欠片もないわ。


私はただ、のんびりスローライフを楽しみながら、魔王討伐を目指すだけ。

果たして、魔王がそんなに浅い考えの私に倒されるのかは、分からないけれど。


再び魔導書に目を落とすと、いつの間にか魔導書が現代用語に変換されていた。


初めて使った割には、凄い的確さだな、と自身で感心しつつ、

古代文字の解読を進める。



『✕の印は悪の証。容易に近寄る不届き者は、悪共に処罰を喰らうであろう』



処罰………ということは、殺すって事?

これはもう、忠告と言うよりか、殺害予告の間違いでは?


途端に行く気が失せる。


だけれど、魔王討伐と比べれば練習にもならない程度だろう。

まあ、魔王城に向かうには、そこが最短距離だからな………。


とにかく、出来るだけの人を魔物から救って、のんびり魔王城へ行くとするか。


悠々とした足取りで、私は噴水広場を後にした。

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