第3話 叔母の村と目撃情報




「『古ノ魔導書解キ放チ者、女神ヨリ魔獣収集モンスターコレクトノ使命与エシ』ねぇ………」



魔導書の文字を分析して読むと、古代文字でそう書かれていたことが分かった。

というのも、時魔法を使って、魔導書の記録を読み取ったのだけれど。


馬車に揺れながら、ぼーっと外を眺める。


そう。あの後、数時間森をさまよっていたら、奇跡的に道を見つけ、馬車をつかまえることができた。


運転手が親切な人で、ボロボロになった私を見て、市場に売りに行くところだったリンゴを分けてくれた。

こういう気遣いができる男が、婚約者だったらよかったのになぁ………。


誰かさんに皮肉を込め、そう心の中でつぶやく。



「嬢ちゃん、あそこでいいかい?」


「はい」



運転手が指したのは、山のふもとにある、小さな村だった。


数分後、目的地に到着した。

馬車を降りると、運転手に向かい、深くお辞儀をした。



「お気遣い本当にありがとうございます」


「そんなの構わないよ。若い子を助けるのが、俺ら大人の役目だしなぁ」



まあ、その重要な役目を果たせていない馬鹿があちこちにいるんですけどね。

誰かさんに皮肉を込め(×2)、そう心の中でつぶやく。



運転手と別れると、私は村のとある宅に訪問していた。



「ゴメンねー、今、手が離せなくて………」


「そうですか………わかりました」



扉をノックするのをやめそう言うと、中から「えっ!?」という声が聞こえた。

それと同時に、ドドドドドド、という騒音が聞こえてくる。


反射的に扉から引き下がると、扉が破裂するようにバコーンと開いた。



「やっぱり………!ユーリちゃんじゃないのッ」



中から飛び出してきたのは、エプロンをしたままの中年の女性だった。



「久しぶりですね、叔母さん」



そう。彼女は父の姉である、イロニ・ルーカス。


私の実の叔母だ。


56歳で、独身。

五人の子を育てるシングルマザーだ。



「急に押しかけちゃってすいません」


「いいのいいの!ユーリちゃん忙しいだろうから、こっちから押しかけようと思っていたのよ~」


「今頃、伯爵家の使用人達に止められていたでしょうね………」



まあ、私が追放されていなければの話だけれど。



「叔母さんは知っていますか?」


「ん?何のことだい?」


「私が伯爵家から追放されたことです」


「えっ?!!?」



あからまさまに初耳のような素振りを見せる叔母さん。



「全く、あの家は何なんだい‼人の子を奪っておいて追放なんて!

これだから貴族の野郎は………」



そうだ、私は元々、叔母さんの家に引き取られる予定だったけれど、

私の父が伯爵家の血筋だと知った彼らは、稼ぐ人材を増やすため私を引き取った。


許可なく引き取ったのだから、叔母さんにとっては奪ったと言っても過言ではない。



「叔母さん、声が大きいですよ。貴族に聞かれてらどうするんですか」


「いいんだよ。家族のこと侮辱されるくらいなら、地下牢に監禁された方がマシ」



家族、か。

久しぶりに聞いた単語に、胸が温かくなる。

ずっとこうしていたい、と思うものの、私が今日ここに来たのには、別の訳がある。



「近頃、ここら辺で魔物が出現した………なんてことがありませんでしたか?」


「そうなんだよ!北の山の方で、隣のおっちゃんが魔物に襲われてさ………」



やっぱり………。魔導書が指していた通りだ。


そう。魔導書で調べたところ、とあるページに、帝国の地図とその上に光る斑点を見つけた。

場所を調べると、丁度叔母さんの村の周辺だったので、ここに来たということだ。



「魔物の容姿について、詳しく教えてもらえませんか?」




■□■⚔■□■




「確かね………肌が青っぽい緑色だって聞いたよ。人間よりちょびっと小柄で、

こん棒を振り回してたとか………」


「肌色は青緑………小柄で木の棒を振り回す………」



持ってきたメモ帳を手に、叔母さんの情報を聞く。



「まあ風の噂だから、信用はならないけどね。隣の宿屋に行けば、襲われた張本人のおっちゃんが住んでるよ。そこで聞けばいいさ」


「そうですね………。ありがとうございます、叔母さん」


「いいわよ、そんな丁寧にお辞儀しなくても。なんだか堅苦しいわ。家族なんだしリラックスしてもいいのよ?」



〝堅苦しいわ〟


叔母さんから発せられた言葉に、体が固まる。


家族でも敬語なのは、伯爵家での過酷なレッスンで付いた癖だ。

お辞儀だって、そう。

赤子の時から付いてしまった癖は、どうも治せそうにない。


本当、あの家は憎たらしい思いでしかない。



「おっちゃんの家に行ってきな。あたしゃ家事で行けそうにないからね」


「はい」



鞄を肩にかけ、おぼつかない足取りで、私は叔母の家の玄関口を閉じた。







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