未完

@aira0817

第1話

ボールが狙った方向と真逆にカーブを描いて飛んでいった。ガシャン、と大きな音を立てて民家の窓ガラスが割れる。

僕はため息をつきながら野球帽を深く被り直して民家の中へ侵入した。ベランダの窓が綺麗にボールの形に割れている。


このまま家主が出てこなければ黙って逃げようかと思っていたが、無愛想な老人が一人庭で土いじりをしていた。

そういえば侵入する時地面が柔らかい気がしたような。あれは土だったのか。若干ビビって家の中ばかり見ていたので気が付かなかった。


僕が踏んだ鮮やかな花々を老人は無言で植え直している。もうその花助からないと思う。ごめん。僕は口に出して謝ろうとしたが、窓ガラスを割った上に花を潰した犯人を見ても顔色一つ変えずただ黙っている老人が不気味で、小さく頭を下げて足早に友人のいる空き地の方へ向かった。


それから数週間、僕は完全にその出来事を忘れていた。

次に思い出したのは、理科の授業で育てている朝顔に水をやっている時だ。僕の朝顔は芽が出るのが一番早かったくせに、なかなか花が咲いてくれない。隣の奴の朝顔なんか、もう種まで取れそうなのに。


花を育てるのはなかなか大変だ。僕のこの花が咲いたら、おじいさんにちゃんと謝りに行こうと思った。

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