第14話 決戦

「いや、たしかに私は、カルフールでそういう事をやったけどね……」

 と言いながら、ハイヤードは右手首となったコックピットから出て、その先端に生えている一本角にショーマからもらったベルトを接続して腰に巻き付けた。


「でも、五大精霊の加護は本物みたいです。この魔力なら、最大限のマジックシールドが出せますよ」

 左手首側のレフティもそう言って、二本角の間に設置された支柱にベルトを接続して腰に巻いた。


「魔王よ! 聖剣の力、とくと見よ!」

 ハイヤードは聖剣の刀身を模した鞘から、真の刀身を引き抜いた。使うと魔力反動がある代物だ。

(レフティばかりに辛い思いはさせない……)

 ハイヤードは剣の柄を握りしめると、十五ワイド・三十メートルはある光の刃を出現させた。


 ハイヤードがエレメンタルガイザーの剣に、レフティが盾になるのだ。



   ◯



 白き不屈の魔王がその三本の足で石造りの建物を踏み潰しながら迫ってくる。

 エレメンタルガイザーよりも大きく、さらに両腕を広げ、まさに覆いかぶさらんとしているようだ。


 魔王は魔弾を撃ち放った。

 ショーマはガイザーの左腕を前に出した。

「早速、僕の出番ですか?!」

 レフティはマジックシールドで魔弾を受け止めた。


 すかさずショーマはハイヤードがいる右手を振り下ろした。

「ハーッ!」

 それに合わせてハイヤードが聖剣を斬りつける。斬撃は肩口に直撃したが……


「だめだ! 聖剣がバリアを通らない! そんな事があるのか?!」


 ハイヤードは叫んだ。だが、構わずショーマは胴体をひねらせて左パンチを打ち込む。


「うわああ!」

 レフティが叫びつつも、シールドを集中させて魔王の脇腹に突っ込んだ。

 魔王の体に波紋のような模様が走る。


「やった! バリア、中和できました!」


「いいそ、レフティ! このまま畳み掛ける!」 

 と、ショーマが言った瞬間、魔王の腕から石礫の雨が打ち込まれた。


 ショーマがガイザーの左腕を上げてシールドで覆おうとするが間にあわず、接触した石礫が爆発した。ガイザーの表面が瓦礫となって崩れていく。


「させないっ!」

 ヒューイがガイザーの額から熱線を放った。それが魔王の腕に直撃しその動きを止めた。


 ガイザーが斬りかかるも、それを躱した魔王が爪による連続攻撃を始めた。

 それをガイザーは剣で払い、シールドで受け止める。

 ガイザーの全身に大トレント様の根や枝が通っているので、動きはかなりいい。


 すると、魔王は教会にぶつかるのも構わず後退し、間合いを開けた。


 ショーマはコアにあの魔法陣が出現しているのを見た。


「頼む! レフティ!」

 ショーマは左腕を突き出した。


 魔王は最大火力のビームを撃ち放った。すべてを焼き溶かすほどの熱線だ。


 だが、それをレフティが屈折させて空へと飛ばした。


 ショーマは目をつぶっていたにもかかわらず目がくらんだ。耳鳴りも酷い……

『出せ……出せ……』

 誰かが叫んでいる。ハイヤードだろうか?

『魔法……重だった……急げ……』

 どうやら死なずにすんでいるようだ。ハイヤードはなんと言っているのだろう?


「二発目が来るぞ! ショーマ!」 

 ショーマはカッと目を見開き、とにかく右腕を前に出した。

「ハッ!」

 ハイヤードの聖剣の一閃とビームの発射は同時だったが、ありえないことに、聖剣はビームを切り裂き四散させた。


「ビームって斬れるものなのか?!」

 ショーマは感嘆した。


「レフティは? 生きてるか?」

「そんなことより、僕をアリア姫のところへ!」

 と、気丈にもレフティが叫ぶ。


 ガイザーは間合いを詰め、聖剣で斬りつける。そしてついに、ハイヤードは魔王の両腕を斬り落とした。


 だが魔王はさらに後ろに下がり、多数の光弾を撃ちはなった。


「私だって防御はできる!」

 ハイヤードは聖剣を振り回して、迫りくる光弾を次々に斬り裂いていく。


 だが、その隙に魔王はバリアを復活させた。


「ショーマ殿! もう大トレント様が限界ですぞ!」

 ホビーが急を告げた。もう猶予がない。


「レフティ! ハイヤード! ワンツーで攻撃だ! これで決める!」


 そのとき、ガイザーの左手首が爆発した。

 レフティが振り返るとそこに四本の筒が出現し、後方に向けて水蒸気を吹き出している。

 ブースターというものを知らないレフティでさえもこれが何なのかを察した。


「うぁあ……まじですか……」


「ボルトハンド! シュートォ!」

 ショーマの叫びとともに、ガイザーは渾身の左ストレートを放った。

 そしてレフティごと左手を発射した。


「うわあああーーー!!」

 放たれたボルトハンドはレフティのマジックシールドを魔王の首にぶち当てて、再び魔王のバリアを粉砕した。

 そしてそのまま首根っこを掴み取る。


 左手と左腕は細い枝でつながっている。

 ガイザーはこの枝を引き込んで、魔王を食い止める。


「耐ショックバフ・レベル3!」

 レフティはコアの中のアリア姫に向けてバフを放つ。しかし効果があったように見えない。


 その時、コアに再び魔法陣が現れた! しかも幾重にも……


「アリア!」

 レフティがバルトを外し、アースハンドからコアに飛びついた。

「レベル6!」


「今だ! コアに私を叩き込め!」

 ハイヤードが叫んだ。

 ファイヤファルコンが後ろに炎を噴出し、エレメンタルガイザーが前に跳ぶ。

「アースハンド! アタック!」

 ショーマがエレメンタルガイザーの右パンチを放った。


 瞬間、その手の甲に乗ったハイヤードが打突の構えのまま、魔王のコアへ突き進むのが見えた。



   ◯



 ガイザーの右腕はコアを砕き、魔王を貫いた。


 魔王の動きは止まり、バラバラに崩れ去っていく。


 程なくエレメンタルガイザーも膝をついた。

 アクアガイザー、アースガイザー、ボルトガイザーは崩れて土塊になり、大トレント様はその巨体をよたよたと動かして、その土塊からはなれた。


 ファイヤファルコンも無傷ではあるが魔力を失っており、その場で着地した。


 地上に降りたショーマ、ホビー、ヒューイがあたりを警戒する。どうやら他に魔物はいないようだ。


 王都は静寂に満ちていて、風一つ無い。


 その時、魔王の瓦礫から人影が現れた。アリア姫を抱きかかえたハイヤードとレフティだった。


「ふたりとも、無事だったっか! アリア姫は?」

「あぁ、気を失っているが、取り敢えず命は無事のようだ」

「さすがは勇者ハイヤード様だ」

 と言って、ショーマは笑ってハイヤードの肩をたたいた。


「やった! やったぞー!!」

 と、ショーマは勝どきをあげたが、ハイヤードとレフティも揃って気を失ってしまった。

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