第13話 新合体

 魔王は都壁に到達し、それを崩し始めた。今のところ魔王はハイヤードたちを無視している。 


 アクアガイザーは不穏な風になびく草原に、やっと着地した。ハイヤードたちは側に舞い降りたファイヤファルコンへ小走りで向かった。


「まったく、なんてざまだ! 俺のアクアガイザーが傷だらけだ。水のマナも使い切りやがって」

 ファイヤファルコンのコアからヒューイと共に、ショーマが現れた。

 彼は笑いながらハイヤードの元に近づいた。


「大トレント様の運搬ご苦労だったな! ハイヤード」

「ショーマ! その顔つきだと順調にマナが溜まったようだな」

 と言って、二人は手を取り合った。

「ああ! 闇属性のモノたちが大いに暴れたお陰で、五大精霊のご加護を浴び放題だった」

 と言いつつ、ショーマはレフティとホビーの手も取った。


「でも、なぜここに? 私たちにマナを届けに来てくれたのか?」

「いや……勝負したくなったんだよ。俺の合体ロボで、あいつをぶん殴ってやろうってね。それができそうなほど、マナを得ることができたんだ」


「手伝ってくれるのか!」

 その問いに、ショーマはちょっと考えて、あごひげを撫でた。

「そうだな……ホビー、大トレント様のご機嫌はどうかな?」

 と、ショーマは急にホビーに問いかけた。

「もちろん、戦う気満々ですぞ!」

「よし! ハイヤード、レフティ。これを見てくれ!」

 ショーマはハイヤードとレフティに紙を一枚づつ渡した。


「何だい? これは?」

「今回の『合体シークエンス』を書いた『マニュアル』だ!」

 ショーマは興奮と緊張が混ざった顔をした。

「合体シークエンスってなんだ?」

「どういうふうに合体するのかという、手順だね」


 それを読んでハイヤードは言った。

「この前と、ぜんぜん違うじゃないか!」

「それはそうだよ。もうフレイムガイザーはないのだからな」

 そう言うと、ショーマはハイヤードにアースガイザーのスタチューを、レフティにボルトガイザーのスタチューを渡した。

 そしてさらに、かなり太いベルトを二人に渡した。


「ふたりとも、手を出してください。ああ……ホビーも……」

 と、レフティが言って、四人が手を合わせた。

「耐ショックバフ、レベル3です」


「いいのか? 本当に?」

 ショーマは申し訳無さそうに言った。

「後悔したくないですからね」

 そう言って、レフティはバフを掛けた。

 その時ハイヤードは無言だった。


「さぁ! 作戦開始だ!」

 ショーマの一言により、三人は位置に着いた。


 ショーマはアクアガイザーに乗り込むと、コックピット内にあるスロットに宝石箱のようなものを挿し込んだ。

 すると、緑のオーラが頭上の大トレント様を包みこんだ。


「おぉ、木のマナが満ちてきましたぞ。これは一体……」

 ホビーが感動の声を上げる。


「マナを詰め込めるアイテムを考えたんだ。スタチューの一種だがね」

 と、ショーマは言って、別の箱をスロットに挿し込む。

 すると同じく、アクアガイザーの傷が癒え、回復していく。


 その前方でハイヤードとレフティがアースガイザーとボルトガイザーを具現化させた。


(前よりゴツくなってるな)

 と、ハイヤードは思って、アースガイザーに乗り込んだ。

(王都に被害が出てしまった……絶対にここで魔王を止めないと……)


 ボルトガイザーに乗り込むレフティにも思うところはあった。

(アリア姫を絶対に助けないと……僕が不甲斐なかったから、こんなことに……)


「準備はできたな! よし前進だ!」

 ハイヤードの号令のもと、三つのゴーレムは進みだした。




   ◯



 封印されていた幾年もの間、我が体は閉じ込められ、休むことさえ許されなかった。意識は絶え間ない混濁の中にあり、時間の流れすらも感じることができなかった。ただ一つ、王家への恨みだけが、冷たく燃え続けていた。


 そして今、ついに手に入れた多量の魔力。この力によって、我は長年の恨みを晴らすことができる。あの城に集う戦力に向けてこの力を放つのがふさわしい。


 その瞬間、我の意識は完全に覚醒するだろう。そうなれば、かつての威光を取り戻し、恐怖と絶望を再びこの地に振りまくことになる。



   ◯



 城壁の瓦礫を超え、三つのゴーレムが都内に入ってきた。

 ボルトとアースガイザーが瓦礫を押しのけ、そこを大トレント様を背負ったアクアガイザーが通っていく。


「戦闘は起きていないな。王家の精鋭は城に結集しているみたいだ」

 と、ハイヤードは言った。

「ビーム一発で全滅しなきゃいいが……」


「そろそろ頃合いだ!」

 ショーマが大声を張り上げた!

「行くぞ! 五大精霊の力を見せてやる!」


「よし、まずは俺からだな!」

 と、ハイヤードが呼応して、自身が搭乗するアースガイザーの変形を始めた。

 アースガイザーの頭部が横にスライドすると、中から折り畳んだ状態の足首が出て、展開した。

 そして、胴体が起き上がり、ブーツのような形になる。その中から、太腿部分がせり上がり、右脚を形作った。


 レフティのボルトガイザーも同様に変形して左脚になる。

「準備できたよ、ショーマ!」


 ファイヤファルコンが大トレント様を掴み上げ、すぐに両足の上に乗せた。

 大トレント様が腰になるのだ。

 何本もの根が両脚の内側の空洞に伸びていく。

 根は足首のところまで伸びて絡みつき、強固に結合した。


 魔王は背後に奇妙な魔力の高まりを感じて振り向いた。

 そして、煩わしいその木偶人形を吹き飛ばそうを手を上げた。

 その時、ファイヤファルコンが魔王に爆発する礫の雨を降らせた。


「助かる! ヒューイ。そのまま牽制してくれ!」

 ショーマはアクアガイザーの変形をはじめた。

 自身がいるコックピットをせり上げ、甲羅の下から、腕のパーツを出す。

 そして、その両腕を吊り下げたまま大トレント様の頭上まで上昇し、被さるよう前後に折って合体させた。


 大トレント様の枝が、アクアガイザーの内部から肩へ通り抜け、さらに腕部を抜けて、くるぶしの位置にあるアースガイザー、ボルトガイザーの頭部まで伸びて絡みついた。

 枝はハイヤード、レフティがいる両頭部を引き上げて手首に接続した。


「ヒューイ! 準備できてるぞ! 早く来てくれ!」


 その時、ヒューイは魔王に熱線を浴びせていた。

「わかったわ。今そっちに行く」

 ファイヤファルコンは大きく翻って急上昇する。


 魔王は追撃の黒い稲妻を放つが、それをかわしたファイヤファルコンは轟音で空を揺るがして急降下し、合体ゴーレムの背中側に舞い降りた。


「待たせたわね!」

 ヒューイはそう言うと、ファイヤファルコンの鉤爪をアクアガイザーの背部に噛み合わせて固定させた。


 最後にファイヤファルコンの頭がアクアガイザーのコックピットに乗って合体し、髪飾りのように首の羽を広げた。

 合体完成だ!


 身長二十八ワイド・五十六メートル。

 その強大な翼の推力で、全体が引き上げられ、堂々たる姿となった。


 ショーマの声が、辺りに響き渡った。

「五大精霊たちよ! 御照覧あれ! その名も! エレメンタルガイザー!」

 水火木土雷、五つのエレメントが鳴動する。


 遂に決戦の時だ。

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