第12話 魔王進撃
「魔王だ! もう王都まですぐだぞ!」
暗闇を切り裂く朝日が魔王の背中を照らしている。王都の外壁まで、あと少しだ。
都壁に設えた十六門の大砲が一斉に火を吹いた。
頼りない速度で飛び出した十六の砲弾が魔王の体に命中するが、全く効果がない。
砲撃はさらに続く。
その時、上空から流星が現れ、魔王の足元に炸裂した。雷が落ち、巨大な氷柱が突き刺さり、無数のファイヤーボールや光線が打ち付けられる。
あらゆる攻撃魔法が次々と繰り出され、魔王を試すかのようだ。
さらに、熟練の土魔法使いが小山やクレパスを出現させて、魔王の足元を崩そうと試みる。
「いい手だ! しかし、相手は三本足……」
ハイヤードは思わずつぶやいた。脳裏にショーマの顔が浮かぶ。
魔王はそんな罠も軽々と踏み越えていく。
大トレント様はその巨大な幹をひねってバランスを取りつつ、アクアガイザーを魔王の方へと滑空させていく。
ハイヤードは王国側の攻撃に目を凝らした。
「攻撃が効いていないな……どう思う? レフティ」
「距離が遠いんですよ。だから威力が落ちて、魔力ばかり余計に使うことに。魔王の大きさが距離を錯覚させているんです」
その時、魔王のコアから発射されたビームが壁上を一掃した。そこにいた人間をかき消し、火薬を爆発させた。
爆発の光が、ハイヤード達を照らした。
(くそっ! やってくれたな! この私の目の前で!!)
ハイヤードが歯を食いしばる。
さらに魔王から電光がバチバチと走る。近づいてきた飛行系魔法使いやドローンを焼き切っているのだ。
そして、その間にも、魔王は魔力を溜めていた。
「二射目を撃ちます!」
レフティが叫んだ瞬間、魔王のビームが王都を縦断に焼き払い、中央高台にある王城の尖塔の一つを焼き落とした。
「レフティ! アクアガイザーの中に入るぞ! 奴に接近する」
「何をする気ですか?」
「ホビーも聞け。これからアクアガイザーをトレントを乗せたまま、魔王の三本足の下に潜り込ませる」
ハイヤードはそう言ってレフティとホビーを見た。
「その状態からトレントの枝を上に伸ばして魔王を絡め取る。そして、私とレフティが枝を伝ってコアまで行くんだ!」
「すごいです! ちゃんと考えていたんですね!」
レフティがハイヤードを褒めたたえる。
「ちょっと待つのですぞ!」
ホビーは納得しなかった。
「魔王に触れたら魔力を吸われると聞きましたぞ。そんな事をしたら大トレント様が死んでしまいますぞ!」
「私たちがコアを破壊するまで耐えてほしいんだ」
「無理ですぞ。それなら、ショーマ殿の話の方がまだマシですぞ」
「ショーマの話だって!?」
「ヒューイ殿に教えてもらったのですぞ」
その時、レフティが上空を指さした。
「見て、ハイヤード。あれ、ワイバーンですよ! 近づいてきます!」
ハイヤードもすぐに上を見た。
(なんて、ひどいタイミングだ!)
◯
そこにいたのは二十、いやそれ以上の数のワイバーンだ。それがハイヤード達に向かって降下してきた。
魔王は魔物軍を置き去りにしたと考えていたが、付いてきた魔物もいたのだ。
ワイバーンはファイアブレスを吐いてきた。これは火の雨だ。
「わー! 大トレント様が燃えてしまいますぞ!」
だが、ファイアブレスはマジックシールドによって阻まれた。
(だが、アクアガイザーを狙われたらまずい)
ハイヤードは急いでアクアガイザーの後からマジックシールドを抜けて、尾端の部分まで行く。
「私の聖剣の! 力を垣間見よ!」
聖剣の溝から青白い光がほとばしり、五ワイドの長剣に変貌した。
ハイヤードはワイバーンもそのブレスも、聖剣で斬り払っていく。
ワイバーンは悲鳴を上げて落ちていくが、それでも、続々と後ろに取り付こうと迫ってくる。
レフティはアクアガイザーのコックピットに飛び込むと、すぐさま、高度を地面ギリギリにまで落とした。草原を腹を擦るほどに低く、最大速度で飛ぶ。
ハイヤードがワイバーンを次々と斬り落として行くが、まだ数が尽きていない。
(まずい。このままだと、魔王との挟み撃ちになるぞ……)
ハイヤードの表情には焦りが滲んでいた。その時……
突如として、空から高温の火の礫の雨がワイバーンどもに叩きつけられた。周囲は炎に包まれ、ワイバーンどもはすべて粉々になった。
「来たか!」
ハイヤードが見上げると、そこには真っ赤な飛行ゴーレム、ファイヤファルコンがその赤い背中を見せながら大きく旋回していた。
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