第10話 追跡
……数分前
「これが王家から送られてきた伝書です」
町長がハイヤードに手紙を渡した。
ハイヤードはこれを一読した。
「要するに『隠れてやり過ごせ』と言うことか……」
(王はこの辺りは見捨てて、王立軍を王都に配置するつもりだな……)
「まぁ、仕方ないね。どの道、間に合わなかったろうから」
と、彼は肩をすくめて言った。
「勇者様には、助けて頂いて本当に感謝しています」
「お礼なら大トレント様に言ってくれ。無類の戦いぶりだった。ところで祭壇の方なんだが……」
「もちろん、準備できていますとも。しかし五大精霊全ての祈祷台ということで、よろしかったのでしょうか?」
町長は困惑した素振りをした。
「ああ。彼は一度に全部祈祷するんだよ」
その時、大きな音と衝撃がおきた。
その場にいた者たちが困惑の表情を浮かべていると、ショーマとヒューイが慌てて、この町民会館に入ってきた。
「大変だ! 魔王がこの上を飛んでいったぞ!」
と、ショーマが叫んだ。
未だに食事を続けていたレフティが豚の丸焼きを頬張りながら飛び上がった。
「え?! じゃあ、さっきの音はカミナリじゃなかったの?!」
ハイヤードたちは慌てて外に飛び出した。
「どこだ?! もう見えないか……」
ハイヤードは静かな星空を見て、がっくりとうなだれた。
「空を飛べるなんて……これじゃあもう、手遅れだ……」
「まて、ハイヤード。まだ王都直撃とは決まっていない。このカルフールの森を飛び越えただけかもしれないじゃないか」
と、ショーマはハイヤードを落ち着せようとする。
「だったら、私は行く……」
「なんだって?」
「君は降りたのだから付いて来なくていい。私とレフティとトレントだけで行く。トレントが君の代わりをやってくれる!」
「大トレント様をどうやって連れて行くつもりだ?」
「ヒューイ、ファイヤファルコンでトレントを運べないか?」
と、ハイヤードがヒューイに聞いた。
「あの大きさの物を? 長時間は無理よ。足がもげちゃう。それに大トレント様の方だって、噴煙で燃えてしまうかもしれないわ」
ヒューイは肩をすくめて答える。
「仕方ない。トレントに走ってもらおう。あれでも馬並みに動けるんだ」
「無茶だ。そんな移動、長く持つはずがない」
ショーマは呆れ返った。ハイヤードは大トレント様の移動手段を考えてなかったのだ。
「ハイヤード、お前にアクアガイザーを貸そう。大トレント様をアクアガイザーに乗せて運べば、少なくても大トレント様自身が動くよりもスピードが出せる」
「マナは大丈夫なのか?」
「アクアガイザーは昼の戦闘で使っていないから水属性のマナはあるんだよ」
「そうか……助かるよ」
一瞬、心折れそうだったハイヤードであったが、何とか立ち直ったようだ。
◯
祭壇の前で、ショーマは祈祷を始める前にアースガイザーのスタチューを調整していた。
「じゃあ、私は行くよ、ショーマ」
魔王追撃のための準備を終えたハイヤードが顔を出してきた。
ショーマは黙ったまま、こんどはボルトガイザーのスタチューを調整し始めた。
「ショーマが五大精霊の全てを祈るようになったのは、そいつのせいか?」
と、ハイヤードはスタチューと一緒に置いてある、カラフルな人形を指差した。
「ああ、五つの力を一つに合わせる。その象徴だ」
「その玩具はどこで手に入れたんだ?」
「四歳の時、パープルヒーに流れ着いた時に掴んでいた物だ」
「じゃあ、生まれ故郷の物ということか?」
「そうだ、俺の故郷の記憶が間違っていないと言う証拠だ」
「俺の故郷にはこんな合体『ロボ』がいくつも居た」
と言って、ショーマは人形を掲げた。
「合体ロボ? 実際にそれを見たのか?」
「いや、水晶版で見ただけだ。その頃の俺は体が弱くて、滅多に家から出られなかったのだと思う」
ショーマは話を続けた。
「……とにかく、俺の故郷では動物の様なものとかが五つ合体して巨大ロボになるんだ。そして、巨大モンスターと戦っていたんだ」
「君は同じ合体ロボを造ろうとしているんだな?」
「そうだ。俺の故郷にあった物と同じくらい大きなロボを造って、それで名を馳せれば、故郷の方から俺を見つけてくれるかもしれない……」
ハイヤードはショーマの背中を叩いた。
「だったら、魔王なんて格好のターゲットじゃないか。一緒に行こう!」
だが、ショーマは首を振った。
「マナがなくては勝ち目はない。やっぱり俺はここで祈祷をするよ」
「そうか……じゃあ、ヒューイを誘おうかな」
「無駄だね。ヒューイは負け戦には参加しない」
「そうか……じゃあ、行くとするよ」
立ち去ろうとするハイヤードをショーマは呼び止めた。
「これを持っていけ。俺の手持ちのドローンだ」
と言って、ドローンのスタチューが五個ほど入った袋と兜を渡した。
「マナが順調に貯まったら、戦うところを見に行くよ。だから、適時ドローンを飛ばして情報を送ってくれ」
「わかった。気が向いたら、見に来てくれ!」
と言って、ハイヤードは立ち去った。
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