第9話 カルフール防衛戦
魔物たちが町に接近してきた。 町の手前に広がる畑に侵入したゴブリンやオーガなど、大小さまざまな魔物たちが密集している。
「よし! 迎え撃つぞ!」
と、ハイヤードが気合の入った声を上げた。
まずはファイヤファルコンが火球を投下し、畑一面を絨毯爆撃する。小さめの魔物たちはほとんどここで力尽きることになる。
その混乱の中、ハイヤードを鼻先に乗せたアースガイザーが突進した。
「私の聖剣の! 力を垣間見よ!」
ハイヤードの叫びとともに掲げられた聖剣が光り輝き、刀身が五ワイド・十メートルも伸びた。
「そこだ、ショーマ! 突撃だ!」
アースガイザーがオーガにぶつかるギリギリのところを走り抜ける。すると、オーガは真っ二つに斬られ、魔素へと崩れた。
アースガイザーが連続スピンターンをしながら、大型の魔物の近くを縫って走る。そして、ハイヤードがそれらを次々と斬り捨てていく。
アースガイザーよりも背の高い魔物もいたが、今のハイヤードの敵ではなかった。
「爆撃を避けて、敵が森側に集まってきているわ! レフティ、掃討して!」
と、ヒューイが上空から支持を出した。
「それっそれっそれっ!」
と、レフティがボルトガイザーを走らせる。レフティがここまで攻撃に徹することがまれだからだろうか? 妙にテンションが高くなっているようだ。
ボルトガイザーはその角からの電撃によって、逃げ惑う小型、中型の魔物を焼き消している。
これらの攻撃を何とか切り抜け、町の入口までたどり着いた魔物たちの前に、大トレント様が立ちはだかる。
「大トレント様! こやつら一匹たりとも通すわけには行きませんぞ!」
と、叫ぶホビーに呼応して、大トレント様は風を起こして雄叫びをあげた。
無数の枝や根が一斉に伸ばして、魔物を鞭のように叩き、貫き、巻き付いて引きちぎる。
「うぁあ、何だあれ……」
戦いの最中に大トレント様の動きを見たショーマは思わずつぶやいた。
あの大きさであの動きは、さすが生物系の化け物と言ったところか。
(あの動きをゴーレムで再現できたら……)
◯
半日と経たず戦いは終了した。
敵は侵略を諦めて四散し、味方に被害はなかった。大勝だ。
ただマナはほぼ使い切った。
古代ゴーレムであるファイヤファルコンはマナが無くなってもそのままだが、他のゴーレムは崩れてスタチューだけになってしまった。
◯
町の民から歓迎され、振る舞われた食事を食べ終えた後。
中央の広場で休むファイヤファルコンの前で、ショーマとヒューイが話をしていた。
「最後はもう、消耗戦だったな」
と、ショーマがあごひげを撫でながら言う。
「だが、精霊の加護があった。それでなんとか持った」
「五大精霊は今回の事件を憂いているのよ。だから、闇の精霊に立ち向かうあなた達に加護を与えてくださるの」
「ところで、ヒューイさん。これを見てほしい。戦闘後に書いたんだが……」
と言って、ショーマはヒューイに紙を渡した。
「なによこれ」
「なんとゆうか、『マニュアル』だな。それを一通り読んだら、ホビーに読み聞かせてほしい」
「ふうん。やる気が無くなったと思っていたのに」
「……勇者ハイヤード様の奮闘を特等席で見たからね。俺にもなにか出来るかもと思っただけだよ」
と、ショーマは鼻を掻いた。
「いいけど……忠告しておくわ。わたしのファイヤファルコンと連携にするなら、火属性に統一すべきよ。そのほうが力が出せるわ」
「それは効率の話だろ? 最大パワーを出すなら属性を重ねたほうが良い。それが俺流だ」
「ファイヤファルコンは火の精霊に近いのよ! 祈祷しなくてもマナが貯まるのよ。それに合わせるべきよ」
「それは、大トレント様も一緒だ。ということは火と木の属性のマナが黙っていても貯まるわけだ」
と、ショーマは人差し指を立てる。
「土属性のマナは祈祷すればすぐに貯まる方だ。後は水と雷の精霊様への祈祷を頑張れば、五大属性のマナが揃うんだ」
ショーマはヒューイの方を振り向いてつづける。
「五つの力が一つになるんだよ」
「五大精霊の霊力がひとつになるなんて、そんなの無理よ」
と、ヒューイがそっけなく言った。
「ところでヒューイさん。一つ聞きたいことが」
と、ショーマはポンと手を叩いて言った。
「メートルという長さの単位をご存知かな?」
「え? 知らないわよ。なによそれ?」
「俺の生まれ故郷で使われた単位なんだが……」
ヒューイは頭の羽を触りながら言った。
「それって、どんな定義なの?」
「定義?」
「ほら、ワイドは両手を広げた長さでしょ?」
と言ってヒューイは実際に両手を広げてみせた。
「メートルっていうのは何?」
「あぁ……! 俺が四歳だったときの身長だよ」
「な・に・よ・そ・れ」
「だから……」
その時! 夜の帳を斬り裂いて、彗星のように光るものが真上を飛びぬけた。それと同時に爆発音が響き渡る。
「あ……あ……」
ショーマとヒューイは驚愕した。
「魔王が……魔王が空を飛んでいる!」
ショーマたちが見たものは。三本の足それぞれに光を放ちながら、夜空を直進する魔王の姿であった。
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