第8話 大トレント様

 アースガイザーは改造され、ファイヤファルコンの腹に固定出来るようになった。これで安定する上に、空気抵抗も軽減できる。


 そしてファイヤファルコンは一路カルフールの森へ飛翔した。


「カルフールの森には以前、俺が討伐したモンスターが居る。そいつならゴーレムの代わりに俺とレフティを魔王のコアまで持ち上げることが出来ると、思ったんだ」

 と、ハイヤードは説明した。



   ◯



 ファイヤファルコンはカルフールの森に到達した。

 それに懸下してあるアースガイザーから転眼の水晶玉をつけたドローンが投下された。


「居ないな、ここに居るはずなんだが……」

 と、兜をかぶってドローンを操作するハイヤードが言う。


「何を探しているの?」

 と、ヒューイは聞いた。

「柳の木だ。でかいやつだ」

「森の中の木なんて見つからないよ」

「いや、本当にでっかいんだよ」


「それよりも、あれを見てよ……」

 ヒューイはファイヤファルコンを旋回させた。遠くに黒い群れのようなものが見える。

「魔物群がこの森に来ようとしている。ぼやぼやしてられないよ」

「うーん……南の方に町があるから様子を見てみよう」

 ハイヤードはそう言って、ドローンを南へ飛ばした。すると……


「あ! あいつ町の中に居やがった! 町には近づくなと言っておいたのに……」


 カルフールの大柳のモンスター『トレント』。

 この地で暴れていたこの動く木を勇者ハイヤードが諌め、使役した。

 高さ十五ワイド・三十メートルと大きく、それゆえか、おとなしくなってからは信仰の対象となり『大トレント様』と呼ばれている。

 根を動かして地上を移動する事ができる。


 ファイヤファルコンはカルフールの町へ向かう。

 そして、木造りの家が並ぶ大通りにいる、大トレント様の眼の前に着地した。


 ハイヤードはアースガイザーがから飛び降りた。

「ホビー! ホビーはどこだ!」

「はい! 勇者様! ホビーはここにいますぞ」

 と、声がして、大柳の枝の中から小さな猿のようなモンスターが現れた。

 ホビーは大トレント様と共生しているモンスターだ。


「なぜトレントが町中にいる? もう、町を襲うなと言ったはずだ!」

 と、ハイヤードはホビーを叱りつけるが……


「王家から伝書ゴーレムが飛んできたのですぞ。ここ一帯に魔物の群れが来るのですぞ」

「それは知っている。町の人達はどうした?」

「町のみなさんは教会の中や地下室に隠れていますぞ。大トレント様は町を守るためにここに来たのですぞ」


「えぇっ?!」

 ハイヤードは驚いて、一瞬口がぽかんと開けたままになった。

「いつの間にそんな感じになったんだ?」


「『守護神』の責務を果たすときだと、大トレント様は言っていますぞ」

 ホビーは得意げに胸を叩いた。


「わかった。じゃあその大トレント様の守護とやらを見せてもらおうじゃないか」

 とはいえ、この柳の木に全てを任せるのは心許ない。

「レフティはボルトガイザーに乗ってくれ。ショーマはアースガイザー、ヒューイはファイヤファルコンファルコンで上空から攻撃だ」


「ハイヤード、魔物たちの目的は何だ?」

 と、ショーマはめんどくさそうに言った。

「奴等に指揮官がいる訳でもない。だから、略奪だ」

「そうか、じゃあやるしかないな」


 町の外が騒がしくなってきた。争乱の前触れとなる、集団の足音や、物騒な遠吠えが聞こえてくる。

 魔王に突撃したときに蹴散らしたときとは、明らかに敵の密度が違う。


 ヒューイがファイヤファルコンのコアに入り、真っ先に飛び立った。


「アライズ……ボルトガイザー……」

 ショーマがスタチューに念を込めると、そこに砂塵が集まり、さらに落雷が発生して、ボルトガイザーが具現化された。


「僕は攻撃魔法を持っていないんだけど、こうゆうやり方で使うことになるとは思ってもいませんでしたよ」

 と、レフティは笑顔を見せながらボルトガイザーに搭乗した。


 ショーマがアースガイザーに乗り、左右の操縦杖を持つと、手が震えているのに気がついた。魔王に手ひどくやられたことがまだ響いている。

「くそっ、こんどの敵は雑魚なんだぞ……火力だってこっちが上のはずだ……」


 アースガイザーの武器は、尻尾のように取り付けた榴弾砲だ。後は硬く造ったサイの顎での体当たりしかない。

 榴弾砲を使うなら、ここから動かなくても戦うことが出来る。


「そうだ、そうしよう。そもそもこいつは遠距離向きだ。今回は後方支援に徹しよう」

 そう、ショーマが思った時、ハイヤードがアースガイザーの鼻先によじ登って来た。


「何やってるんだ? ハイヤード……」

「いいことを思い付いたんだ」

 と言って、ハイヤードはアースガイザーの一本角にベルトで自分を固定した。

「おい、正気か?」

「出来るだけ大物に突っ込んでくれ」

 ハイヤードはそう言って聖剣を構えた。

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