第7話 鳥人ヒューイ

 【第7話 鳥人ヒューイ】


 赤い鳥型ゴーレムはアースガイザーを掴んでぶら下げたまま、その両翼から火炎を吹いて加速した。

 そして、魔王の攻撃範囲から抜け出して、そこにある丘の上にアースガイザーを降ろし、その隣に舞い降りた。


 ハイヤードはアースガイザーから飛び降り、鳥型ゴーレムの前に進んだ。そしてショーマもあとに続いた。

「ちょっと、ふたりとも。注意して!」

 と、レフティがついていく。


 ハイヤードはこのゴーレムは味方ではないかと考えコンタクトを取るつもりだ。

 一方、ショーマはこのゴーレム自体に興味があるようだ。


 赤い鳥型であるが実際に羽があるわけではなく、翼の赤い模様が羽の様に見えている。

 全翼十五ワイド・三十メートルと言ったところか。

 今は翼を畳んでいるが、とても羽ばたけるようには見えない。翼から炎の魔力を出して飛ぶようだ。

 もちろん火属性だ。


「助けてくれてありがとう。私は勇者ハイヤード。あなたのお陰で命拾いしました」

 ハイヤードは心の底から感謝を述べた。


 すると鳥型ゴーレムの胸の喉元のコアから人が現れて地面に降り立った。ただし、普通の人間ではない。全身羽毛で覆われた鳥人だ。

「どういたしまして。わたしはアバルチーの鳥人族の一人、ヒューイよ」

 と言って、ヒューイは右手(翼?)を挙げた。


「アバルチー火山の? ということは、これはあのファイヤファルコン! ああっ、すみません。私はショーマ、ゴーレム使いです。なので、こんな素晴らしいゴーレムを見てつい……」


 レフティもやっと安堵のため息をついた。

「僕は勇者付き魔法使いレフティです。助けてくれてありがとうございます」


 ヒューイはそれを見て嬉しそうに笑った。


 アバルチー火山に住むという鳥人族。彼らはそこに眠る古代文明の遺跡を守護していると伝えられている。

 その、象徴でもあるファイヤファルコンを駆る彼女はまさしく鳥人族の英雄であろう。


「わたしがあれを偵察していたら、いきなりあれと取っ組み合いを始めたものだから、驚いたわよ。ていうか、あれは魔王よね? もしくはそれに類する何か……?」


「そうだ、あれはアリュートアークの白き不屈の魔王だ。それが動き出して、王都へ向かっている。ぜひ、話を聞いてほしい」

 そしてハイヤードはヒューイに事の経緯を語った。



   ◯



 四人はアースガイザーの荷台に泊まることになった。マナを貯めないとゴーレムは動かないし、ハイヤードたちも魔力を回復する必要がある。


 それに問題なのは、レフティが全員に掛けていたレベル3の耐ショックバフの反動が、レフティ自身に出ていることだ。

 このバフがなければ三人共々、死んでいただろうから仕方ないのだが。


「大丈夫……寝ていれば治るから」

 と、レフティは言うが、辛そうにしていて、実際熱も出ている。


「私が王国の剣、レフティが王国の盾と比喩されて、本気でぶつかればどちらが勝つか、と言われている。だけど、真摯さにおいて私は勝てないような気がする」

 ハイヤードはそう自嘲気味にショーマに言った。


 実はショーマも耐ショックバフ・レベル1なら掛けることが出来る。

 大型ゴーレムに乗る場合、衝撃はつきものだから、習得しているのだ。

 だが今回、作戦前にショーマはハイヤードと共に、レフティのレベル3を受けていた。ついでに、というノリだった。


 ショーマはあごひげに手を当てた。

(作戦は失敗だった。魔王には圧倒され、レフティの耐ショックバフがなければ死んでいたと思う。俺は、勇者の足を引っ張っただけなのではないか?)


「まだやる気なのかい?」

 と、ショーマがハイヤードに聞いた。


「と……当然だ、何としてもアリア姫を助けないと……」

 ハイヤードは座って、壁に寄りかかった状態で答えた。


「俺はもうゴメンだぜ……」

 と、ショーマは虚ろな目をして言った。

「何だって!?」

「名声のことなんか考えるんじゃなかった。自慢のゴーレムを二つも失ったんだぞ! それどころか、危うく死ぬところだった!」


「それは……すまないと思っている。だが、力を貸してくれないか?」

 ハイヤードは苦渋の表情を見せる。

「実は、アリア姫の封印調査に私も同行する予定だったんだ。しかし姫はいち早く出発してしまった。私が動向していればあんな目に遭わせずに済んだかと思うといたたまれない」


 ハイヤードはそう訴えると、両目をつむって、

「さらに王都まで襲われる事になったら、勇者としてやっていけない」

 と、付け加えた。


「そうは言うけどね、イメージが沸かないんだ。勝つイメージが」

 と、ショーマは頭を掻いた。


「他にゴーレムはないのか? ショーマ」

 ハイヤードは辛そうな顔で聞いた。

「アクア、ボルト、アースの三つだけ。まぁ故郷に戻れば余りスタチューやゴーレム鍛造釜があるが……」

 ショーマは首を振った。

「使い物になるスタチューはないし、新しくスタチューを造るには数ヶ月かかる」


「故郷はどこなんだ?」

「パープルヒー、王国西海岸だ」

「遠いな……だがそこには、二十五ワイドもあるゴーレムがいるんだよな?」

「え? あ、いや……、それは俺の『生まれ故郷』の方だ」

「生まれ故郷?」

「うーん……」

 ショーマはどこまで話していいものかと悩んだ。


「俺は四歳の時、パープルヒーの海岸に流れ着いたところを村の人たちに助けてもらったんだ」

「船が難破したのか? それじゃどこの国の生まれかもわからないのか?」

「いままで探しているんだが見つからない」


「となると、それも当てにできないか……」

 ハイヤードは両手を握りしめた。


「ちょっといいかな?」

 横で座って話を聞いていたヒューイが言った。

「あの魔王が放つ闇のマナは計り知れない。周辺の草木を枯らせ、魔物を生み出している。あれを進ませるわけには行かない。力があるなら放棄してほしくない」


「ヒューイ……」

 と、ハイヤードは懇願するかのような目でヒューイを見る。


「いえ悪いけど、わたしも魔王に立ち向かうのは勘弁したいわ。あんな物にまともにぶつかるほど、ファイヤファルコンは頑丈じゃないのよ」


「わかってる。そうじゃなくて、私をカルフールという森へ連れて行ってほしんだ。そこに宛があるんだ」

「良いけど、ファイヤファルコンのコアには、わたしと後一人しか入らないよ?」

「うぐ……」

 ハイヤードは絶句した。レフティを置いていくわけにはいかない。先の戦いでレフティの重要性が示されている。


「わかった、わかった」

 ショーマが口を開いた。

「魔王から逃げ出したときみたいに、アースガイザーを吊り下げれば良い」


「ショーマ……」

 ハイヤードは涙目になった。

「乗りかかった船だ。高みの見物でいいなら、付き合ってやるよ」

 と、ショーマはあごひげをなでて言った。


「そうと決まったら、祈祷をはじめるか」

 と言って、ショーマは雑嚢を持って外に出ていった。

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