第6話 魔王戦

「ばかな! レプリカとはいえ、古代ゴーレムはこんなに重くないだろ!?」

 ショーマはおののいた。必死に操縦杖を前に倒して耐えようとする。

 噴射口からけたたましく水蒸気が吹き出す。


 だがこれはチャンスでもあるはずだ。

 対抗するように、キング・フレイムガイザーも魔王の両肩に手を当てて、押し相撲のような体勢にする。


「今だ! 乗り移れ、ハイヤード!」

「ヨシッ!」

 右拳に付いたコックピットから抜け出したハイヤードは魔王の左肩に飛び乗った。

 左拳にいたレフティも乗り移り、滑り落ちないように注意しつつ、鎖骨の部分を渡って胸元のコアまでやってきた。


 コアは赤く光っているが、アリア姫の姿が浮き上がっている。

「くそ、このコア、アリア姫を盾にしているじゃないか」

 ハイヤードは悔しそうに言う。


 アリア姫は生きて『保管されて』いるようだ。いつまでもこんな目に遭わせるわけにはいかない!


「レフティ! アリア姫に耐ショックバフを掛けられるか?」

「出来ると思うけど、コア越しだから時間がかかるよ?」

「姫にレベル3のバフを掛けてくれ。そしたら、コアを叩き割る」

 ハイヤードは聖剣を構えた。

 その時、高音が鳴り響き、魔王が多数の魔法陣を展開してビームを撃ちはなった。


「アクアシールド!」

 ショーマが叫ぶと、水の壁が現れた。

 だが、ビームはそれを吹き飛ばして、キング・フレイムガイザーを貫いてしまう。


 キング・フレイムガイザーも対抗してファイアボールを魔王の腹に向かって撃つも、効いているようには思えない。 


「スラッシュ!」

 ハイヤードは聖剣を振って、その衝撃波を魔王の喉に飛ばしたが、まるで効き目がない。

 今度は魔王の胸元に斬りつける。だが、その体に張り巡らされた魔のバリアが聖剣のエネルギーを弾いてしまう。


「ショーマ! 私たちに構わず、離れろ!」

 と、ハイヤードが叫んだが、ショーマは魔王の動きを抑えようと奮闘し続ける。


 次の瞬間、魔王か振り上げた腕が、キング・フレイムガイザーの右肩、アースガイザーとの接続部を叩き折った。

 そのままアースガイザーは地面に落ちていく。


「ハイヤード! 僕のマジックシールドで魔王のバリアを中和できるよ!」

「いや! それには及ばない……全力を出せばいいだけだ!」

 と言って、ハイヤードは両手で聖剣を掲げた。


 そのとき、突然ハイヤードの全身の力が抜けた。

 力が脚から抜けた感じだ。レフティも同様に体勢を崩している。

 そして、ふたりとも魔王の胸元から滑り落ちた。


「危ない!」

 ショーマは必死にキング・フレイムガイザーの残った左手を操作して、二人を受け止めた。だがその時、ショーマは魔王のコアに現れた複雑な魔法陣を見た。

 次の瞬間、目を焼かんばかりの光線が発射された。



   ◯



「クッ!」


 ショーマは目をしばたいて、視野を回復させた。

 その時、コックピットの屋根が割れ、熱い砂となって崩れ始めた。

 ショーマは慌ててコックピットの窓から外に出て、後ろを仰ぎ見た。


「あぁ!!」

 ショーマは驚きと恐怖を感じた。そこにあったフレイムガイザーがかき消され、チャリオットも外郭しか残っていなかったからだ。

「マナが抜けていく! 崩れるぞ!」

 キング・フレイムガイザーの脚が折れ、腰を落とすと、ひび割れて崩れ始める。


 左手からこぼれ落ちたハイヤードとレフティは地面に叩き落された。


 周囲は砂塵が舞い視界が悪い。


(今のうちに逃げるしかない)

 ハイヤードがそばを見ると、左腕だったボルトガイザーが横倒しになって崩れ始めている。


「レフティ! ボルトガイザーのスタチューを回収するんだ!」

 と、ハイヤードはレフティに指示をした。


 ハイヤードは何かの接近を感じた。魔王の足元にいたモンスターたちだ。

「聖剣よ!」

 その声に答えて、落とした聖剣がハイヤードの手元に飛んできた。

 今の体力では聖剣の力の百分の一も発揮できないだろうが、これに頼るしかない。


 砂塵の中から、ゴブリンが三匹飛び込んできた。更に続いて他のモンスターも襲いかかってくる。

 それらをまとめて斬り倒しつつ、レフティのもとに下がった。


「ハイヤード! スタチューを見つけた!」

「具現化出来るか?」

「ダメです。マナが全然無い!」

「走れるか? ここから脱出するぞ!」


 レフティは顔についた砂を拭いながら、なんとかついて行く。

 ハイヤードは棍棒を振り回すゴブリンやオーガを斬り伏せるも、相手は数が多い。それに、砂塵の向こうから古代物でないにしても大きめのゴーレムが何体か近づいて来るのが見える。


「ショーマはどこだ! 彼も助けないと!」

「ハイヤード! 上!」

 ハイヤードが上を仰ぎ見ると、魔王の巨大な脚が降ってきた。


 二人は力の限り横に飛び、巨大な踏みつけを避けた。だがそこを見計らって、ゴーレムが拳を振り下ろして来た。


「危ない!」

 それをレフティがマジックシールドで防いだが、すぐに破壊されてしまう。


 ゴーレムが再び、拳を振り下ろそうとした時、砂煙を抜けてアースガイザーが出現し、ゴーレムを突き飛ばした。


「乗れ! ハイヤード! レフティ!」

 二人をコックピットに乗せると同時に、ショーマが操縦杖を前に押した。

 アースガイザーのエンジンである魔導円盤が高速回転し、急加速で脱出した。


「助かった!」

 三人で狭くなったコックピットのなかでハイヤードが一息ついた。

「スターチューは回収してくれたか?」

 ショーマは聞いた。

「ボルトガイザーは回収しました」

 と、レフティが言う。

「俺はアクアガイザーと、こいつしか回収できなかった!」


 ショーマはアースガイザーを最速で走らせた。

 しかし、突然目前に魔王の光線が落ちて爆発し、その場にいた魔物たちもろとも吹き飛ばした。

「危なっ!」

 ショーマは突然出現したクレーターを大きくカーブして避る。


「レフティ! 後ろが見えるか?!」

 レフティはコクピットから身を乗り出して後方を見た。魔王が再び魔力をためているのが見える。だがそれよりも……


「うぁっ! で、でっかい鳥が! こっちに来る!」

 と、レフティが叫んだ次の瞬間、アースガイザーに衝撃が走り、吹き飛ぶように浮き上がった。


 何かに捕まったと、ハイヤードは思った。見上げると、巨大で真っ赤な鳥の首が見えた。

「鳥の……古代ゴーレム!?」

 ハイヤードは驚愕した。

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