第3話 魔王復活

 三人はホイル町に入り、その町で一番大きな宿の一番大きな部屋を取った。


「千年前、我がタロン王国北東部のアリュートアーク山脈に『白き不屈の魔王』が居城していました」

 と、レフティが説明を始めた。

「魔王は魔族軍を率いて王都へ侵攻しようとしたのですが、当時の勇者様が奇襲をかけて未然に防いだと伝えられています。そして、魔王は巨大な水晶玉の中に逃げ込んだので、水晶玉ごと封印されたのです」


「その魔王を封印をした場所から、魔素が多量に確認されたことが事の始まりだ」

 と、ハイヤードが続けた。

「王国の第四王女アリア姫一行が直々にその水晶玉の封印を調査に向かったのだ」


「それで? なにが起きたんだ?」

 と、ベッドに座りこんで、あごひげをさすりながらショーマは聞いた。


 ハイヤードは答えた。

「アリア姫は消息を絶ち、魔王が復活した……それも巨大な姿となって。奴は魔物を生み出し、王都へと進み出している。積年の恨みを晴らすために、王都を滅亡させるつもりだ」


「私の任務はその魔王の討伐だ。当時存在していなかった、この聖剣だけが魔王を倒せる」

 とハイヤードは言いながら、溝が刻まれ、青白く光る聖剣を見せた。


「で、それでなぜ、俺のようなゴーレム使いが必要になるんだ?」

 ショーマは自分のあごひげをさすりながら聞いた。

「その後の報告により、復活した魔王の体は高さ三十ワイドもある巨大ゴーレムだと言うことがわかった」


 ハイヤードの言葉にショーマは色めきだった。

「三十ワイド! ろ、六十メートル級のゴーレム! 本当か? そ、それは人型なのか?」

「ああ、人型だ。そいつが、新しく生み出した魔物を引き連れて。王都を目指している」

「歩いてか?」

「そう、堂々と歩いているそうだ。王都到達は十四日後ぐらいだと予測されている」


 すると、ショーマはそばにおいてある雑嚢の中からカチャカチャと音がするものを取り出した。スタチューが入った袋らしい。


「そのゴーレムはこんな形をしていないか?」

 と、ショーマは袋の中から人形を一つ取り出した。


 それは、スタチューとはかなり趣が違っていた。カラフルに塗られ、表面はロウソクのような質感を持ち、角張った精巧な形をしていた。


「報告では白く美しい巨人とありました。これとは異なると思います……これもスタチューですか?」

 と、レフティは人形を見て言った。


「いや、これはただの玩具だ。残念ながらスタチューじゃない。そうか……こいつじゃないのか……こいつには本物があって、身長は五十六メートルなんだぞ」

「めーとるとは、なんですか?」

「一メートルはだいたい半ワイドだ。つまり、一ワイドは約二メートル。ほら、この杖の長さが丁度一メートルだ」

 ショーマは愛用の杖を見せた。かなり使い込まれた木の杖だ。


「俺の生まれ故郷には五十メートル・二十五ワイドを超えるゴーレムがいくつもいた。その同類かと思ったんだ」


 彼は人形と杖をそばに置き、話し始めた。

「となると、そいつは古代ゴーレムだな。文字通り古代文明人が造ったゴーレムだ。それは人や動物の形をしていて、その中には巨大なものが存在する。魔王が古代ゴーレムに乗り移ったのかもしれない」


 ハイヤードの頭に麗しのアリア姫のことがよぎった。

「アリア姫はどうなっただろうか? 生きている可能性はないのか?」


「封印の水晶玉は古代ゴーレムのコアだったのかもしれない。古代ゴーレムはコアに魔力を持った人が入っていないと作動しない」

 ショーマはハイヤードを見た。

「魔王はコアに入ったものの魔力が足りなかった。そして千年経ってアリア姫が現れた。魔王は姫をコアに引きずり込んで、ゴーレムを具現化することに成功したのではないか? だとしたら生かされている可能性がある」


「そのコアを破壊したら。アリア姫を助けられるのか?」

 と、ハイヤードが真剣な表情で聞いた。


「当然そうだろうが、こればかりは実行しないとわからないな」


「ショーマ、手を貸してくれ。魔王に匹敵するゴーレムを造って、私をコアの場所まで持ち上げてほしい」


「魔王に立ち向かえと言うのか……?」

「もちろん報酬はある。王女を助けるのだからな! 地位、名誉、財宝、思いのままだ」

 その言葉にショーマは喜んだが、すぐに冷静さを取り戻した。

「金は持っているからいらない。地位は柄じゃない。俺は名声がほしい。後、おまけで王家図書館の閲覧権がほしい」

「もちろんだ、約束しよう」


 そして、三人は手を握りあった。

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