第2話 ショーマ

「む。これは、調子に乗りすぎたのかもしれない……」

 と、赤ベストの男はつぶやいた。彼とて相手のスタチューを破壊するつもりはなかった。


「おのれ! そちらが人型にこだわらないというのなら、ワシにも考えがあるぞ」

 パルレスはそう言うと、懐から三つの小さなボールを取り出して、それを空に投げた。すると、それらが八分の一ワイドほどの大きさの蜂ゴーレムに変身した。


「ドローンゴーレム! それは王家専用の代物じゃないか?!」

 赤ベストの男は焦りを感じた。下手をすれば、あのドローンに殺されるかもしれない。


「よく知っているな! ワシにはそれだけの人脈があるのだよ!」

 ドローンはバリバリと電光を放ちながら赤ベストの男に近づいてくる。


「アースガイザー! こっちに来い」

 赤ベストの男がそう叫ぶと、サイゴーレムがバックして主人の元に帰っていく。

「ダイ! ダイ!」

 彼はアースガイザーのツノに接続しているチャリオットゴーレムに破滅の呪文を与えて崩し、落ちてくる二つのスタチューを受け止めた。

 そして、アースガイザーと呼んだゴーレムの頭にある窓のような所から中に入り込んだ。


「あいつ、逃げるぞ! 追いかけよう!」

 ハイヤードは急いで走り出した。

「追いかけて、何をするつもりなんですか?」

 レフティは懸命にハイヤードの後をついていく。

「もちろん仲間にする。大型のゴーレムを次々に出せる、彼の能力が必要だ。それに、私はあいつのゴーレムが気に入った!」

 二人は人混みを駆け抜けてアースガイザーの方向へ向かっていく。


 アースガイザーはその車輪を左右逆回転させて、土煙りを上げながら超信地旋回をした。


 ハイヤードはアースガイザーの後部に馬車の荷台のような空間が空いているのを見た。

「あそこだ! あそこに入り込め!」

 そう言ってハイヤードはジャンプして、その中に飛び込んだ。やはりそこは荷台のようだ。

 レフティがその入口になんとかしがみついたので、ハイヤードは彼を引き上げた。


 アースガイザーは加速して大通りを進んでいく。どうやらこのままターレを脱出するつもりのようだ。


「馬を使わず、魔力で車輪を回しているのか。それにしてもすごいスピードだ」

「こういう乗り物って、誰もが考えつくけど、うまく行った話は聞いたこと無いですよ。振動も少ないですし、すごい技術です」

 と言って、レフティはタクトを取り出す。


「でも一応、耐ショックバフをかけておきましょう」

「いや、それは後で反動が出るだろ? 遠慮しとくよ」

 と、ハイヤードは拒否するが、

「大丈夫です。レベル1で抑えておきますから」

 レフティは構わず呪文を唱えだした。


 彼は若いながら国内随一の防御魔法使いだ。力も魔力も防ぐ各種魔法、スキル、バフを使いこなすことができるのだ

 しかし、魔力が強すぎるため、痛みを伴う体調不良を起こすことがある。あまり依存はできない。


 だが取り敢えずは、このゴーレムから放り出されても怪我一つしない状態になった。



   ◯



 彼の名はショーマ。ゴーレム使いの青年で、大型ゴーレムの錬造を得意としている。


 今日は国内有数のゴーレム使いであるパルレスから人型ゴーレムの鍛造技術を教えてもらおうと思ったのだが、意見の相違もあり決闘騒ぎになってしまった。


(あいつのゴーレムはほとんど棒立ちだったな。あいつなりのオリジナリティがあると思ったんだが、無駄足だった)


 彼はゴーレム車両アースガイザーを走らせる。そして、よく使う小さな町、ホイルの近くまで来た。


 町へ行くのにアースガイザーは目立つのでスタチューに戻そうとショーマは思った。造ったときに使ったマナの量を考えるともったいないが、仕方がない。


「ダイ!」

 呪文でアースガイザーを砂に戻す。

 すると、その砂の中から球体のマジックシールドが現れた。その中に男が二人いる。

「誰だ!」

 ショーマは警戒して愛用の杖を構えた。


 そのとたん、彼の目の前に強力なマジックシールドが出現した。防御魔法なのに彼は恐怖を感じた。


「待った。わかった、降参だ。俺がドラゴンにでも見えたのかい? 俺は低級魔法しか使えないんだ。そんな無駄な魔力を使う必要はないぜ」

 と、彼は震えながら言った。


「私は勇者ハイヤードだ」

「僕は勇者付き魔法使いレフティです」

 と言って、二人は身分を証明するペンダントをショーマに見せた。


「……ゴーレム使い、ショーマだ……です。ということは、あの、パルレス……殿は勇者を使役できるほどの、身分の方で?」


 すると、ハイヤードは爆笑した。

「ああ! いや、私はパルレスとかいう人とは関係ないよ!」

「そ、そうなんですか?」

「そう、かしこまらくてもいいよ。私たちはゴーレム使いを探していたんだ。君ならぴったりだ」

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