精霊合体エレメンタルガイザー

イータ・タウリ

第1話 ゴーレムの決闘

 タロン王国第二の都市ターレ。その冒険者ギルドのロビーに二人の男が入って来た時、その場の空気が一瞬で変わった。なぜなら、二人のうち一人が聖剣を携えた勇者だったからだ。


 勇者ハイヤードはまっすぐにギルドの受付嬢のもとへ進み、声をかけた。

「パルレスというゴーレム使いを知らないかな?  特にゴーレムに詳しいと聞いたのだが……」


「あら、パルレスさんなら、ついさっき出て行ったところですわ」

 と、彼女は出口を指し示した。


「というと、さっき言い争いをしながら出て行った二人の内、どちらかがパルレスなんだね?」


「えぇ、そうですよ。二人ともゴーレム使いです。パルレスさんは常連ですが、もう一人の方は見慣れない方でした」


 隣に立っていた魔法使いレフティが口を挟んだ。

「奇遇ですよハイヤード。追いかけないと」


 その時、ギルドのドアが勢いよく開き、一人の冒険者が駆け込んできた。

「大変だ! ゴーレム使い同士が決闘を始めたぞ! これは見ものだ!」

 その声に、ロビーにいた冒険者たちは一斉に出口へと向かった。



   ◯



 外の広場では二体の人型ゴーレムが格闘をしていた。


 一方は身長四ワイドもある黄金色のゴーレムだ。

 一ワイドは大人が大きく両手を広げた時の長さなので、このゴーレムは人の四倍の大きさがあると言える。


 もう一方は身長二ワイドを超える程度の赤いゴーレムだ。赤ゴーレムのほうが身のこなしが良く、黄金色ゴーレムに対し接近し、パンチやキックを繰り出している。


「人型ゴーレム対決! 勝ったほうが相手のゴーレムを奪えるらしいぜ」

「パルレスさんのゴーレムに挑むなんて身の程知らずな若造だ!」

 野次馬が更に人を呼んでいる。早くも賭けが始まっているようだ。


「どっちがパルレスなんだい?」

 と、ハイヤードが野次馬の一人に聞いた。


「おぉ勇者様! あちらの金のゴーレムを操っているのがパルレスですぞ。Sランクパーティにも参加する大ゴーレム使いです。賭けるなら彼ですぞ」

 彼が指す方には、いかにも威厳ある魔法使い風の男がムチを振るっている。

「そして、喧嘩をふっかけたのがあの赤い奴。どこから来たのかもわからない、流れ者です」

 その方を見ると赤いベストを着たあごひげの男が半ワイドほどの杖を振って赤いゴーレムに命令している。


「どう見る? レフティ?」

 と、ハイヤードはレフティの考えを聞いた。魔法使いである彼の方が見るところがあるだろう。


「金のゴーレムの秘めた魔力はかなりのものですよ。赤い方はそれを警戒して、インファイトに持ち込んでいるのでしょうね。ゴーレムとは思えない、すごい動きをしています」 

 と、レフティは分析する。

「でも、結局は金のゴーレムの一撃で終わると思いますよ」


「いいぞ! フレイムガイザー! 付け入る隙を与えるな!」

 赤ベストの男が興奮しながら、自分のゴーレムを応援する。


「仲間にするなら、どっちだ?」

「パルレスの方でしょう。ゴーレムの造詣が深いですよ、きっと」


 すると、パルレスのゴーレムが赤いゴーレムを蹴り上げ、間が開いたところで雷を落とした。赤い方は煙を拭いてふらついている。


「もう降参しろ! お前のゴーレムを壊してもいいんだぞ!」

 パルレスはムチを掲げ、とどめの合図を出そうとしている。


「いや、まだだね!」

 赤ベストの男はそう言うと、後ろに下がって何かを地面に置いた。


「スタチューを置いた! 別のゴーレムを出す気ですよ!」

 と、レフティが叫んだ。

 スタチューとはゴーレムを具現化するときに使う小さな置物のことだ。これがゴーレムの設計図であり、コアとなる。大抵は具現化するゴーレムと同じ形をしている。


 だが、彼が置いた置物は人型ではなく、馬二頭と馬車のような物だった、だが車輪は二つしかない。


 ハイヤードは目を凝らしてそれを見た

「あれは? チャリオット?」


 赤ベストの男が何やら呪文を唱えると、ゴーレム具現化独特の煙りが盛大に上がり、あたりを埋め尽くす。

 そして煙の中からゴーレム馬二頭立てのチャリオットが現れた。それは、通常のものよりも倍以上大きい。


「何だあれは? もしかしてあのゴーレム用のチャリオットか?」

 と,ハイヤードが驚きの声を上げる。


「何をやっているんだ! 人型同士の決闘じゃないのか!?」

 パルレスが怒りの声を張り上げた。


 チャリオットは二体のゴーレムに向けて走り出した。

 ところが二頭の巨大馬は突然つんのめったかのように逆立ち状態になり、車体を跳ね上げた。

 次の瞬間、赤いゴーレムはジャンプして車体にはまり込んだ。

 そして逆立ちした馬と車体が噛み合い、一体の身長五ワイドあるゴーレムに変形した。


「な、何だそれは!」

 パルレスは怒り、狼狽した。


「まだ、終わりじゃないぜ!」

 と、赤ベスト男は叫ぶなり、もう一つスタチューを地面に置いた。それはしゃがみ込んだサイの置物だった。

「アライズ……アースガイザー……」

 またもや煙が上がった。


「でかいな。今度はサイのゴーレムか?」

 と言って、ハイヤードは成り行きを見ている。彼は赤ベストの男の方に興味を引かれているようだ。


 出現したサイのゴーレムは、全長八ワイドある巨大なものだ。

 その胴体は箱の様な形で、足元は動物のそれではなく、左右合わせて八輪の車輪でできている。


「こ、今度は一体何なんだ?!」

 と、状況が飲み込めていないパルレス。


「悪いなぁ、先生。グレート・フレイムガイザーはあまり足回りが良くないんで、この強化パーツが必要なんだ。あくまでも強化パーツだ」

 と、彼は臆面もなく言った。


 すると、サイゴーレムはチャリオットゴーレムのところまで前進して、その背中に鼻先の一本角を突きつけ、接続した。


 チャリオットゴーレムは突然、動きが良くなり、左右の蹴りでパルレスのゴーレムを追い詰めていく。

 背中をサイゴーレムに支えられているので、身軽になるのは当然だ。


「いまだ! グレート・フレイムガイザー! 三段ストライクキックだ!」

 赤ベスト男は杖を振り回して指示する。

 だが、その攻撃は実質サイゴーレムがチャリオットゴーレムをハンマーのように三回叩きつける技だった。

 地響きのような破壊音が三度鳴って、勝敗が決した。


 その時、ガラスが割れたような音が響き渡りパルレスのゴーレムが砂金となって崩れ落ちた。スタチューが壊れてしまったのだ。

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