第53話 森を進む魔族部隊
魔族部隊の部隊長ガルモスは森の中を北に進んでいた。彼の周囲には副隊長を始め10人程の魔族、それと50体程のモンスターが居た。他の小部隊よりは大規模だ。
フィーナ王国侵攻中に突然現れた魔術師、その力は圧倒的だった。大規模攻撃に多くの仲間が倒れ、反撃部隊の一斉攻撃はあっさり弾かれた。
遠くて分かり難いかったが、敵は小柄な少女に見えた。その姿は伝え聞く300年前の悪夢、大魔術師フィーナさえ思わせた。
後方撹乱を主目的とする部隊だ、あれ程の敵を倒せる戦力はない。ガルモスは部隊を多数の小規模部隊に分け、広域に分散させることで生き残りを計った。
狙い通り魔術師の攻撃から逃れることはできた。しかし犠牲は大きい。恐らく既に戦力の4割以上を失っているだろう。
ぞろぞろと木々の間を抜けていく。森は歩きにくい。流石に木の根に足を取られはしないが、気を抜けばデタラメな方向に進んでしまうだろう。
と、山羊型のモンスターに騎乗した魔族が蹄の音と共に近づいてきた。少し前に斥候として放った人員だ。他にモンスターを3体付けたが、そちらは居なくなっている。
「部隊長、偵察から戻りました」
「ご苦労、報告を」
「はっ。街道の状況ですが、数十人程度の小規模な人間の集団が北へ向け移動中です。その中に敵の大魔術師らしき姿が見えたため、確認にモンスターを放ちました。モンスターは魔力弾の斉射で全滅です。あの大魔術師に間違いないかと。人間集団には老人や子供もおり、避難中の農民等と思われます。大魔術師はそれを護衛していると推察します」
敵の魔術師はひとまず『大魔術師』と呼称することにしていた。
敵が守りに入ってくれるのは正直ありがたい。あれに追い回されながら森を進むのはゾッとする。
「その人間集団の移動速度は?」
「比較的早いです。健康な成人の歩速程度とお考え下さい」
「そうか。さて、どうしたものか……」
ガルモスは地図を取り出し、広げる。最初に上陸した港町で発見したフィーナ王国の広域地図だ。
本来ならまず重要都市の一つであるバルエリを落とし破壊。そのまま街道を進み都市フロドナを経由してフィーナ王国の王都シャンタを脅かす予定だった。
バルエリに到着する前にあんな戦力が現れるなど完全に想定外だ。しかし、嘆いてもいられない。
魔族の最終目標は人類領域の切り取り。その中でガルモスらに与えられた使命はレブロ方面の防衛力を低下させる事だ。それは変わらない。
今後の方針を考えなくてはならない。
あくまで当初の予定通りバルエリを攻略し、王都を目指す手もある。
多くの戦力を失ったとはいえ、再集結すれば城塞都市の1つや2つ破壊する事は可能だ。だが問題は敵の大魔術師、アレも北に向かっている。ならばバルエリ攻略時に戦う羽目になるだろう。移動速度的に先回りも困難だ。
大魔術師に勝てないとしても、同時に多方向から攻め込めば、その対処能力を超えることはできる。都市の破壊はおそらく可能だ。しかし、引き換えに部隊は壊滅する。バルエリと刺し違えて終わりだ。それでは目的を果たせない。
「抜本的な方針の立て直しがいるな」
ガルモスは隣の副隊長に話しかける。
「はい。仰る通り当初計画の完遂は困難かと。あの大魔術師を倒す手段は正直思い付きません。いっそバルエリを無視して直接王都方面に向かっては?」
副隊長が挙げたのは、街道外を進み続け、都市を無視して進軍するプランだ。
その場合どうなるか、ガルモスは考える。そして、首を横に振った。
「それも危険が大きいな。大魔術師がバルエリの兵力と共に追撃してくれば壊滅する」
大魔術師が一人きりだったから分散という手段が使えたが、バルエリの兵力と合流されればそうもいかない。各個撃破されてしまう。
もちろん大魔術師が追撃に来なければ問題ないが、そんな可能性に賭ける訳にはいかない。
「確かに。しかし、あの大魔術師は一体なぜ現れたのでしょう」
「偶然近くにいた可能性が高いな。人類がこの作戦を察知していたとしたら敵が1人だけなのは奇妙だ。魔族を見付けたから攻撃してきたのだろう」
「だとしたら、運が悪いですね」
ガルモスは副隊長の言葉に少し引っ掛かりを覚える。果たしてそうだろうか?
「上手くやれば幸運だった、にできるかもしれんぞ。いっそ王都近郊への進軍はハラレの部隊に任せ、我々はあの大魔術師の足止めに目的を切り替えるのはどうだ? アレがレブロに向かわないように出来れば十分な支援になる」
あくまで魔族の目標は人類領地の切り取りだ。王都など本質的にはどうでも良い。あの大魔術師がレブロ方面に現れれば大きな脅威になる。アレは
ガルモスはプランを考え始めた。大魔術師が人間を守ろうと行動しているのは避難民を護衛していることから明らかだ。なら、足止めぐらいはしてみせる。
「副隊長、周辺の小部隊に伝令を走らせる。使い捨ててよい弱めのモンスターを集めろ」
「はっ。承知しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます