第51話 トリスタ&ドミーペア
夜闇の中、トリスタは魔族部隊の気配を察知した。
「前方に居ます。恐らく野営中です」
トリスタは隣を走るドミーに伝える。既に馬は捨て、自分の足で走っていた。
「了解です。このまま突撃が最適でしょうね」
「ええ。早く片付けてエリーサ様に合流しないと」
戦力を3つに分けたうち、トリスタとドミーのペアが一番安定して強い。敵の数が多いため簡単ではないが、早めに片付けてエリーサの支援に向かわなければならない。
前方に篝火が見えた。炎に照らされモンスターの姿も浮かび上がっている。
「あ、見えてきましたね。見張りは一応いるけど……位置も適当でやる気も無さそう。では、役割分担は適宜適当に」
トリスタもドミーも実力者同士、アドリブでも大丈夫だ。それに魔族部隊の全容も不明なまま挑むのだから、最適な作戦など練れない。
トリスタは抜剣し、ドミーは黒い魔力弾を構築する。
ドミーが魔力弾を放つ。それとほぼ同時にトリスタは渾身の力で地面を蹴り、轟音と共に見張りの魔族に目掛けて突進した。その速度はドグラスやブリュエットの比ではない。ドミーの放った魔力弾と並走しトリスタは敵に迫る。
トリスタが踏み込み、剣を振り下ろす。見張りの魔族に声を上げる時間さえ与えず、縦に切り裂く。
ドミーの魔力弾も別の魔族に直撃し、胴体に大きな穴を穿った。
トリスタは目に付く敵に片っ端から斬り掛かる。魔族とモンスターの血が地面に撒き散らされていく。
敵襲を知らせる声はまだ上がらない。状況を把握した魔族が次の瞬間には絶命しているからだ。ただトリスタが地面を蹴る音だけが雷鳴のように響く。
トリスタは魔族2体を見つけた。戦闘音で起きたのだろう、テントから出てきたところだ。片方は杖、もう片方は両手用の大剣を持っている。武器の質と気配から高位魔族と判断、優先的に倒そうとトリスタは走る。
杖を持った魔族が咄嗟に魔力防壁を展開する。だがトリスタの膨大な闘気を込めた斬撃はあっさり防壁を破壊し、そのまま胴を断った。大剣を持った魔族が斬撃を繰り出すが、トリスタはあっさりそれを躱し、反撃で魔族の首を落とす。
「敵襲! 攻撃されているぞ! 夜襲だ!!」
ようやく、襲撃を知らせる声が上がる。ドミーが駆け寄ってきた。
「トリスタさん、このまま前方まで突っ切りましょう」
「はい。それで!」
”敵襲”の声が上がったためか、ドミーが使用する魔術を目立たない黒い魔力弾から火炎弾に変更する。次々と炎が上がった。
とその時、トリスタは殺気を感じた。後ろに跳ぶ。トリスタが居た場所に魔族が降ってきた。青い肌に、青いシャツ、青いズボンの奇妙な格好で、両手に1本ずつ大型の曲剣を携えている。
「俺はハラレ、この部隊の長だ」
「トリスタ・デベル」
トリスタは短く答えると、すぐ敵に斬りかかる。
ハラレもトリスタに斬撃を繰り出してくる。双剣には強大な闘気が込められていた。一瞬の時間差をつけて、左右の曲剣が振り下ろされる。
しかし闘気量も早さも、フィーナ王国最強の剣士たるトリスタには及ばない。トリスタは大きく弧を描くように剣を振るい、二本の曲剣を一撃で弾く。トリスタは一度剣を構え直し、ハラレに剣を振り下ろす。ハラレは両手の剣を交差させてトリスタの斬撃を受け止める。衝撃でハラレの体勢が乱れた。
トリスタは間髪入れず、連撃を放つ。ハラレは必死に斬撃を弾き、躱す。たが4撃目の振り払いを受け止めきれず、左の曲剣が宙に舞った。続く一撃で部隊長ハラレの首が落ちる。
トリスタが部隊長と戦う間もドミーは火炎弾を撃ち続けていた。魔族が、モンスターが、次々と焼かれていく。辺りは炎でオレンジ色に照らされている。
トリスタとドミーは移動しながら攻撃を続ける。やがて、二人は魔族部隊の前方へと野営地を突き抜けた。
「猪突猛進系の部隊長で幸いでしたね。敵は混乱しているようです」
ドミーが小さく笑って言う。夜襲を受け混乱した状態で指揮官が勇猛果敢に突撃など、馬鹿としか言いようがない。
こんな事ならエリーサにはこの部隊と戦って欲しかったと、トリスタは思った。
「だね。さて、更に敵を削りたい。突っ込むから、敵が前に出れないように範囲火力で押さえて」
トリスタの言葉にドミーは「任せて」と短く頷く。
トリスタは剣を構え、再度突撃した。
混乱する魔族とモンスターの間を走り回り、敵を屠る。
ドミーからも援護射撃が飛んでくる。おかげで敵の真っ只中でも余裕を持って戦えた。
エリーサは大丈夫だろうか? 戦いながら、トリスタは頭の片隅で考える。
エリーサと対峙した敵部隊の隊長が先程斬った隊長のように馬鹿なら、強力無比な魔術攻撃の前に壊滅するだろう。
だがもし敵が優秀だった場合、どう動くか。
エリーサには危険な突撃ではなく、遠距離からの魔術攻撃を指示してある。想定外の超戦力による攻撃だ、最初は確実に混乱する。混乱から脱した後は……エリーサを正面から倒すのが極めて困難なことに気付くだろう。
しかし、いくら強くとも一人だ。小部隊に分かれ広域に分散すれば、各個撃破を狙っても全ては倒しきれない。
戦力を分散した場合、城塞都市を落とすのは難しくなる。たが、小部隊でもそこらの町や村は十分に皆殺しにできる。それに再集結すれば都市だって狙えるだろう。
心配だった。とにかく、急いでこの敵集団を片づけなくてはならない。
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