第49話 森での戦闘

 部隊長の高位魔族マドルムは奥歯を噛んだ。襲撃者にしてやられた。未だ被害の全容は分からないが、損害は小さくない。

 マドルム隊の任務はヴェステル王国の後方撹乱だ。その為の戦力を一部失った。


「敵は森に逃げたか……」


 マドルムの呟きに隣りにいた部下が答える。


「はい。フィムラグ殿達が追撃に出たようです」


 精鋭による一撃離脱は厄介だ。南から攻撃を受け、即座に高位魔族8人を反撃に送り込んだことが裏目に出た。


「こんな場所で襲われるとは……人間側に捕捉された様子もなかったが」


 斥候部隊との遭遇などは一度もない。いったいアレは何者なのか、考えるがマドルムにはさっぱりだった。


 と、マドルムの所に一人の中位魔族が走ってきた。彼の部族に属する魔族だ。


「族長、いえ隊長! ご報告が!」


 焦った様子だ。マドルムは「何だ?」と短く返す。


「敵の魔術師がグリベザ様の杖を持っていました!」


 一瞬、頭が理解を拒む。が、マドルムもそれなりに長く生きた高位魔族だ。すぐに状況を判断する。

 彼の娘であるグリベザはギガントベアを集めた部隊を指揮し、後方にいた筈だ。

 ギガントベアに十分な休息を取らせた後、フィーナ方向に北上する予定だった。杖が敵の手にあるなら、グリベザは討たれたのだろう。彼女の部隊は壊滅したと考えるのが自然だ。


 娘を失うショックは当然あるが、今は敵地へ侵攻中だ。嘆くよりやるべき事がある。


「襲撃者の追撃には何人出た!?」


「はい。合計20名程です。うち5人は高位者、モンスターも50程連れて出たようです」


「まずい! 連れ戻せ。グリベザ達の部隊が潰されたなら、人類最高クラスの戦力だ。食われるぞ!」


 いくら何でも人類側の大軍が突然現れる筈がない。それなら気付く。敵は少数だ。ギガントベアは強い。あれ程の部隊を少数で潰したとなれば、精鋭という言葉すら生温い。


「承知しました! ですが今から間に合うか……急ぎます!」


 マドルムの部下は走り出す。

 空が白み始めていた。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 ブリュエットさんと2人、森を駆ける。


「追ってきたようですね」


「ええ、上手く釣り出せたようです」


 魔族が俺達を追跡して来ていた。

 相手側はこちらを探すために発光魔術を使っている。そのためこちらからは敵が確認しやすい。


 魔族20体に加えモンスターが沢山いる。高位魔族は5といったところか。よく見るとモンスターは全てシルバリーウルフのようだ。臭いを追う能力は優れているが、戦闘面では脅威にならない。


 俺達を仕留めるには不十分な戦力だ。逆襲して削るのに理想的である。


「初撃で高位魔族を削ります。発光の少ない目立たない魔術を使いましょう。俺は右側の魔族を狙います。ブリュエットさんはそれ以外で」


 俺の言葉にブリュエットさんは小さく頷く。


 俺は魔術の構築を始める。青黒く光る疑似質量魔力槍を3発、全て1体の高位魔族を狙う。ブリュエットさんに目で合図し、放つ。

 ブリュエットさんも同様に質量槍を放っている。


 魔族は迫りくる攻撃に気付き、防御と回避を試みる。だが、咄嗟に張った全周防御で防げる威力ではない。そして回避が困難になるように射線は調整している。3発中1発は直撃コース、2発は魔族の前側の空間を狙っている。後ろに跳べば躱せるが、そこには木がある。


 反射的に後ろに跳んだ魔族は木にぶつかり、疑似質量槍の直撃を受ける。質量槍は魔族の体を抉りつつ、弾き飛ばす。


 ブリュエットさんの攻撃もほぼ同様に、高位魔族を1体仕留めている。


 森での戦闘となれば、常に障害物になる木の位置を考え、立ち回らなくてはならない。レブロの魔術師部隊ならそう叩き込まれる。やや経験不足の敵だ。


 次の魔術を構築する。今度は純魔力槍を3発、高位魔族1体を狙い撃つ。

 隣ではブリュエットさんが俺が狙ったのと同じ魔族に魔力刃を放っている。


 2人がかりの攻撃を躱しきれず、高位魔族は魔力槍に撃ち抜かれる。


 敵の反撃が来た。大量の魔力弾と少数の魔力槍、魔力槍は対龍級だ。全周防御を展開し、魔力槍だけ回避する。


 残った2体の高位魔族も、高位魔族の中では精々中程度の実力のようだ。形勢は完全に俺達の側に傾いている。


 俺は高位魔族の攻撃に対処しつつ、突撃してくるシルバリーウルフを爆裂系魔力弾で吹き飛ばす。ブリュエットさんは魔力刃を乱射し、高位魔族を牽制しつつ、中位魔族を削っていく。


 中位魔族とモンスターを削りきり、高位魔族と2対2の魔術の撃ち合いに持ち込む。実力は完全にこちらが上だ。数回の攻防を経て、魔力刃が魔族を切り裂き、決着が付く。


 モンスターはさて置き、中位魔族15体に高位魔族5体、中々の損失の筈だ。


「よし、このまま一度距離を取りましょう」


 もうすぐ朝日が昇る。このまま再襲撃をするのは危険だし、流石に体力も限界だ。


「はい。そこそこ削れましたね。良かった」


 ブリュエットさんが少し疲れた笑顔で、親指を立てる。俺も親指を立てて、笑い返した。

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