第47話 パーティー分割

 ソニア達は生存者を探し、手分けして聞き取りをした。


 エリーサは聞き取りの間、重傷者を治療していた。聞き取り作業をさせるには彼女はまだ知識が足りない。


 集合して情報を共有し、すり合わせる。

 結果、一部不確かな部分もあるが魔族部隊の全容が見えてきた。


 推定される敵の規模はかなり大きい。魔族はともかく、思った以上にモンスターが多い。


 そして、ここから魔族は部隊を大きく3つに分け、3方向に進軍していったらしい。ドミーが足跡を調べた結果とも一致しているので、まず間違いない。


 川に沿ってヴェステル王国方向に1つ、道に沿ってフィーナ王国方向に2つ、魔族部隊が進んでいた。

 魔族部隊の侵攻阻止は一気に難易度が上がった。


「こちらも3つに分かれるしか……」


 ブリュエットが苦い顔で言う。


 ソニアも同じ考えだ。戦力を分散させず各個撃破したいところだが、今は高速で移動する敵を追跡中だ。こちらも分散しなくては1つの部隊を潰す間に残りの2部隊を取り逃がす。


「伝令も出す必要がある。レブロとサルドマンドに警告しなくては」


 ドグラスの言葉にソニアは頷く。

 

「同意見です。山を2つ超えた先の街にならブラーウ家の人間が詰めています。そこまで行けばブラーウの伝書鳩網が利用できる筈です」


 ヴェステル・フィーナ両国には情報を伝える必要がある。主攻に備えレブロとサルドマンドの防衛を強化しなくてはならない。


「問題はどう分けるかですね……難しい」


 ブリュエットが言う。ドグラスも眉間にシワを寄せている。


 そう、戦力配分が問題だ。


 ソニアは先程の広場での戦いを思い出す。


 2体の高位魔族のうち片方はエリーサが倒した。初手で対龍クラスの魔力刃を同時に5発、魔族は自分を爆裂系魔術で吹き飛ばし無理矢理回避したが、即座に2撃目を放ち真っ二つにした。


 圧倒的な強さだった。


 無識に唇を噛む。1対1の戦いならともかく、火力が物を言う1対多の戦いならばエリーサはこのメンバーの中で最強だ。


「私が伝令を務め、その上で戦力なるべく均等に割り振ると『ドグラスさんとブリュエットさん』『トリスタとドミーさん』『エリーサ様単独』になってしまいます」


 伝令を諦めればソニアがエリーサに付いて問題ない構成にできる。しかし、やはり伝令は必須だろう。それに、加えてもう一つ、やりたい事もある。


 戦闘力は強くてもエリーサに単独行動をさせて良いか? 本来なら良い訳がない。しかし、魔族の戦力は大きい。

 2番目に強いのはトリスタだが、剣士であるトリスタは多数の敵を殲滅する範囲火力には欠ける。トリスタを単独とすれば敵を止めることは出来ないだろう。高位魔族を数体倒せても残りは突破される。


 ドグラスも、ブリュエットも、ドミーも、単独では勝てない。


 単独で魔族部隊を阻止し得るのはエリーサだけなのだ。


 たが、フォローなしで全てを自分で判断し、適切な対応が出来るか……まだまだ知識不足だ。経験に至っては足りないどころではない。


 ソニアは大きく一度深呼吸をした。エリーサの目を真っ直ぐ見つめ、口を開く。


 それでも、それしかない。


「エリーサ様、単騎にて敵を追跡、前方に回り込んで殲滅又は進軍を阻止して下さい」


「私一人……でも、他に手はないんだよね?」


「はい。無茶を言っていますが、魔族が

このまま北上すれば想像を絶する被害が出ます。妨害できるのは私達だけです」


「分かった。頑張る」


 エリーサの不安そうな顔で、だがしっかりと頷いた。


「それと、もう一つ。少しお待ち下さい」


 ソニアは羊皮紙とペンを取り出し、大急ぎで書類を書く。


「エリーサ様、こちらに署名と血判を」


 エリーサは渡された羊皮紙をさらっと読む。


「分かった。スコーネ連合国に援軍を求めるんだね。他の国はいいの?」


「軍を編成し、レブロまで移動させるには長い時間が掛かります。スコーネ以外は間に合わないでしょう。ひとまずスコーネです」


「ソニア、スコーネだって軍を起こすには時間がかかるだろ?」


 ドグラスが不思議そうに言う。


「いえ、スコーネ連合には動ける部隊がいます。ミスリル鉱山の制圧・守備部隊は臨戦態勢でフィーナとの国境近くにいる筈です」


 スコーネ連合は係争地だったミスリル鉱山をフィーナから実力で奪ったばかりだ。そこには相応の部隊がいる。スコーネ連合国盟主、ウェンスト公バーバラ・ウェンストの直属部隊と合わせれば有力な援軍足り得る。

 バーバラ公は対魔族となれば『人類』の括りで行動してくれる人物だ。


「そう言えば、取られてたね。ミスリル鉱山」


 エリーサはペンを受け取りサラサラと署名し、魔術で指を小さく切ると血で拇印を押す。


「これでいい?」


「はい。ありがとうございます。エリーサ様、あとは今後の注意点を」


 ソニアはエリーサに説明を始める。途中、ドグラスやブリュエットも補足の説明を入れる。皆心配で仕方がないのだ。


「とにかく、エリーサ様の命が最優先です。危なくなったら全力で魔力防壁を張って逃げて下さい。王家の血を守るという意味だけではありません。エリーサ様の大火力魔術はレブロの防衛にも必要です。絶対に死んではいけません。何人見捨てても、最終的な死者は減ります」


 ソニアはそう言葉を締める。


 既に日は沈みかけ、空の色は朱から紺へ変わりつつあった。

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