第44話 小さな村
トリスタの斬撃が嵐の如く唸り、モンスターを蹴散らす。俺の魔力槍も次々とモンスターを貫き、あっと言う間に駆除は完了した。
問題は何故魔族が居たのか。
魔族は瘴気に対する耐性を有する亜人種だ。複数の種類が存在し、ツノがあったり無かったり、肌が青かったり白かったりするが、
瘴気の強い大陸北方、通称魔大陸を本拠地とする。
魔大陸と言っても、実際はザンラード地橋という左右を海に挟まれた細長い陸地で繋がっているし、大陸と呼ぶには小さい。正しくは半島と呼ぶべきだろう。
何にしても、
馬車2台も村に到達する。4人はすぐに馬車から飛び出した。
「ドグラスさん! 状況は!」
「もう倒したが、モンスターと魔族が居た! 生存者を探そう!」
ブリュエットさんの問いに端的に返す。
「そっちの赤い屋根の家に2人生存! 手前の大きな屋敷に3人、奥の教会にも3人!」
流石はトリスタ、気配察知は便利だ。
手分けして生存者の確保に走る。ブリュエットさんとドミーさんは赤屋根の家を担当し、エリーサ様達は手前の屋敷に向かった。俺は教会へ向う。
木造の小さな教会だった。扉は折れて下の部分がない。「人間だ。入るぞ!」と一言叫び、内部に踏み込む。
中には男女数名の遺体が転がっていた。そして狼型モンスターの死体も一つ。
トリスタの感知通り生存者は3人居た。男の子1人に少女1人、それと革製の防具を纏った兵士風の男が1人だ。兵士風の男は腹から血を流し、青い顔をしている。足元には剣が転がっていた。
少女が「だ、だれ?」と不安そうな声を出し、兵士は体を起こそうとする。
「動くな! 治療する!」
少女の問いは一旦無視し、男に駆け寄るとすぐさま回復魔術を詠唱する。本当は先に傷口の洗浄をしたいが傷が深い、急がないと失血死しそうだ。
状況からして、教会に逃げ込んだもののモンスターに侵入され、死者を出しながら何とか撃退したのだろう。
魔術が発動し、傷が治癒されていく。
「俺は冒険者だ。マルギタに向う途中に通りかかった。何があった?」
「あの、その、突然モンスターがいっぱい。怖くて、逃げて。でも……」
少女はオロオロとした様子で話始めるが、イマイチ要領を得ない。男の子の方はぐずぐず泣いている。血が止まって多少余裕が出たのか、兵士らしき男が口を開いた。
「私はここから南方の港町の兵士です。奴らから逃げて来たのですが、この村で追い付かれました」
「詳しく教えて下さい。魔族がどうして?」
男はこれまでの経緯を時系列で説明してくれた。
地割海の最東端付近にある港町が突然大量のモンスターに襲われたらしい。それに必死で対処していたところ、港に所属不明の大型船が2隻現れた。大型船から魔族が上陸してきて人々を襲い、町の守備隊は手も足も出ずに壊滅、とにかく逃げてここに着いたとのことだった。
「魔族が船でやって来た。間違いないのですね?」
「はい。間違いありません」
異常だった。通常魔族、特に高位魔族は船での移動を嫌う。一騎当千の高位魔族でも船を沈められれば溺死してしまうからだ。
例え高位魔族が乗っていても船の全体を魔術で防御することは難しい。魔力防壁で覆うには船は大き過ぎるのだ。そのため地上からの魔術攻撃に弱い。
魔族は海を避ける。これは人類側の常識だ。
「話を聞く限り敵はかなり大規模のようですが、残りは何処へ?」
町を襲う大量のモンスターと大型船2隻から上陸した魔族だ、ここにいたのは極一部だろう。
「恐らく北に……マルギタ方面だと思います」
「情報ありがとうございます。辺りのモンスターと魔族は倒しました。私達は北に向うのでその子達はお願いします」
本来なら色々とケアするべきだが、魔族とモンスターが北に向かったなら猶予はない。
教会から出て、皆と合流する。
「ドグラスさん! 怪我人の治療は完了しました。有意義な情報はなし、突然襲われたという話だけです」
「こっちも同じ。ドグラスは?」
「こっちはある程度状況が聞き取れた。魔族の主力は北、マルギタ方向に向かったらしい。詳細は動きながら話そう」
「主力が別に……馬車は切り離した方が良いね。直接馬に乗ろう。エリーサ様はソニアと一緒に。私は走るか」
トリスタが馬車を置き去ることを提案する。馬車を引かせるより直接乗った方が早い。
2台の馬車はどちらも2頭立てだ。
「ブリュエット様は軽いので私と二人で大丈夫ですよ」
ドミーさんがそう提案する。確かにブリュエットさんはエリーサ様より軽いぐらいだろう。トリスタは「ありがとう、甘える」と返す。
急ぎ移動の準備をする。馬を馬車から外し、最低限の荷物だけ持つ。
「トリスタさんの馬の身体強化は私がやりましょう」
ブリュエットさんが申し出てくれる。
「お願いします。では全速力で!」
俺達は北に向かい馬を駆った。
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