第40話 船の確保
翌朝、俺達はミリッアに向けて移動を再開した。
昨夜は中々寝付けなかったが、結局はいつの間にか眠っていた。
朝起きると不思議なことに、左にエリーサ様、右にブリュエットさんが寝ていた。昨夜とは逆だ。謎だが、深くは考えないことにした。
「ねぇ、ドミー何でお酒臭いの?」
「ブリュエット様、飲んだからに決まっているじゃないですか」
ドミーさん、ソニアさん、トリスタの三人は酒臭く、空になった酒瓶も多数転がっていた。楽しくやっていたようで、何よりである。
特に問題も起きず、馬車は順調に進み、昼前にはミリッアに到着した。
湖と川での水運で栄える街だ。規模はストラーンの半分程か。湖畔の都市という点では王都オルシャと同じだが、こじんまりして素朴な美しさがある。
観光したくなる街だが、俺達はすぐに次に向けた行動を開始した。この都市で最大の組織である水運組合へ赴き、船を探す。
馬車ごと船で川を下り、南へ向かう計画なのだ。費用は
ブリュエットさんが身分を明かし金貨を積んで最速で対応させた結果、昼過ぎには無事に足が確保できた。
いきなり来て、船に馬車ごと積ませろはかなり無茶な要求だ。馬は飼葉を必要とするし、排泄もする。しかし、金と権力が合わさったとき、その程度の無理はサクっと通る。
今日中に馬車を積み込み、出航は明日の早朝だ。
店で軽く昼食を食べ、宿を確保した後、馬車を船に積み込む。馬車ごと積めるだけあって、かなりの大型船である。船員の笑顔が引きつっていたが、気にしてはいけない。馬糞は臭いが悪いことばかりではない。ほら、このメンバー乗せてればモンスターとか出ても瞬殺だし、怪我だって即治るし。
宿に戻り、夕食を食べる。スープに魚のフライ、パンに果物。昨日の夕食には見劣りするが、美味しい。
「今のうちに今後の行程を確認しておきましょうか」
食事がひと段落し、ブリュエットさんが切り出す。
俺は「そうしましょう」と返して、テーブルの上に地図を出す。ヴェステル王国及び周辺の広域地図だ。
「船が確保できたので、このままレーヴ川を下って地割海まで一気に行けますね」
俺はミリッアの位置からすーっと指を下に下ろす。
川を下ると地割海という海に辿り着く。地割海は大陸を西から東に向けて斧で切り割ったような形で存在する内海だ。概ね大陸の半ばまで続いており、交易上非常に重要な海になっている。
「レーヴ川の河口付近の街で船を降り、そこからは馬車で海沿いの街道を東へ。これで問題ないですよね」
「はい。最適だと思います。船で海路を東に進む手もありますが、風の向きやら何やらで不確定要素が多いです。船がすぐ確保できるかも不明ですし」
ブリュエットさんが同意してくれる。
「しかし、モンスター被害の減少って何が起きているんだろうね。ナミタだとフィーナにも近いし気になるけど」
トリスタが小首を傾げて言う。
「可能性として怖いのは『極めて強力なモンスターが発生して、周囲のモンスターを大量に捕食し個体数が減った』というパターンだな」
その場合は辺りのモンスターを食い尽くした『超強力なモンスター』が更なる食料を求めて人間に襲いかかる。
「なるほど。そうなるとヴェステルもフィーナも南の方には大した戦力置いてないから、大被害だね」
「ああ。パトリスさんもそこを心配して俺達を向かわせたのだろうな」
別に南部に兵隊が居ない訳ではない。しかし魔族の驚異が北にあるため、ドラゴン級に対抗できる戦力は北に配置される。
王都にも強力な戦力があるが、それも両国共にやや北寄りに位置する。
ドラゴンを普通の兵士で倒すのは、兵数があっても困難だ。まず並の攻撃では皮膚が破れない。
ドラゴン以外の高位モンスターも似たり寄ったりの難敵である。
「ただ、その場合だと最初に一度、逃げたモンスターによる被害が出るのが普通ですよね。それが無いのが気になります」
疑問を呈するソニアさん。確かにその通りだ。
モンスターだって黙って食われたりしない。高位モンスターに捕食されそうなら逃げる。ストラーンでグリモルの森にモンスターが移動したように、モンスターの移動が起こる事が想定される。そうなるとその過程で何らかの被害が出る可能性が高い。
ドミーさんが少し考える素振りをした後、口を開く。
「偶然人里がない方向に向かって移動し被害が無かった可能性もあるし。他にも環境が悪化して個体数が減ったとか、逆に天候が良くて食料が増えて人里に向かう数が減ったとか、色々考えられますね」
「何にせよ、現状では情報が少なくて判断できないな」
「でも私達ならブラックドラゴンなら10体、
ブリュエットさんの言葉を頭の中で軽く分析する。うん、その数なら安全に倒せる。
「さて、明日も早いし早めに寝ましょう。ドミー、今夜は飲んじゃ駄目よ」
「仕方ないですねぇ。主人の
「言われるまでもなく飲むなっ!」
ブリュエットさんの声が響いた。
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