第39話 閑話女子飲み

ソニア、トリスタ、ドミーが飲んでるだけ。

飛ばしても大丈夫です。



――――――


 ドグラスが馬車で眠れずに固まっていたとき、もう一方の馬車では女性3人が座って話をしていた。

 全員、手には蒸留葡萄酒ブランデーの入ったカップを持ってる。既に馬車の中は酒精の香りで満たされていた。


「いやね、ブリュエット様は本気でドグラスさん好きっぽいので、消去法で選んでる人に渡せませんですよ」


 言って、ドミーが頬をぷくーと膨らませる


「消去法でしか選べない人にこそ配慮して欲しいところですよ」


 人差し指で床をコツコツ叩きつつ、ソニアが言い返す。

 3人揃ってぐびりとカップの中身を飲んだ。


「というかさー、カッセルって何代も一夫一妻してて統合魔術使えるのドグラスだけになっちゃったんだから、もうアイツには何人か娶らせようよ。必ず発現する訳じゃないから数打って使える人増やさないと。もし絶えたら火力が不足しちゃう」


 トリスタが親族を兵器製造機みたいに言う。


「まぁ、対魔族考えるとそうですよねー。結局人類こっちは瘴気のせいでザンラード地橋の先まで攻め込むのは無理。防戦し続けるしかない訳で」


「でしょ。もしブリュエットさんを側室にした場合さ、ブリュエットさんの子供はフィーナ直系じゃないから王位継承権はないし、アルトー家に養子に出しちゃえばさ、ヴェステルも統合魔術ゲットでサルマンド平原の防御力大幅アップよ。ついでにリリヤもあてがってさ、めいいっぱい増やそう」


 親族を馬か何かと勘違いしているトリスタが続ける。

 ホバート派が聞いたら仮想敵国に超兵器を贈るのか、と正気を疑うだろう。だがデベル家やカッセル家的にはヴェステル王家は”人類”の括りでしかない。両者の溝は深い。


「これは個人的な意見なんですけど、次代以降でヴェステルとフィーナの両王家で婚姻関係を結んでおいて欲しいんですよね。両国の足並みが乱れて良いことは何もないですから。ここでルドラン家にカッセル家の血が入っていると、実現性が増すじゃないですか。個人的にはそれもドグラス推しの理由なんですよね」


 酔っぱらいが好き勝手言う。


「あーまぁヴェステル王家はこう、何と言って良いか分からない複雑怪奇なコンプレックス抱えてますからねぇ。あ、この物言いブリュエット様にはナイショですよ。『不敬だよチョップ』されちゃうんで」


「8代国王バルテルの時のことをまだ引き摺っているんだね。ヴェステル王家」


 両手の平を上に上げて、呆れジェスチャーをするトリスタ。


「そりゃもう……『7年説得』の詳細アルトー家に残ってますよ、機会あったら見ます? 好きな人は好きな読み物ですよ」


「『7年説得』……国王なのに死んだ恋人セシリア・カッセルへの思い強すぎで、一生結婚しないと言い張って、7年かけてようやくってやつだよね。ヴェステルの家臣も本当に苦労したねぇ」


「まず、恋人というか正妻とされてますね。魔王城急襲作戦への出立直前に仲間と少人数で結婚式をしていたらしいので。7年説得の上結婚したナーシャ様なんて生涯側室として振る舞ってたんですよ。なまじ人類を救った栄光の物語のせいで代々物心着く前から語られて、300年経ってもヴェステル王家には鮮度の維持された拗らせが。非公式な酒の席で『所詮我らは側室腹』とか言うらしいっすよ。6代前からずっと正妻の子が王位を継いでるのに。あ、この言いぐさブリュエット様にはナイショですよ。ここまで言うと『不敬だよダブルチョップ』されちゃうので」


 言ってゴクリと飲むドミー、いいペースで、酒が消費されていく。


「ま、でもヴェステルはちょっと拗らせてる程度なんで、国内ヤバヤバのフィーナご愁傷さまです」


「何も言えないねー。でも、王族に不幸が重なったときに折り悪くヘルマンが食い込んじゃっただけだから」


「そうですよ。何十年かすれば立て直せます。でもなぁ、本質は王権強すぎ問題なんだよねぇ。中央集権は良いとしても、それと王家の血がリンクし過ぎなのよ。枢密会の権限も半端だし。中央に議会でも作るか。ちょっとトリスタ作っておいて」


「どこ斬ればできるの? 議会」


「斬っても出来ないですね」


「じゃ、無理」


「しかし、その王権強すぎも、本質的にはフィーナの直系を重視し過ぎ問題な訳でしょ。まず何だよ大聖女って」


「最初に大聖女って呼んだのウェンスト家じゃん。スコーネ連合に言えー。フィーナは一度も聖女なんて名乗ってないぞぉ。攻撃魔術の方が得意らひ」


 フィーナは純白のローブに白銀の杖という、少しそれっぽい恰好だっただけ。神官でもないし、回復に特化したヒーラーでもない。攻撃、回復、補助と何でもできるオールマイティーな魔術師だ。そもそも最大の活躍が魔王軍主力の足止めと殲滅な時点でお察しである。


「おいー呂律回ってないぞブラーウ。というかトリスタさん今更だけど護衛が飲んでて良いの?」


「大丈夫よ。ドグラスが真横にいるんだから、護衛なんて要らないって。それにこれでも気配はちゃんと察知できるし。ドグラスは手足を真っ直ぐ伸ばして緊張した感じで寝転がってるよ。心拍数もやや上がってる。エリーサ様はもう寝てる。ブリュエットさんは寝てるふりしてるけど、心拍数高め。緊張してるね、可愛い」


「くぅーブリュエット様っ可愛い。乙女かよ。乙女だよ。乙女にかんぱーい」


 カップをぶつけ合い、3人揃って杯を乾かす。


 外の馬が顔をしかめた。

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