第28話 俺が追放された理由

 俺は何故追放されたのか……


 うーむ。確かに俺は大臣は嫌いだ。だが大臣派以外の貴族は全員大臣が嫌いである。

 対魔族防衛を担い、中央の政治から外れた俺を中立派を敵に回してまで追放する理由……


 分からん。ギブアップという目でトリスタを見る。


「まず、姫様は15歳よね」


 トリスタの言葉に俺は「ああ」と頷く。俺もエリーサ・ルドラン王女殿下の年齢は知っている。


「となると、そろそろ結婚相手を選ぶ必要がある。大臣は自分の身内を王配に据えたい。具体的には大臣の甥っ子が年齢的にも丁度よいわ。対するホバート派はそれを何としても阻止したい」


 うんうん、そうだな。


「で、ホバート派の考える王配候補の筆頭がドグラス、貴方」


 トリスタが俺を指さす。


 は? 何で?


 困惑する俺に対し、ソニアさんが言葉を引き継ぐように、話を続ける。


「つまり、ホバート派がエリーサ様の夫にドグラスさんを推そうとしていたので、大臣が先手を打って追放したのです」


 何それ。全く何も聞いてない。


「初耳だけど」


「ええ。ホバート派の内部で合意を得た後で、ドグラスさんに話を持っていく予定だったようです」


「それで、何で俺なの?」


「それが分からないのドグラスぐらいだよ。まず、第一王位継承権者である以上、国外の人間はあり得ない。国内の貴族から選ぶ。ここは良い?」


 俺はトリスタの言葉に頷く。外国から迎えたら夫の実家から内政干渉されること請け合いである。


「国内のコンセンサスの取りやすさを考えると、ホバート派は自派閥の人間よりも中立派の人物を推すのが妥当だよね」


 ほうほう、そんなの考えた事もなかった。やっぱり俺って領主向いてないな。


「当然、中立派でも相応の格がある家でないと駄目。この時点でウジェーヌ家、デベル家、カッセル家しかない。ウジェーヌには独身男性は居ないわ。結論、うちの弟とドグラスの2択」


 テベル家に未婚の男性はトリスタの弟アルガスだけ。彼はまだ11歳だ。ちょっと若過ぎる。それに姉が強過ぎるせいか、少し気弱なところがある。いい子だけど、正直言ってエリーサ様の夫には向かないだろう。

 そしてカッセルにも未婚男性は俺ぐらいだ。


「と言うことで、消去法でドグラス。フィーナ国内では随分前から最有力候補と見られていたよ。ドグラスに縁談とか全然来なかったでしょ? みんな王配候補だと分かっているから対象から外してるんだよ」


 衝撃の事実である。いや確かに、縁談って来たことないなー俺モテないなーと思ってはいた。

 魔術馬鹿だから人気ないのだろうと適当に思っていた。


「なるほどなぁ……」


 俺はしみじみと呟いた。目からウロコだ。


「ということで、無理矢理でなければエリーサ様に手を出して良いですよ。エリーサ様が大きなお腹でドグラスさんと一緒に帰国したら大臣派詰みなので」


 ソニアさんが親指を立てて笑顔で言った。


 そこで"ガタッ"と椅子の動く音がする。ブリュエットさんが立ち上がっていた。


「そんなの! 駄目です!!」


 ビシッと言い切る。真剣な瞳に強い意志を感じる。


 うん、そうだ。大臣派を潰すのに良いから孕ませちゃえなんて、女性を適当に扱いすぎである。ブリュエットさんの義憤は尤もだ。


「ブリュエットさんの言う通りだ」


 俺はブリュエットさんに賛同する。


「残念。まぁそれは半分冗談だとして、一つお願いがあります。ドグラスさん、エリーサ様に魔術を教えてくれませんか?」


 なるほど、これが今日の本題か。


 確かに魔術についての教育はするべきだろう。あのままでは危険過ぎる。うっかりミスで都市を灰燼に帰したりしそうだ。


「分かった。冒険者やりながらで良ければ、それは引き受ける。」


「ありがとうございます。私だと魔術に関しては少し力不足で。とても助かります。法律やら経済やらは私が教えるので」


 ソニアさんが頭を下げる。


 と、いう事でエリーサ様に魔術を教えるというミッションが加わった。

 彼女を育て上げれは対魔族戦力としても大いに役に立つだろう。王女を戦場に立たせることはまずないにせよ、万が一に備えるのは良い事だ。

 とても有意義な仕事である。



――――――――――――――――


 読んでいただきありがとうございます。

 真のへっぽこは主人公でしたとさ。

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