第25話 至天杖
「ううっ、どうしよう。謝ったのに」
部屋に戻ったエリーサは、オロオロしていた。
「エリーサ様、大丈夫です。ちょっと邪魔者が居ましたが、まだまだ嘆く段階ではないです。ヴェステルに雇われると言っても今はまだ前段階の等級上げです。全然行けます」
ソニアは親指を立て、エリーサを励ます。だがエリーサの表情は曇ったままだ。
「でも、色仕掛け? も効かなかったし」
ソニアが選んだ水色のワンピースで、ソニアの指示通りのポーズで謝ったけど、駄目だった。
「いや、前屈みの姫様にドグラスはそれなりに動揺してましたよ」
トリスタが冷静な口調で所見を述べる。エリーサの胸は巨乳という程ではないが、大きい方だ。フィーナ王国ではそのぐらいが一番男に受けると言われている。
「ほら、
「そうだね。頑張るしかないもんね。これからはどう動くのが良いのかな」
「とりあえずは単純接触効果を狙っていきます」
「たんじゅんせっしょく?」
「はい。なるべく一緒に居て、たくさん話すのです。親しみを覚えて貰いましょう。ドグラスさんは追放されて少し拗ねていますが、エリーサ様のことは幼少期からご存じです。ぽっと出の女に負けたりしません。落として連れて帰りましょう」
「うん。頑張る!」
エリーサが元気な声を出す。
「さ、じゃあ明日からの方針も決まったところでお勉強の時間です。今日はフィーナの法制度の概要の続きにしましょうね」
「ふぇっ、法律よく分からない……」
「そんなに難しい話じゃないですから、気軽に聞いて下さい。無理せず頑張りましょう」
ソニアが優しい笑顔でそう言った。
◇◇ ◆ ◇◇
翌日、俺達6人はグリモルの森の入口にいた。
朝宿の入口に行くと、エリーサ様達3人はきちんと森に入れる服装で待っていた。
具体的にはズボンにシャツ、
歩きながら依頼内容について説明もした。
「つまり少し強いザコを探して倒すってことだよね」
トリスタが依頼内容を端的に纏める。
「そうそう。本来は新兵でも倒せるモンスターしか居ない森なんだ。新兵が死ぬレベルのが居たら駆除する」
正直言って簡単な仕事だ。
唯一気になるのはエリーサ様が手に持っている杖が至天杖に見えること。普通にトントン地面に付いて歩いている。
大聖女フィーナの使った杖である至天杖は王権の象徴だ。神が直接創り出したとされ、半ば信仰の対象にもなっている。
それを歩行補助的な感じで使う訳はないと思うが、どう見ても至天杖である。
「あの、ドグラスさん、あの銀色の杖って……」
ブリュエットさんはずっとソワソワしていたが、意を決したように聞いてきた。
気持ちは分かる。300年前、魔族との大戦において人類を救った杖だ。フィーナ王国民ならずとも、その力は知っている。
「至天杖ですね。どう見ても」
とはいえ、気にしても仕方がない。エリーサ様は正統な至天杖の所有者だ。地面に付こうが、洗濯物干しに使おうが、俺が口を出す事ではない。
「さて。行こうか」
俺は森の中へ足を踏み入れた
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