第23話 楽しいドミーさん

 マンティコア狩りを成功させた俺達がストラーンに着いたのは、西日が眩しい昼と夕方の境ぐらいの時間だった。


 さっそく冒険者ギルドに行き、レティルさんの所に報告に向かう。


「ドグラス様、ブリュエット様、ドミー様、お帰りなさいませ!」


 背筋を伸ばし、ハキハキした声でレティルさんが言う。最初の気だるげな雰囲気、割と好きだったのになぁ。


「紹介して頂いた依頼、無事に終わりました。マンティコアの毒袋です」


 俺はひんやりと冷気を纏った革袋をレティルさんに手渡す。冷却魔術で氷を作り、保冷しながら運んできた。


「もう驚きはしませんが、流石ですね。マンティコアは金等級のパーティーが何週間も森に籠ってようやく狩れる獲物なのに……。はい、確認致しました。保存状態も良く、完璧です」


 マンティコアの毒は薄めて薬草と混ぜると寄生虫に効く薬になるらしい。入手困難なため、報酬は高額だ。金貨のずっしり入った袋を受け取る。


「ありがとうございます。あ、次の仕事に良さそうな依頼とかありますか?」


「申し訳ないのですが、マンティコアのような打って付けの依頼はありません。困難なものというと……グリモルの森のモンスター駆除がギルドからの依頼として出されています」


 ああ、ガエルさん達がシルバリーウルフに襲われたあれか。ドラゴンがモンスターの生息領域を乱したことの後始末だ。グリモルの森は近いし丁度いい。


「受けさせて頂きます。流石に明日以降になりますが」


「ありがとうございます。そうだ、グリモルの森と言えばガエルさん達が改めてお礼を言いたいと探していましたよ」


 そう言えば彼らには特に話をせずに宿を移してしまったから、ギルドで偶然会うぐらいしか連絡手段がないのか。とは言え、わざわざお礼に訪ねて来て欲しいとも思わない。そのうち会えるだろうし。


「彼らも律儀ですね。気にしなくて良いから腕のリハビリを頑張るように伝えて下さい」


「承知いたしました。そのように。あ、それと等級ですが今回のマンティコアで銅に上がる筈です。レッドドラゴンも依頼ではないので報酬は出せませんでしたが、功績には含めさせましたので、まず間違いないかと」


 おお、それは嬉しい。


「ありがとうございます。新しい識別票を楽しみにしています」


「はい。まぁ、ドグラス様なら銅も一瞬で鉄になって、二瞬で銀でしょうけど」


 二瞬って何だろう。意味は分かるけど。


「では、今日はこれで失礼します」


「はい。ありがとうございました」


 レティルさんの愛想の良い声に送られて、ギルドを出る。



「さて、この後は宿に戻ってゆっくりで良いですかね」


「はい。ブリュエットさん、ドミーさん、改めて協力ありがとうございます。一人だったらもっと時間がかかっていた筈です」


 単独なら3日かそこらは森に籠っていたに違いない。それにブリュエットさんの宮廷魔術師としての身分のお陰で、宿屋のない村でも大歓迎で泊めて貰えた。本当に感謝である。


「いえ、正直楽しいからしているだけなので」


 そう言うブリュエットさんの隣で、ドミーさんもうんうんと頷いている。


 夕焼けの空を眺めつつのんびり歩いて、宿に戻る。夕食を一緒に食べる約束をして2人と別れ、俺は自分の部屋に戻った。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 部屋でぼーっとしていると、ドアがノックされた。「はい、どうぞ。開いてますよー」と返す。ドアを開けて入って来たのはドミーさんだった。


「ドグラス様、そろそろ夕食と思って呼びに来ました。ですが、その前に」


 そう言ってドミーさんは紙を広げる。何かの説明資料のような雰囲気だ。紙の上部には『ブリュエット様をオススメする理由』と大きく書かれている。


「ブリュエット様はとても良いです。まず美人! パッチリした目にすっとした鼻、輪郭も美しく各パーツのバランスも完璧です」


 紙に書かれた『①美人』という箇所を指差しながらドミーさんが高らかに語る。今語った容姿の特徴が文字でも書かれている。


「そして家柄!  ご存知の通りアルトー家は名家です。歴史も金も武力もあります。アルトー家の令嬢たるブリュエット様は教養も作法もバッチリです」


 『②良家のお嬢様』という箇所を指差す。その横には『380年の歴史』『領民人口20万超』『宮廷魔術師輩出率ナンバーワン』とアルトー家の売り? が列記されている。


 一体これは何だろう?


「魔術師として超一流! ドグラス様となら次世代の資質も期待できます!」


 『③最高位の魔術師』という箇所を指で左右になぞりながら言う。横には『14歳で宮廷魔術師! 最年少タイ記録!』『16歳で第二席! 驚異の実績』と書かれている。


「更に更に、あの小さな体!  童女を組みしだくが如き背徳感を味わえること請けあい アグッ!」


 ゴズッと良い音がした。


 『④とても小柄』を指差し語るドミーさんの頭部に、いつの間にか後ろに居たブリュエットさんの手刀が打ち付けられていた。


「ドミー!! 悪ふざけの水準が酷いっ!!」


 かなりの勢いで振り下ろされたチョップだったが、しかしドミーさんの指は下に動き『⑤優しい』を指す。


「こんな家臣を側に置いてくれる心優しい方です」


 ドミーさん、本当に面白い人だな。


 ④の横には服を作る際に使う採寸データらしき数字が並んでいるが、あまり見ないでおこう。

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