第18話 受付さんは権威に弱い

 俺はブリュエットさんと共にストラーンに帰ってきた。


 冒険者ギルドに入ると何だか皆そわそわした様子だった。

 俺が入るとグワッと人が集まって来る。

 真っ先に声を上げるのは受付のレティルさんだ。


「ドグラスさん! 無事で良かったです。ドラゴンの群れに一人で挑んだと聞いて心配してました。そちらのお嬢様もご無事で何よりです。ドグラスさんの行き先を答えたら飛び出して行かれたので、心配していました」


 本気で心配していた様子だ。ブリュエットさん共々、レティルさんには申し訳ない事をした。


「ご心配おかけしました。ドラゴンは無事に倒しましたよ」


「倒したときたか。あんた凄えな」


 そう言うのはドラゴンから逃げてたおっちゃんだ。無事で良かった。彼はブリュエットさんに視線を向ける。


「で、何だその娘? あんたの子供か?」


 ブリュエットさんのこめかみがピクリとする。うひぃ、アルトー伯爵家の令嬢に何を言うか。


「私は17歳ですっ!」


「あっ、申し訳ございませんです」


 ブリュエットさんの着ている服の"水準"に気付いたらしく、畏まるおっちゃん。ベテランだけあってその辺りの判断はできるようだ。


「こちらはブリュエット様です。彼女が援軍に来てくれたので、ドラゴンは楽に倒せました」


「ブリュエット……えっ? もしかして宮廷魔術師ブリュエット・アルトー様?」


 レティルさんが目を丸くして尋ねる。


「はい。ブリュエットです」


 レティルさんがストンと落ちる、いや立て膝を付く。そのまま頭を下げ、平伏。早い。


「えっと、そこまで気を使わなくても良いですよ。ドグラスさんに付き添ってるだけですから。立って下さい」


 ブリュエットさんの言葉にレティルさんはすっと立ち上がる。いつもより、背筋がピンとしている。

 この人、権威に弱いな。


「それでレティルさん、レッドドラゴンの死体はそのまま山の中腹にあるので、後はお任せしても?」


 レティルさんは「承知いたしました!」とよい返事。

 二人ではとても持てないから放置したが、ドラゴンの死体はそこそこ金になる筈だ。


「それと、アルトー家の御令嬢がドラゴンを討伐されたとなると、領主様にも報告を上げたいのですが、よろしいでしょうか?」


「いえ、少し手伝っただけなので、大きくしないで下さい。ドグラス・カッセルなら一人でも十分倒せる相手です」


 あう、家名がバレた。

 ブリュエットさんの言葉にレティルさんが、黙り込む。


「ドグラス・カッセル? 四肢の再生ができるレベルの魔術師で、レブロ辺境伯領出身で、カッセル……って、レブロ辺境伯ドグラス・カッセル!?」


 まぁ、もう隠せないか。仕方ないので白状する。


「元辺境伯ですね、地位は従兄弟のバレントに引き継いでますので」


 レティルさんがまたストンと立て膝を付く。この動き練習とかしてるのかな?


 後ろの方から「ドナル、本当に生かして貰えて良かったな」と呟きが聞こえてくる。


「あの、とりあえず立って下さい」


 レティルさんに跪かれても困る。


「承知致しました、ドグラス様」


 シュタッと立ち上がる。凄いな、動きにキレがある。


「そうだ、明日から、全力で等級を上げにかかろうと思います。なので、困難な依頼あったら紹介して下さい」


「事情は分かりませんが、承知致しました! 不肖レティル微力を尽くします!!」


 レティルさん、口調まで変になって……。

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