第11話 受付さんの営業スマイル
俺は重くなった荷物に苦労しつつ、ガエルさん達と共に冒険者ギルドに帰り着いた。
ホールはいつも通りガヤガヤしている。俺達は依頼の完了報告のために受付へ向かう。居るのはいつもの受付嬢さんだ。
「あ、ドグラスさんだ」
受付嬢さんがカウンターから出てくる。何だろう。
「ドグラスさん、これを」
差し出されるのは黄色っぽい金属の札、真鍮の識別票だ。
「おめでとうございます。木から真鍮にランクアップです」
「えっ、もうですか?」
鉄蜥蜴狩りの成功を報告するのはこれから、現時点では俺はゴブリン狩りの依頼1件しかこなしていない。
「普通はもっとかかるんですけどね。正直言うと『木』はすぐ死ぬ新人が多いから識別標代を節約する為に設けてあるので、ランクアップ条件は『すぐには死ななそう』だけなんです。ハイオーガ倒すし、絡んできた
なるほど。確かに簡単に死ぬつもりはない。
「ありがとうございます」
俺は真鍮の識別票を受け取り木製のそれを返す。
「銅に上がるにはちゃんと実績を積む必要がありますからね。頑張って下さい」
俺は素直に「はい」と返す。
新しい識別票をまじまじと眺める。うん、ショボい木片に比べれば大分立派だ。かなり嬉しい。
「ドグラスさん、おめでとうございます。僕達は4ヶ月ぐらいかかりましたよ。木から真鍮まで」
パチパチと手を叩き、ガエルさんが祝ってくれる。
「ああ、そう言えばガエルさん達と依頼受けてたんでしたね。ガエルさん、依頼はどうでした」
「無事に鉄蜥蜴を狩って来ました。あと、蜥蜴とは別にこれを」
ガエルさんはサンドワームの外殻を1枚受付さんに渡す。
受付さんは「重いっ、何だろこれ」と言って、受け取ったそれを傾けたり、回したり、光に翳したりして観察する。
「こっ、これサンドワームの金属殻っ!!」
受付さんの大声がホールに響き渡る。
「はい。サンドワームです」
「死体を発見したんですかっ、状態は?」
受付さんは慌て気味だ。サンドワームの死体はトータルでは相当な金になる。
「いえ、死体を見付けたのではありません。その、生きてるのに襲われまして。でもドグラスさんが魔術で倒してくれました」
「はぁ!? 倒した? サンドワームですよ。ハイオーガとは訳が違うんです。いくら何でも嘘でしょ。この厚い金属外殻を撃ち抜かなきゃ倒せないんですよ!?」
「嘘じゃないです。ドグラスさん凄いんです。侵徹作用付きの爆裂魔力槍でズカッバコーンって」
コレットさんが受付さんに反論する。
別に誇りたい訳ではないので、死体見付けたでも倒したでも構わないのだけど。
「またまたーならこの外殻、貫通してみて下さいよ」
カッカッと金属殻を叩きながら受付さんが言う。
「良いですよ。本当なんですからっ!」
コレットさんがムキになっている。いやまぁ実演しろと言うならやりますが……。
「はぁ……分かりました。ここじゃ建物壊しちゃうので外に行きましよう」
「良いですよ。見物です」
よくわからない流れで、5人でぞろぞろと外に出ていく。そして「何か面白そーだぞ」とか「今度は何の催しだ」とか言いながら、余計な人々も付いてくる。
「えっと、受付さん」
「レティルです、名前」
「レティルさん、その金属殻を地面に置いて下さい」
「いいですよ」
金属殻が道の真ん中に置かれる。サクッと終わらせよう。
「レティルさん、危ないので下がって下さい」
レティルさんは素直に後ろに下がる。
よし、やるか。俺は身体強化魔術を使って跳び上がると擬似質量槍を構築する。当然だが危険なので爆裂はなしだ。
金属殻に向け、魔力槍を撃ち下ろす。
魔力槍は金属殻に命中し大地を叩く。腹を揺らす轟音が響いた。
俺はスタッと着地する。金属殻には大きな穴が空いている。
「ふぇっ」
腰を抜かして、レティルさんが尻もちをつく。スカートの奥に白い下着が見えてしまう。目を逸らしつつ、手を差し伸べ引き起こす。
「大丈夫ですか」
「えっ、ええ」
コレットさんが金属殻に近づき、持ち上げる。
「ほら、バッチリ貫通してますよ」
ギャラリーから「やべー何だよあの音」「攻撃力も凄いが、ジャンプしてからの一瞬で魔力槍作ってたぜ」「ドナル、生かして貰えて良かったな」と、色々声が上がる。
「本当だ……凄い」
レティルさんが俺の方に向き直る。
「ごめんなさい。疑って失礼なことを」
ぺこりと頭を下げる。
「いえ、お気になさらず。謝る必要なんてありませんよ。それより本題の鉄蜥蜴の皮に戻りましょう」
「あ、そうですね。分かりました。中へどうぞ」
ぞろぞろと、ギルド内へ戻る。
大きなテーブルの前に行き、ガエルさんが鉄蜥蜴の皮を広げた。
レティルさんが皮を検品する。
「凄い。腹側から一撃で仕留めてる。文句なし、最高の状態です」
どう倒したかまで見抜くとはレティルさん凄いな。確かな知識を持っている。
「ドグラスさんが一瞬でやっちゃいました。ズサーッて蜥蜴の下に滑り込んで一撃です」
「やはり、そうですか」
レティルさんは俺に近付くと手をギュッと掴んだ。
「ドグラスさん、これからもどうぞ宜しくお願いしますね」
全力の営業スマイル、作り笑いも美人がやると画になる。初対面、冒険者登録時の無愛想とは別人のようである。
本当に現金な人だ。ある意味真っ直ぐで好ましい。
2回目の依頼も無事に終わった。良かった、良かった。
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