第10話 鉄蜥蜴狩りの筈でした
野営地点から更に歩いて山を一つ越え、俺達は目的地へと辿り着いた。俺が数日前に突破した荒野、ベトルゴ平地の東端部に当たる場所だ。
つまりは岩と土と砂ばかり。
「到着しましたね。早速捜索を始めましょう。見付けたらドグラスさんは攻撃役をお願いします」
「ええ。任せて下さい」
土埃の舞う中、捜索を開始する。鉄蜥蜴は岩山に横穴を掘って巣にする。目を走らせそれらしき穴がないか探す。
足場の悪い岩場を歩き回り、疲労が溜まってきた頃、見付けた。岩山にポッカリ丸い穴が空いている。
「よし、行きます」
ガエルさんとロバーさんが2人が並んで先頭に立ち、その後ろに俺、最後尾にコレットさんの順で進む。
穴まであと10メートルぐらいの距離に来たとき、のっそりと巨大な蜥蜴が穴から現れた。鉄蜥蜴に間違いない。
鉄蜥蜴を皮目的で狩るなら狙うのは腹だ。体の下で防御の必要性の低いそこだけは柔らかく、最小限の攻撃で仕留めることができる。隙を見せたら攻める。
前衛の2人が武器を構える。鉄蜥蜴が警戒した様子で口を大きく開け、尾を地面に叩き付け、威嚇してくる。
「俺とロバーで抑えます。その隙に詠唱ーー」
よし、前衛2人に注意が向いた。俺は身体強化魔術を自分にかけると横に飛び出して鉄蜥蜴に向けダッシュ。スライディングで蜥蜴の下に入り魔力刃を生み出して腹を縦に切り裂く。
そのまま横に転がって鉄蜥蜴の下から出る。
内臓を寸断された鉄蜥蜴の四肢から力が抜け、倒れた。血が地面に広がっていく。
「えっ?」
なんかガエルさんが啞然としている。ロバーとコレットさんも固まってる。
「構築魔術……あんな一瞬で」
コレットさんが呟く。
魔術には
構築魔術が使えると戦闘タイプの魔術師として一人前と見られる。詠唱魔術の方が効果は安定しているし、魔力効率も良いのだが、戦闘中は早いのが一番だ。
冷静に考えたら、俺が下げてるのは木の札だもんな、構築魔術を使って驚かれるのも無理はないか。
「成功ですね。腹部への最小限の攻撃で仕留めたので、良い皮が取れますよ」
「え、ああ、そうですね」
「では、皮を剥ぎましょう」
とその時、地面が揺れた。地震か?と思ったが、違う。ゴロゴロという独特の小刻みな揺れ、これはーー
破裂音がして、土や砂利が空に舞う。土煙と共に地面の下から巨大な魔物が現れた。
やはり、サンドワームだ。全長30メートルから50メートル、直径約3メートルの超巨大芋虫である。体の表面はウロコ状の硬い金属殻に覆われ並の攻撃は通らない。かなり強力な部類のモンスターだ。
こんなのに会うなんて凄いな。
「さ、サンドワーム……こ、コレット君だけでも。ドグラスさん! この娘連れて逃げて下さい!!」
悲壮な声でガエルさんが言う。ロバーさんも引き攣った顔で斧を構える。
「いや、大丈夫ですよ。サンドワームなら倒せます」
しかし、一緒に来て良かった。ガエルさん達だけなら死んでいただろう。
「は? サンドワームですよ?」
ガエルさんが疑問の声を上げるが、流石にこれ以上お喋りをしている余裕はない。サンドワームは俺達と鉄蜥蜴をまとめてランチにするつもりだ。
俺は魔力槍を構築する。擬似質量でコーティングした爆裂魔術を槍状に成型、それを3発。
サンドワームが巨大をくねらせ、飛び掛かってくる。
魔力槍を斉射する。頭部に1発、胴体に2発、狙い違わず命中する。魔力槍は擬似質量による侵徹作用でサンドワームの外殻を穿ち、体内で爆発を引き起こす。
轟音と共にサンドワームの頭が潰れ、胴が3つに千切れる。
巨体が落ち、地面を揺らす。
「はい。倒しましたよ」
「……あ、ありがとうございます」
腰を抜かしてへたり込んだガエルさんが、放心状態でそう言った。
「す、凄い。完全に上位宮廷魔術師クラスです……こんなの初めて見ました」
コレットさんが驚いている。確かにサンドワームを瞬殺できるレベルの魔術師は少ない。
しかし、それはそれとして
「さ、気を取り直して皮を剥ぎましょう。それで、依頼主が欲しいのは皮だけですよね。なら肉は食べても問題ないですよね?」
俺はるんるんでガエルさんに聞く。
「へ? 鉄蜥蜴って食べられませんよね?」
はて? この辺では食べないのだろうか。まぁ食文化は地域によって違う。俺も昔遠方からの旅人が菜の花を食べるのを見て驚いた記憶がある。油の原料で食べるものではないと思い込んでいた。
ここは隣国、そういう事もあるだろう。
「とても美味しいですよ」
「焼いても硬くて食べられないと聞いたことがありますが」
「ああ、それは普通に焚き火とかで焼いた場合です。鉄が溶けるぐらいの高温で焼くと美味しくなります」
「そんな高温……いや、分かりますドグラスさんなら魔術でできるんですよね。想像を超えた調理ですけど」
ああ、そうか確かに普通そんな高火力で焼いてみない。言われてみれば誰が最初にそんな調理方法を試したのだろう。その変わり者のお陰で美味しいものが食べられるのだ、ありがたいことだ。俺は名も知れぬその人に感謝する。
「ええ、調理は任せて下さい。皆で食べましょう」
◇◇ ◆ ◇◇
皮を剥ぎ終えると既に日が傾いていた。丁度良いので鉄蜥蜴の巣穴で野営をする事にした。
魔力刃でスパスパ解体した肉を石の上に並べ、高火力の火炎魔術で焼く。
焼きあがったら塩を振って完成だ。
「さ、焼けましたよ。食べましょう」
口に放り込み噛み締める。甘みのある肉汁が溢れ、旨味が口に広がる。美味しい。
「ほんとだ、おひしい」
口に肉を入れたまま驚きの声をあげるコレットさん。そうだろう、美味しいだろう。
「これ、最高のステーキですね。牛や羊よりずっと美味しい」
「だな! うめー」
ガエルさんとロバーさんも気に入ってくれたようだ。良かった。
「そう言えば、サンドワームの死体はどうしましょうね。とても持てないけど」
サンドワームの外殻は資源になる。捨て置くのは惜しい。
「証拠に1枚だけ持って帰りましょうギルドが回収班を出してくれると思います」
「なるほど。それは良いですね」
さて、肉は沢山ある。もう1枚頂こう。ほんと、誘って貰って良かった。
悪くないな、冒険者。
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