第9話 初めてのパーティー

 初仕事の翌日、俺はやはり朝から冒険者ギルドに来ていた。


 昨日ある程度稼いだとはいえ、コンスタントに仕事があるかも分からない。休んでいる暇はない。


 掲示されている依頼を眺める。新人である俺に受けられる依頼は少ない。

 手頃な討伐はなさそうだ。薬草でも取るしかないか……


「魔術師さん、暇ですか?」


 考えていると、不意に声をかけられた。腰に剣を挿した若い男性冒険者だ。19歳ぐらいだろうか、短い黒髪に少し低い鼻、どこにでも居そうな青年だ。

 その後ろには青髪の青年と金髪の少女がいる。青年は斧、少女は杖を手にしている。たぶんパーティーというやつだろう。


「依頼を見てたところですが、まぁ暇ですね」


「そっか。ねぇ、魔術師さん強いんですよね。臨時で一緒に依頼やりません?」


 おお、内容次第だがありがたい誘いだ。彼らの首に下る札は銅、彼らと一緒なら新人には受けられない依頼も出来る。


「どのような内容ですか?」


「鉄蜥蜴狩りです、移動があるから4日ぐらいかかるかな」


 ほう、鉄蜥蜴とな! にわかに心が踊る。その名の通り鉄のように硬い皮を持つ大蜥蜴なのだが、肉を焼いて食べるととても美味しい。大好物だ。


「生捕ですか?」


「生捕!? いや、そんな無理な依頼じゃない。依頼主は鉄蜥蜴の鎧を作りたいそうで、狩って皮を剥いで持って帰る任務です」


 よし。なら肉は食べて良いだろう。


「私で良ければ是非とも」


 俺はブンブン頭を縦に振った。


「よし。俺はガエル、剣士をしている。後ろの2人は斧使いロバーにヒーラーのコレットだ。俺達だけだと少し攻撃面で不安だから、ありがたい」


「魔術師のドグラスです」


 右手を差し出すガエルさんと握手。


 そんな流れで俺の2つ目の仕事は蜥蜴狩りとなった。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 俺は依頼に誘ってくれた冒険者達と共に鉄蜥蜴の生息する岩山へ向け出発した。


 街道から外れ草原を歩き続けて、日が暮れてきたので野営の準備を始めた。

 夕焼けは山の端に僅かな朱色を残すのみとなり、星がぽつり、ぽつりと輝き出していた。雨は降りそうにない。野営日和だ。


「あ、火なら起こしますよ」


 俺はさっと呪文を詠唱し、魔術で薪に火を付ける。すぐにパチパチと火が燃え上がった。

 

「おー、火炎系の魔術が使える人がいると楽ですね」


「ほんとだね。私も火が使えるようになりたいなぁ」


 ガエルさんの言葉に少し無念そうに返すコレットさん。


「火は苦手ですか?」


「はい。というか攻撃全般が苦手で、回復魔術と支援魔術しか使えません」


 ヒーラーというのは回復や支援を得意とする魔術師の俗称だ。

 攻撃系の魔術は苦手という人は時々いる。ついでに言うと攻撃系しか使えない魔術師はもっと大勢いる。


「回復の方が市中にも需要があって良いですよ」


 攻撃魔術と違って診療所とかでも働き口がある。よく考えたら俺も回復は使えるのだから、その手もあったな。


「なーなー、ドグラスさんは何で冒険者になったんだ?この辺の出身じゃないよな」


「おいロバー、不躾ぶしつけだぞ」


「大丈夫ですよガエルさん。ええ、フィーナ王国の出身です。端的に言うと故郷に居られなくなりまして。流れ着いて食うために冒険者に」


「そっか。問題を起こす人にも見えないけど、色々あるんだろうな」


「ええ。自分が何もしなくとも、色々起きたりします。まぁ脇が甘かったのです」


「ちなみに俺達3人は同じ村の出身な。俺とガエルは農家の3男、畑を相続できないから冒険者に。コレットは修道院で育った口だ」


 なるほど。技術も財産もない人が出来る仕事は傭兵か冒険者、と聞いたことがある。よくあるエピソードなのだろう。


「フィーナ王国ですか。行ったことないです。どんなところなんですか?」


「土地も豊かで、基本的には良いところですよ。最近は政治面で暗雲が立ち込めてますが」


「ヴェステルもいいとこだぜ。でもアレだよな、ヴェステルとフィーナってなんか仲悪いよな」


「大陸北部の2大国ですから。どうやっても色々あります。貴族の気質も全然違いますしね」


「貴族様が違うのか?」


 小首をかしげるロバーさん。


「ええ。よくヴェステル貴族は武人、フィーナ貴族は商人などと言われます」


 貴族の気質の差はフィーナ建国の経緯に由来しており根が深い。


 300年前、人類は魔族との大戦争に勝利したものの各国は疲弊していた。特に現在フィーナ王国がある地域は被害が大きかった。

 周辺国はどこもボロボロ。そんな状況は、ルドラン王国第一王子がフィーナと結婚したことで大きく動いていく。大聖女フィーナという絶対の武力を手に入れたルドラン王国に、その庇護を求めて周辺国が次々と合流していったのだ。

 それまで各々領地を守ってきた領主達は軍事面をフィーナ個人に頼りきり、領地の復興と発展に注力した。結果、フィーナ貴族は武を忘れ、領地経営の手腕こそが貴族の才覚と言う価値観を作り出していった。


「色々あるんですね」


 ガエルさん達は何かしっくり来なそうな顔をしている。まぁ、平民からすれば貴族の気質とかあまり分からないか。俺は分かりやすい方に話を戻す。


「あと、フィーナ王国も変なプライド持ってしまってますからね。大聖女フィーナこそ最強だとか」


 こちらは平民も含めてそうだ。

 単騎を以て魔王軍主力を食い止めた大聖女フィーナ、確かに彼女は勇者と並び立つ人類の最高戦力であろう。しかしそれは何百年も前の英雄譚だ。フィーナ王国は誇りを拗らせている。


「戦士バルテルだって強いぜ」


「ええ、もちろん」


 言いながら、荷物から堅焼きのパンと干し肉を取り出す。今日の夕食だ。

 齧り付き、唾液でふやけるまで噛み飲み込む。


 うむ、なんか冒険者っぽいな。

 

「皆さんは冒険者を始めて何年ぐらいなのですか?」


「2年半ぐらいです。ようやく中堅の仲間入りって感じです」


 少し誇らしげな笑顔でコレットさんが答える。

 ふむ、2年半で銅と。銅まで行くと受けられる依頼が多いから早めにそこまでは上がりたい。


 出来れば1年ぐらいで上がりたいなぁ。

 頑張ろ。

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