第5話:依頼準備ー! 狼少女と酒好き鬼を添えて

 執務室で破壊音を聞き続け……それが収まってからしばらく少し肌寒さを感じているとこんこんと扉が叩かれてそのままぶっ飛んだ。


「――ふっ主! 私に決まったよ」


 そして部屋に入ってきたのは、蒼い髪をしたウェアウルフ。

 彼女はそのまま笑顔で俺を押し倒してそんな事を言ってきた。

 腰程まで伸びるその髪が顔をかすめ少しくすぐったく、視界の端にはぶんぶんと降られる尻尾が見える。


「んぁそうか、よかったなリル……で、なんでドア吹っ飛ばした?」


「ん、早く伝えたかったから?」


「お前らしいけど、返事待てよ」


「わかった反省した……だから早く行こ?」

 

「…………行くとしても明日だぞ? 少し遠いところだから準備いるし」


 何故か妙に急いだ様子の彼女に起き上がりながらも答えれば、そわそわした様子でドアの方を頻りに確認している。


「そういや何で付き添い決めたんだ? ……結構時間かかってたが」


「公平だしじゃんけん――だからとにかく急ごう裏口からがおすすめ」


「……なん――」


 で……と伝える前に感じるのは匂いだけで酔いそうになる程に濃い酒の香り。それ同時に炎が地面を走り、ここまで一気に伸びてきた。


「――チッ、やっぱしぶとい」


「なぁ犬っころ、足止めするのんは違わへん?」


「違わない、冷凍保存は大事でしょ贅肉持ち」


「……なら可食部少ないあんたは、よう焼かなな?」


 一触即発、互いに熱気と冷気を放ちながらも――彼女たちは俺を挟んでにらみ合いを始めた。その中心にいる俺は、二つの気温に押し潰されそうになりながらも、なんとか静止するために言葉を探す。


「……主とのデートは邪魔させない」


「思い上がりは止めた方がええ思うねん、ほんまに惨めやわぁ?」


「ごめん、先に牛の討伐の依頼が入った――ちょっと待ってて、主」


「決まらへんかったさかいじゃんけんで二人を決めたのに、もう忘れたん?」

 

 上がって下がって色々大変な執務室……どっちかを選ぶ事なんて出来ないが、そもそもなんで中が一際悪いこの二人になるんだよ、恨むぞじゃんけん。

 しかし、このまま放置し続けるわけにも行かずこのままだったら大事な書類とかにも被害が及びそうだったので……俺はなんとか口を開く。


「リル、今度一緒に出かけるから今は落ち着いてくれ」


「!? …………ん、わかった!」


 俺の策があまりにも予想外だったのか、彼女はすぐに冷気を抑えて目を輝かせた。

そして、耳まで揺らして勝ち誇った笑みを浮かべている。


「旦那はん、うちにはあらへんの? ……流石のあんたでもそら許せへんけど、ほんまに犬っころを優遇するん?」


「朱瑠……は、晩酌付き合うぞ」


「……それはまぁ。旦那はん、嘘とちがうよね? うち好かんの知ってるやんな? ……嘘やったら、何するか分からへんよ?」


 一日でかけるぐらいだったらそこまでダメージはないが、彼女との晩酌はかなり重い。だからこそ、朱璃を抑えるために言ったのだが、彼女のその湿度が高く感情を感じさせないその言葉で逃げ道が消失した。


 言った手前、逃げるつもりはないし責任は取るのだが……ちょっと後悔しそうになった――これ生きてられるか? 俺。


「……で、他のメンバーは納得したんだよな? これ以上増えるは無しだぞ」


 ……この策も他のメンバーに聞かれれば、自分も我が儘言っていいってなりそうだから内緒にしてほしいし。何より……隠れてやったとバレたら後が怠い、この二人が言いふらすとは思わないが、これで後からもう一人は勘弁。


「渋々だけど、運勝負だからなんとか」


「了解だ……ま、いない間の管理はリリスに任せるとして、早く帰んないと不味いよな……」


「早く終わらせてデート行こ、だから今日出発」


「そやなぁ、うちも晩酌するなら速いほうがええし、今日行きたいで?」


「まあ……冒険者の被害も多いらしいし、速いに越したことないか……」


 ――このギルドにしかも俺参加の依頼だから少し警戒したが、よく考えればこの二人がいるなら余程の事じゃない限り大丈夫だろうし、むしろこの二人がピンチになる依頼とか普通にびびる。


「えっと――一応依頼の確認だが、今回のはランクCダンジョンの調査。依頼ランクはA+だな」


「……ダンジョンがC? それ本当にあってるの?」


「最後まで聞けって……なんでも二週間ほど前からCからB、そしてBからAのギルドの冒険者が次々といなくなってるらしいぞ」


「ちゅうことはついでに救助も依頼に入ってるん?」


「そうだな、無理でも遺品は頼むとのことらしい」


「んー了解やで、そやけど大変そうやな」


 そんなこんなで、依頼内容を確認し終わったの俺達は軽く準備した後にギルドがあるアルマの国から出発して、離れた森にあるとされるランクCだったはずの――それい霊の古墓こぼというダンジョンへと向かった。

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