第4話:ヴィルトゥスの皆々様


 久しぶりに数人ギルドに残ってたので、その日の俺は軽く会議を開き来てた書類をを確認することにした。


「というわけでリリス、最近の活動記録くれ」


「了解だ……特に目立ってたのを先に渡そう」

 

 いつもと違う真っ黒いドレスに身を包んだリリスから渡される活動記録の書類と、同じようにまとめられた被害届一覧。

 ギルメン達が受けた依頼に補足されるようにその時起こった事がまとめられているんだが……普通に見ただけで胃痛がしてきた。


 しかもご丁寧に今日いるメンバーの活動記録を渡してきたので……確認がてらに目を通した順に皆の名前を呼ぶ。


「えっとまずはジーク……鉱石龍の討伐、そしてガレム鉱区の半壊」


「脆いあそこが悪いと思うの」


 一番最初に呼ぶのはジーク。

 昨日の依頼で鉱石龍の討伐は聞いたが、その被害届はそんな感じで暫くそこの鉱区は復旧作業で忙しくなるそうだ。

 まぁでも、鉱石龍がいたままだったら採掘できる鉱物がなくなってたらしいので、これはまだセーフの類い。


「次に……リル、密輸組織の壊滅の依頼でちゃんと逃がさず倒したのは偉いぞ」


「……ん、当たり前。私はジークと違って常識人、依頼は完璧にこなすよ主」

 

 次に呼ぶのはリル・マナガルムという蒼い髪のウェアウルフの少女。

 どこかクールな印象を抱かせる150センチほどの身長の彼女は、ジークを引き合いに出しながらも少しドヤ顔気味だ。


「で――そこの組織の隠れ家付近を完全凍結、やり過ぎだ馬鹿」


「……コラテラルダメージだからせーふ」


「その致し方ない犠牲で、今そこら周辺冬と同じ環境だからな。暫く復興手伝うこと」


 こいつはいつも依頼をしっかりこなしてくるのだが、やり過ぎる気質があり……今回ものその延長。大方、敵の数が多かったとかで面倒くさくなったのか周囲の環境ごと変えたんだろう。


「そんな……手加減はしたはず」


「そこはもう調査済みだから諦めて行ってこい」


 冬と同じ……いや、それ以上の極寒環境のせいで動物が冬眠を始めたらしいしので、暫く被害先での狩人生活を頑張ってもらことにしたんだが……彼女は見るからに項垂れた。


「…………で、次――朱璃しゅり


「旦那はん、まさかうち? そこの犬っころと違うて、心当たりあらへんけど」


 項垂れるリルを横に次に呼ぶのは、桜国という国からきた鬼という種族の少女。

 もはや半裸と言える程に際どい格好をした着物という装いの朱色の髪の彼女は、全く気にせぬ素振りでケラケラと笑い、そのまま酒を飲んでいる。


「経費と偽って依頼先の酒場で大樽二十駄の完飲、挙げ句の果てにそれをギルド委員会に請求」


「バレへん思たんやけど、あかんかった?」


「せめてこのギルドに請求しろよ」


「…………ふふ、そんなん出来るわけあらへんやん。それより後で一緒に飲まへん?」


「仕事あるから無理だ」


「いけずやなぁ、あんたらしいけどね」


 此奴と飲んだら絶対潰されるし、ワンチャン食われるので絶対いやだ。

 そんな事を思いながらも、俺は……残る二人に目を向けて、キラキラと目を輝かせている紫黒髪の少女の方に目を向けた。


「次は私ですよね、主様!」


「いやまぁ、そうなんだけどさ……どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」


「だって、私は誰よりも忠実に依頼をこなしましたので! 壊してないし環境も無事、使い込みもしてないし何より主様の敵を全部殺してきましたから!」


「……そうだな、シオンが受けたのは護衛依頼。出てきた魔物に関してはしっかり討伐したっていう報告は受けたな」


「はい、だから褒めてください主様!」


「…………それだけだったら確かによかったぞ、だけど護衛対象半殺しはダメだろ」


「『あんな冴えない男なんてやめて、自分の物になれよ』と言われたので、ちゃんと九分殺しにしましたよ? でも、殺さなかったです!」


「もっとダメだろ……」


 此奴が理由なくそういうことをしないと思ってたけど、そういう事があったのなら依頼人には運がなかったってことで……。


 そして最後の一人に目を向けて……手の中にあった一際分厚い書類に目を通す。そして次第に頭痛を覚えて、被害総額に顔を青くし……そんな俺を見て笑う馬鹿に言葉をかけた。


「で、イザナ……お前は最近で一番依頼をこなしてくれて貢献してくれたよな」


「まぁな、ギルド最強の俺だからこそだろ?」


「あぁ、依頼件数二十件しかもどれもがA級越え、さすがはお前なんだけどさ」


「んじゃ、何か問題でもあったか?」


「ジル教会損壊及び。アルカディア城一部半壊、リシア魔導学園闘技場完全破壊による機能停止」


「やはは、あったなーそんなこと」


「――この問題児筆頭がよぉ、流石に暴れすぎだ――謝りに行くのが誰だと思ってんだよ」


「勿論、ギルマスだろ?」


「そうだよ。まあでも、お前等が無事に帰って来たからいいけどさ。とにかくいつも言ってるが被害を抑えること、難しい依頼だから仕方ないが周りのこと考えてくれ」


 そこで一旦会話は終わり、俺は今日来ていたダンジョン調査の依頼を確認する。内容的にはAランクのダンジョン、しかもギルド委員長の筆跡で俺も依頼に行くことと書かれており、かなり厄介そうな依頼であることが分かった。


「今回の依頼は俺が強制参加っぽいんだが、一緒に行く奴いる――」


 その言葉を俺が最後まで言うことは出来なかった。

 なぜなら、その瞬間リリスを除くこの部屋の面々が……戦い始めてしまったから。

 なんで戦うんだろう? と心底不思議に思いながらも、俺は壊れていくこの部屋を見ながら現実逃避を始めた。


「とりあえず……まぁなんだ終わったら呼んでくれ……」

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